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141 魔法も科学もある、しかし永久機関は作れない

「ふふーん、どうよ!」


「どうって……本物?」


 町を出て、一日経過。

 トラタ君とは、あれっきり。


 人の目が無くなり、そろそろ開発成果を見せたくなった。

 その結果は……あまりかんばしくない。


「いやいや、本物はこんなに可愛くは無いでしょう」


「んー? 頭だけじゃ分からないよ?」


 着ぐるみの頭を手に持ち、見せる。

 一部で分からないなら、正体を見せましょう。


「ゴーレム、召喚!」


 しーん。

 片手を突き出して、威勢よく叫んだ私の声は、虚無に吸い込まれて行く。


「何も起こらないね」


「うん、だって。これから組み立てるんだもん」


「……え?」


「じゃあスラ子、手伝ってー」


「ういーっす」


 組み立てると言ったが、ほぼ完成している。

 身体と五体に分けたパーツを組み合わせ、すぐに終わらせた。


「さあ、起きて」


 横倒しになっていたゴーレムが起きる。

 それは、白くフワフワ。

 それは、二メートル半ほどの大きさ。

 それは、ずんぐりとデフォルメされた。

 二足で立ち上がった……白猫だ!


 中に人が入って居そうな着ぐるみ。

 だが、完全なスタンドアローンのゴーレム。


「ウイセラ! 挨拶してあげてー」


 私の声に応え、身体を傾げながら片手を上げて挨拶した。

 発声機能は無い。

 運動性能を上げるために、出来るだけ機能を減らす必要が有った。


「かわいー!」


 アーリャは、黄色い声を上げてウイセラに跳びついた。

 ふわふわの錬成キメラ毛皮に顔を埋め、強く抱きしめているがビクともしない。

 よし、バランスがきちんと取れている。

 人が跳びついたくらいでは倒れない。


「ユキちゃん、これなに? すっごい可愛いね!」


「ウイセラだよ。ねっ、ウイセラもアーリャを抱いてあげて」


 ウイセラは、こくこくと首を縦に振る。

 全身を毛皮に包まれたアーリャは、ずっとテンションの高い声を上げ続けている。


 これなに? と言われてマシンスペックを語ろうかと思ったけど、やめた。

 外殻はシン・セラミクスのハニカム多層構造で物理に強いとか。

 層の間に対魔法フィルターを挟んで耐久性を上げたとか言われても、興ざめだろう。

 ましてや、いくつもの魔獣皮革を錬成して、ふわふわ感と靭性を確保したとか可愛さが台無しである。


「ドクター、うごいたね」


「精霊界の技術が、こっちの世界で動くか疑問だったけど。まあ、何とかなって良かった」


 動力は精霊界で見た、魔力変換魔法陣が内部に仕込んである。

 なので、口は飾りでは無く、物質を食べたら魔力に変換して動いてくれる。

 メンテナンスさえ欠かさなければ、魔力切れの心配は無い。


「まずい、かもしれない」


「ん、どったの」


「スラ子、マスコットキャラクターのピンチ」


「あ、はい」


 そもそも、スラ子はマスコットでは無いでしょう。

 もっと、こう……何だろう?


「気にしなくても良いんじゃあないかな。なぜなら、スラ子は私の特別な存在だからです」


 そう言われて満更でも無い様子。

 え、マジで危ういとか思ってたの。


「アーリャも、いつまで抱き着いてるの」


「んー、ずっとー」


 何だろう。

 この、少し心が持って行かれた感覚。

 これが寝取られか、気分の良いものでは無いな。


「だいじょうぶ。ドクターはスラ子の、とくべつなオンリーワンだから」


 ありがとう、良い薬です。

 ふーんだ、私もスラ子とゴロゴロして遊んじゃうもんねー。

 ぼ、ごぼ……ちょ、息ができねぇ! 顔を覆うなよ!


