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144 しょうもない魔法の使い方とは?

「立ちションをします」


「なにいってんだ、こいつ」


 ……?

 分かりにくかったかな。


「ついに、ついに……おお、かみよ!」


 おお神よ、じゃあ無くてね。

 ふむ、確かに……なるほど納得と返されたら、私の方が何言ってんだこいつと突っ込んでいた。

 先手を打たれたか。


「違う、そうじゃあ無いんだ」


「ほかに、いみなどありはしない!」


 演劇をやりたい訳でも無いんですけどね?

 まずは私が冷静になって、話を聞いてもらえるように。

 はーっ、ふーっ……よし。


「私が以前に創作物を読んだ時、魔法を無駄に使う主人公と呼ばれた話があったんだよ」


「へーション」


「生活している時、ものぐさが極まって、ちょっとした物を取る事さえ魔法を使っていた」


「そうなんだちション」


 いや、その語尾は無理があるでしょう。

 まあまあ、どうせ今だけだ。


「それを私は無駄とは思わない。しかし、本当に無駄と呼ばれる魔法の使い方とは何か?」


 大仰に説明していく。

 ちょっと演技臭かったかも。


「しらねーション……え? そこで、たちション?」


「うむ、まあ見ていたまえ」


 大自然の中と言える程だが、今からする事を万が一にも人には見られたくない。

 恥ずかしいし。

 念の為、木々の奥まった所へ移動する。


 ワンピースをたくし上げ、下着をおろす。

 懐かしの立ちションポーズ。

 この姿勢で最後にしたのは、男性用の公衆便所だっただろうか。

 家では跳ねない様に座っていたからなあ。


「見られていると、出ないんだけど?」


「みてほしいの、そうじゃないの、どっちなの」


 そんなさあ、じーっと見られたら出ないわ。

 ……ふむ、人に左右されない集中力も場合によっては必要か。


 集中、そして力の弛緩。

 緊張を無くすため、呼吸を深くする。


 うん。

 いつも通り割り開き、出やすい様にする。

 しかし、このままでは内ももに伝ってしまう。


 ここ! ここ大事。

 出口部分にパイプ状の風魔法を纏め上げ、前にとぶように。

 むむっ、水が散り気味になって纏まらない。

 ならば。

 水流にも干渉し、目標としていた地点に落とす。


「ふう……どうよ? これが私の考えた、魔法の無駄な使い方よ」


「バカじゃねーの、バカじゃねーの」


 二回言わなくても。

 だがしかし、馬鹿にされる程の残念さを感じられたのは事実だ。

 それと、本当に聞きたい事はこれからの話。


「スラ子、私の魔法技術が上がってきている原因に、心当たりは?」


「……せいちょう、しているだけでしょ」


 おう、目をそらすな。

 言いたくないって事は、知っているのだろう。


 私の成長の見込みは肉体面だけだ。

 それも長期にわたって、少しずつの変化になるだろう。

 こんな数年で、目に見える魔力素養の変化なんて、起こらないはずなのだが。


「ねえ……ドレインの加減、たまにミスしているよね?」


「わからない。そのかげんも、かんかくしだいだから」


 以前から兆候はあった。

 手先の器用さが落ちたような気がしたり、体力の低下を感じたり。

 それは、一時的に魔力体の強さ(レベル)が下がっていたからでは?


