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147 バインハウスでコンバイン!

「それで、どうするのユキちゃん。何とかするって言ってたけど」


 錬金工房の予定地に戻って来た。

 この予定地には、素材を植えるための畑も含んでいる。

 だから本当に、土地だけは広い。


「もちろん、家を建てるよ」


「……すごいね、誰かの家に厄介になると思ってた」


「信じてくれるの?」


 アーリャは一瞬硬直して、首を傾げた。

 私の問い掛けに、理解が及ばなかったようで。

 

「嘘だったの?」


「いやいや。普通は家を建てると言った所で、疑うでしょう」


「だって、スラ子ちゃんは当たり前な顔、してるよ」


 スラ子の方を見ると、馬をブラッシングしていた。

 ハミングも漏れ聞こえ、馬の機嫌も良い。

 確かに、変な事を言ったらツッコミが入る。

 信じたのは私ではなく、スラ子の方か。

 ちょっと悲しくて、苦笑い。


「ま、何でもいいや。最近、魔法の調子が良いから――」


 気合いを入れ直す。

 薬液と種子で満たされたフラスコを取り出した。

 特定の魔力により、性質が変化するプラントボトル。


「割れた所に近寄らないでね、っと!」


 大きく振りかぶって。

 プラントボトルを投擲。

 そしてフラスコは割れ……割れろよ!


 うーん、雑草生い茂る土の上に投げたのが良くない。

 鈍い落下音を鳴らしたフラスコが、傷一つ無く横たわる。


「それで? それで? 次はどうするの」


 アーリャが、わくわくした声を掛けて来る。

 ちょっと恥ずかしいから、ごまかさなきゃ。

 落ちている石を投げ、フラスコを割った。


「乱れ舞え! ジャック・バイン!」


 密閉された薬液が空気に触れ、種子を刺激して芽吹かせる。

 このままだと、蔦が上に伸びるだけだ。

 なので、魔力で成長の方向性を変化。


 蔦は勢いよく伸びる。

 太さは私の腕くらい。

 あるいは数本がより合わさり。

 あるいは枝分かれして形作っていく。


 床を、壁を、屋根を張る。

 ものの数分で想像していた家を創造した……いや、何でもない。


「あふー、久々に集中したわ。疲れた疲れた」


 ぺたんと座って、肩の力を抜く。

 どう? とアーリャを見るが、口を開けて固まっていた。

 指を突っ込んであげよう。

 ぐぎッ!

 ちょ、噛んだまま離してくれない。


ふふぉいね(すごいね)! ふひふぁん(ユキちゃん)ふぉんなふぉふぉ(こんなこと)ふぇひふぁんふぁ(できるなんて)!」


「何言ってるか分からないんだけど。てか、離して?」


 じゅるるっと吸い付きながら引き抜かれる。

 あっ、ちょっとゾクっと来たかも。


「ぷはあっ、意外とユキちゃんの指、美味しいね」


「……それはどーも」


 そこまで満足そうな顔をされたら、怒れないわ。

 どうも、ある程度の強さを持つ存在からすると、私の身体が美味しく感じるみたい?


「いや、そうじゃ無くて、作った家の中入ろう? 耐久性も見たいから」


「そうだねっ、スラ子ちゃんもいこ!」


「いまいくー」


 蔦の家で形にはなっているけど、まだドアすら無い。

 強度が不安だったので、平屋の形にしてある。


 工房への来客用に入口は広く、裏口もあり。

 そしてプライベートスペースは奥側に、必然的に以前の家と同じ作りになった。

 違いは、屋根がかまぼこでは無いくらいか。

 まあ、無難が一番だよね。


「ふわあ、結構広いね!」


「周りだけじゃあ無くて床にも注意してね、蔦に引っ掛かって転ぶかも知れないから」


「ころんだら、スラ子がうけとめる」


「お願いねっ」


 スラ子とアーリャは走っていく。

 蔦の家の内部を調べるべく、探検隊の二人は奥地へ向かった。

 中は窓から入ってくる陽の光だけで、薄暗い。

 後で明かりを取り付けないと。


 大体、思った通りに作れたかな?

 ドアは無いけど部屋分けはしてある。

 錬金術をするための部屋を作る必要があったから、家自体は結構大きい。

 私も家の中を練り歩く。

 案の定、丸みを帯びた床は歩きにくい。

 これは早急に何とかしないと、まともに生活出来ないな。


 一旦外に出て、丸太を取り出す。

 霧の森で私が意識を失っている間、スラ子が繁茂する木を伐採していたものになる。

 すぐに木材として使える状態なので、これを板材に。

 それを加工して適宜、床を張って……いや。

 これも錬金魔法で解決しようか。


「スラ子、ちょっと手伝って」


「なあに、どうしたの」


 私の身体に憑りついている分体スラ子が、ハーフサイズで降り立った。

 うむ、はっきり言って私ひとりでの加工は大変。

 丸太を一本持ち運ぶのも重過ぎて無理。


「これと同じサイズの丸太を三本ほど、輪切りにして家の中に運んで」


「ツーバイフォーじゃなくて、いいんだ?」


 変な事を知ってるな。

 ツーバイフォーは専用の設計が必要だから、今そんな建材を作られても活用できないよ。


「良いんだよ、床も魔法で張るから」


「ふーん?」


 よく分かっていない様だったが、指示に従って木材を切っていく。

 手を刃物に変え、樫のような硬さの木を豆腐のように扱う。

 先に家の中で待っていようと思った時には、もう出来上がっていた。


「早くない?」


「ふふーん」


 ご満悦スラ子。

 もしかして、また腕を上げたのか?