「二人とも、ケンカ?」


 心配になったのか、アーリャが声を掛けてくれた。

 腕を伸ばすと引っ張られ、ずるずると身体を引きずり出される。


「うぇ、ゴホッ、ありがと。それで、何してたっけ?」


「すくなくとも、ケンカではない」


「そうだ、思い出した。ウイセラを作った理由だった」


「可愛いからじゃないの?」


「いやいや」


 ウイセラを見る。

 首を傾げて“大丈夫?”のポーズで、こちらを見ている。

 まだ学習途中のはずだけど、随分あざとい真似をするね。


「馬車を狙われるの、何とかしたいと思って」


「そういう仕事だって聞いてたでしょ」


「そうだけど。無理にする必要も無いから、護衛を用意しようかと」


 しかし、見ず知らずの人を護衛に雇うのは嫌だ。

 気を遣うし、好きな事が出来なくなる。


 ならば。

 自分で作れば良いじゃあ無いかと。


「それが白猫のウイセラなのだ」


「へー。それじゃ、この子強いんだ」


「もちろん。ウイセラ! あの木にキャットクロー!」


 ジャキン! と爪を出した。

 見た目とは裏腹に、機敏な動きを見せ――

 腕を振り抜き、木の幹を圧し折った。

 シン・セラミクス製の爪は、木なんて容易に切り裂く。

 切り裂く前に、勢いで折っちゃったけど。

 ……もうちょっと手加減を教えた方が良いかな?


「よくやった! 戻れ!」


 こちらに走り、戻って来る。

 いつも全力なのも、見栄えが悪いね。

 必要な時以外は、小走り程度にしてもらおう。


 まだ、走る勢いを止めない。

 そのまま私に向かい。


「ぐえ~!?」


 腹を、全力で打ち抜いた。

 腹部穿通性外傷、にはなって無い。

 私じゃあ無かったら、そのぶっとい腕の形に穴が開いてたぞ……!


 この野郎……いや、そうじゃあ無い。

 常に思考AIにランダム要素を加え、一定確率でバグ挙動をさせて心を再現させた。

 結果がこれである、辛い。

 こんなシステム、やめておけばよかった。


 地面に倒れ、悶絶を打っている私を見下す。

 そして、親指を下に……サムズダウンした。

“ウイに命令するな、変態め”

 何故か、そんな声が聞こえる。


「さあ、出発するよー!」


「じゅんび、オッケー」


 スラ子は御者台に乗り、アーリャも座席に座る。

 スルーですか?


「え……心配してくれないの?」


 殴られて、こんなに痛いのに。

 心も痛いわー。


「ユキちゃんなら、痛いだけでしょ?」


「うう、厳しい……」


 まあ、心配されないのも理由がある。

 爪を立てて殴ってきたようだけど。

 赤くなってすらいないから、見た目ほどのダメージは無い。

 ただ、痛みだけ据え置きなのが理不尽だと思う。


「ウイセラ……さん。馬車の護衛を、お願い出来ませんか?」


“良いだろう”とウイセラは軽く頷き、ゆったりと馬車へ向かう。

 なんでこんな偉そうなんだ。

 クソガキ感の強いアニメ声で言われたら、ちょっと興奮するじゃん?

 そう考えていたら、ウイセラが顔だけこちらに向け。


“少しは黙ってろ、性処理汚物”と凄んできた。

 あ、はい。すみません。

 もしかして、心の声が聞こえてらっしゃいます?

 ちょっと辛辣過ぎて、傷ついちゃうかな。


 うーん、せめてマシン三原則くらいは組み込んでおくべきだったか。

 でもなあ、イレギュラーを起こさないと劇的な進展は見込め無いし……。

 精霊界の術式を使ったから、精霊化してるのか?


「早く来ないと、置いてくよー?」


「おおっと、今行くから待って!」


 はあ、我ながら恐ろしい物を作ってしまった。

 人の目が気になるから護衛を作ったのに、これじゃあ余計に気になるよ。


 馬車を進んでいる間、ウイセラは馬の横を歩いて護衛を務めている。

 馬の方は、急に出て来た二足歩行の白猫が気になるのか、チラチラと見ていた。

 ウイセラは馬にお辞儀して、敵対心がない事をアピール。

 その内、慣れるだろう。


「はあ~、ウイセラちゃん可愛いねー」


 まだ言ってる。

 中身は毒舌なのにね。

 ああ、猫を被っているのか……?


「二人とも、ウイセラの声は聞こえて無かったの?」


「声? 聞こえてないよ、良いなあ声が聞こえるなんて」


「スラ子も、まったく」


 いや、聞こえて良い事なんて無いと思うけど。

 しかし、スラ子も聞こえて無いのは予想外。

 なら、意思疎通の手段は魔力や音波では無い?

 精霊関係って、何でもありな所があるからなあ。

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