「まあ、分からないなら別に良いや」


「え、いいの」


「不要な能力が削ぎ落とされて、魔力が伸び始めたって事でしょう」


「……うん」


「体力や器用さ、この辺りは元の能力に戻っている感覚はあるから。あまり、気にしなくてもいいよ」


「わかった」


 主に悪影響を受けたのは俊敏性と筋力かな。

 錬成結果にプラスアルファする運も下がってるかもしれないが、致命的では無い。

 少しだけでも成長の余地があるなら、それはそれで楽しみでもある。


 なんてね。

 スラ子、すまんの。

 この結果は、少し期待していた展開だった。

 能力の振り直しと、罪悪感から行動に影響を与えるまでがセットで。

 説明しなかったのは、弱体化したまま強さを戻せなくなる可能性から、積極的に行いたくなかった事。

 スラ子をどこまで信用出来るのか、当初は予測が難しかった事にある。

 今も全幅の信頼を置けるかと聞かれたら、素直には頷けないが。


「それじゃあ、馬車に戻ってアーリャの報告を待とうか」


 今、アーリャはブラッド人形を操って、目的地である開拓村の様子を偵察している。

 距離は一日分くらい。


 現地では、何が敵として立ち塞がるか分からない。

 なので、少しは慎重に立ち回る必要があるだろう。


「おおかみだよ」


 ウルフズピークに入って、すぐにこれか。

 本当に狼が多く生息しているんだなあ。


「スラ子が“おお、かみよ”とか、言ったからじゃあないの?」


「それ、おもしろくないよ」


 しょぼーん。

 なんて、そんな掛け合いをしている場合では無いか。

 私の耳にも入って来た、何かが藪を進む音が。


「一応聞くけど、馬車の方は大丈夫なの」


「へいき、あんしんして」


 道路脇に駐車している馬車には、馬とアーリャが残っている。

 馬は狼と戦うには力不足で、アーリャはブラッドを操っているから戦えない。

 いやまあ、スラ子が守ってくれると分かっていたから、バカげたことをやっていた訳だが。


「数は?」


「いっぱい」


 スラ子に任せても良いだろうけど、念の為にグロースバトンを腰から引き抜く。

 もう見えた。

 見知った、体高が腰の高さ程の狼。

 いや、もっと大きい。

 私の胸の高さくらいまである、通常個体と比べて倍以上。

 中々の威圧感。

 ここが狼の楽園か……体格を維持する為の餌はどうしてるのやら。


「行くよスラ子! バトンの電撃から併せて八手で詰み! いいね!」


 すでに目の前、先手を打つ。

 バトンを浅く持って振り下ろし、フェイントに引っ掛ける。

 横に飛んだ狼を確認してから、身体の勢いそのまま半回転。

 バトンの逆側を伸ばし、遠心力で加速させて狼を捉える。

 毛皮に衝撃は吸われるが。


「まずは一匹!」


 手加減無しの電撃が狼に流れ、痙攣の後に倒れ伏した。

 この大きさなら、気絶しただけかも?


「スラ子!」


「いけ、おおかみたち!」


 次いで、スラ子の攻撃が狼を襲い……?

 あれ、スラ子さん?


 完全に油断していた。

 狼が私の腕に噛みつき、数百キロの重りと化して地面に引き摺り下ろす。

 当然ながら私は踏ん張り切れず、うつ伏せに倒された。

 空いた方の手に持つ、バトンの電撃を食らわそうとするが。

 もう一匹がバトンを噛み、手から引きはがされる。

 逃げないと。


 まだ下半身は自由だ。

 起き上がるために、膝立ちになった途端、後ろから重量物が覆いかぶさって来た。

 もっふもふの狼がのしかかり、うつ伏せで正座した様な姿勢にさせられる。

 おしりに違和感。

 振り向くと、さっきまでは露出してなかった五本目の足が。

 剛直したソレを私のおしりにこすりつけ、準備を整えている。


「あのー、スラ子さん。助けてくれないの?」


「だいじょうぶ。じゃまがはいらないよう、みはってるから」


 何言ってんだこいつ。

 さっきまでの反省した様子とは何だったのか。






「大丈夫? 腕がもげてたりしてない?」


「しゅっけつも、きずもない」


 狼? 肉と毛皮になったよ。

 まだ、なめして無いけど。

 この大きさの毛皮なら、良い値段になるだろう……じゃあ無くて。


「併せて攻めようって言ったじゃーん!」


「まとめて、いちもうだじん。こうりつてき、でしょ?」


「いや、まあそうだけどさ」


 タンクが引き付けて、範囲攻撃でまとめて処理。

 結果だけを見たら、そうなるけど。


「あそこまで待った理由は?」


「よかったでしょ」


 うん、それはそう。

 本当に嫌なら、腰を振って軸をずらせば防げなくも無かったのだ。

 あんな美味しい思いをする機会は、そう無いだろうと思ってしまった。

 誤算があったとするなら、一匹だけでは終わらなかったことくらいか。

 あ、病気にならないよう念のためにポーションを飲んでおこうっと。


「それで、アーリャは戻って来た?」


 今は馬車への帰途についている。

 流石に時間を使い過ぎたので、偵察が終わっていてもおかしくない。


「いま、むらでたところ。ほら、みてみて」


 んー?

 見せられたスマートパネル。

 うわあ、内臓を圧迫されてお腹側にアレが浮き出ている。

 その顔には、必死に空気を吸おうと舌が出ていた。

 細かく荒い呼吸と流れ落ちる唾液、そして延々と続く甘い鳴き声。

 これじゃあ、どっちが犬か分かったものでは無いな。


「いぬエルフ」


「嫌な題名を付けないでくれませんか」


「くびわ、つける?」


「そういうのとは、ちょっと違うんだなー」


 あー、まだ腰が甘く痺れてる。

 スラ子に運んでもらわなかったら、しばらく地面に倒れたままだったな。

 それとも、巣穴に持ち帰られていたか?


「ところでさあ、何でタイミングよく狼が来たんだろう?」


「マーキングするなって、スラ子いったよね」


「あ、そっかあ」


 遠くの狼を即座に発情させるほどのニオイ、フェロモン的な何かがあるのね。

 そりゃあスラ子も忠告するわ。


「そうならそうと、先に言ってくれたらよかったのに」


「いっても、わからないから」


「いや! イったから分かったぞ、HAHAHA!」


 やべー、スラ子の方を見られない。

 すっごいイライラオーラが刺してくる。

 ごめんねー。

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