 そうだとしても、もう動きが見えないレベルになってるから分からんな。


 スラ子の鼻歌と共に、木材が運び込まれる。

 結構持ち込んだから、十分足りるはず。


「これでいいの?」


「うん、ありがとう。危ないから、アーリャも呼んどいて」


「はーい、呼んだ?」


「呼んだよー、こっちに来てね」


 呼ぶまでも無く、アーリャが戻って来た。

 床の蔦を操作して、椅子を作る。


「座って見ていてね」


 二人の軽い返事を聞き届け、肩を回して集中する。

 さてと。

 輪切りにされた木材に溶解液をかけて液化させるが、魔法で形状を維持する。

 次々と溶かしていくが、見た目には変化が無い。

 その木材繊維を家の床と壁に這わせ、凹凸が消えるように伸ばしていく。

 最後に凝固剤を混ぜ、錬成。


 一瞬で硬化した繊維は、ツルツルの床と壁に変わった。

 木材の色を残して柔らかい色になっているが、単色のままだと味気ない。

 明かりの無い薄暗さと相まって、不気味ですらある。


 蔦は生きたままだから、中を通る水分が断熱してくれるはずだけど。

 寒暖の程度次第では断熱材を後で挟まないとダメかな?


「はえー、錬金術って色々出来るんだね」


「うん、知っていれば、ね? だから、アーリャも勉強を――」


「あ、えっと、他に! 他に、何かやる事ある?」


 まあ、いいけど。

 やる気の無い時に教えた所で、覚えるのは難しいだろう。

 少しずつ、体感させながら覚えさせていけばいいや。


「色々と内装を整えるから、皆でやろうか」


 まずは天井に明かりをつけて、次にカーペット。

 持ってきた荷物はその後かな。




「つ、疲れた」


「はー、今日はもう動きたくないー」


「ふたりとも、だらしない」


 いやいや。

 体力的には平気ですよ?

 でもね、一日で全部やるものでは無いですよ。


「でも終わったね」


「ねー」


「あ、そうだ」


「どしたの、もしかしてスラ子の家が欲しいとか?」


「ちがう、うまのいえ」


 あー。

 そうか、厩舎も要るんだ。

 あれ、でも馬はギルドからの借り物だから返せば良いのでは?


「さーて、ユキ殿!」


「はい、何でしょうかアリシア殿?」


 ピっと背筋を伸ばされて、何の用?

 彼女は懐から一枚の紙を出し、私に見せて来た。

 急に姿勢を良くすると、胸が強調されて視線が吸い込まれるね。


「貴女を、この村のギルド支部長とし、運営する事を任せます!」


「はあ……? えっ、何の冗談?」


「こちらが任命書となります、閲覧するように」


 読むと、確かに同文が記載されている。

 任命者、水の精霊アンダイン。

 もしもし?

 ブルーキューブを出して、通話を試みる。


『アン、これどういう事?』


『どれよ……はいはい、それね。ふふっ、ユキはおかしいと思わなかったのかしら?』


 ケット・シーの言葉が思い起こされる。

 この精霊がおかしいのは、今に始まった事では無い。

 アンの言葉通りに考えるなら……?


 現地に錬金術士の責任者がいるなら、限定金資格を拝借する必要は無かったはず。

 つまり、最初から私を現地の責任者として派遣するつもりだったと。

 なので、話を振られた時点で疑うべきだったのか。


『あー、つまり。また騙されたと』


『栄転と言って欲しいわね、それじゃ』


 ……通話を打ち切られた。

 いや、やる仕事が変わらないなら構わないけど。

 ん? よく考えなくても、同じなわけないよね?


「アーリャは業務内容について、何か聞いてる?」


「あるよー? ほらこれ」


 アーリャの荷物から、数冊分綴った羊皮紙が出て来た。

 中には登録手続きだの、開業中の書類の書き方だの……。

 マジか、これ覚えるの?

 救いがあるとしたら、本部への申請書類はアンが請け負ってくれる所か。


 なので実質やる事は、村長であるマトリックへの書類提出。

 通常業務と、最低限の書類作成。

 素材畑の管理と、馬の世話もある。

 うわ、これだけでも面倒なんですけど。


「うー、ごめん。明日から始めよう、今日はやる気にならない」


「そうだねー、夜はゆっくりしようね」


 支部長と誇大な表現が使われているけど、実際の権限はほとんど無い。

 引き継げる人がいたら、その人に任せても良いのが救いか。

 それとは別に異邦審問官の仕事があるとか、私を忙殺する気なのか?

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