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特に何事も無く帰ることが出来た。
目立っていたから変なストーカーだの誘拐犯だのが出るかと思ったがそんなことは無かった。
門番のおっさんに帰ってきたことを伝える。
「そのメイド服は目立つから今度出る時は着替えた方がいいぜ」
そういう大事な事は出かける時に言ってくれませんか。
館に戻って昨日と同じように夜を迎える。
ベッドに横になって寝るかっていう時に目が冴えてしまう。
突発的な衝動を抑えられなかった。
部屋の中に簡易調理台とオーブンを出す。
パンの生地を作ってしょう油を塗り、ベーコンを巻いて発酵。
割れ目を作ってから焼いて、一度取出してしょう油をもう一度塗って焼き色を付ける。
しょうゆ味のベーコンパン5個の出来上がりである。
使い終わった機材は全部仕舞った。
ベッドに座り、4個はベッドに置いて手元には紙包みされたパンが握られている。
調理の仕事をしないのはスキルでの自動作成しか出来ないので誰かの手伝いに入れないからだ。
レシピ通りの作成がされているので食べるだけで一定時間筋力が上がる謎の効力も付いているはず。
うん、現実逃避している。
しばらくしょう油味のものを食べてないなあとか考えていたら体が動いていた。
しょう油だっていつ補充できるか分からないので使うなら計画的に管理するべきものだ。
食欲に負けると抑えがきかなくなるのは悪い癖だなあ。
だが体は正直である。
口の中のよだれが止まらないから早速。
いただきま――
「はぐっ、んぐ、おいしー」
誰だこいつ!?
ピンクの髪をした女の子が私のベッドの上でベーコンパンを食んでいる。
いつの間にか居た事にびっくりしたが、それはそれ。
手に持ったパンを口に運ぶとしょう油を使った料理特有の落ち着いた気分になる。
はあ、しばらく食べてなかったからうまいわ。
半分ほど食べ進むと女の子はこちらをじっと見つめてくる。
あれっと思ってベッドを見ると置いてあった4個のパンが消えていた。
夜中にそんなに食べても大丈夫なのか?
こちらを見るその姿は、ピンクのツーサイドアップで座高が私より少し低い。
見た目は小学1年くらいだろうか。
成長期ってこんなに食べたかな。
「食べないの? ならそれもちょうだい!」
よだれを口の端から垂らしながら要求してくる。
いやまあ食べようと思ったらいつでも食べられるから上げるけど。
パンを渡す際によだれを拭いてあげると、いひひって笑ってありがと! ってお礼を言われた。
はぐはぐと食べる様子を見ているとベッドにパン屑がぼろぼろこぼれている。
これは寝る前にほろわないとダメだな。
食べ終わると女の子が手足を使ってがっちりと抱き着いてくる。
顔についたパン屑を拭いてあげていたらウトウトとして眠そうにしている。
ベッドが汚れているのでここで寝かせたくは無い、隣のベッドに抱っこして移動する。
頭を撫でながら寝かしつけてベッドに降ろそうと思ったが、張り付くように抱き着いて離れなかった。
寝ている間にマリーさんを呼ぼうと思ったんだけどなあ。
仕方ないので一緒に横になり身体を軽く撫でてあげる。
すると寝心地のいい場所を探すように胸に顔を埋めてきた。
目を瞑ったままなので無意識なのだろう、手で私の胸元を開けておっぱいを吸ってくる。
パンは普通に食べられるようだったから幼児退行でもしているのだろうか。
撫でていたらおっぱいの奥から何かを吸われる感覚がする。
私にとっては極微量の、普通の人には結構な量の魔力を勢いよく吸っていく。
吸精生物か。
魔物ならば討伐対象になる上級生物になるのだが。
知性のある人型の場合はどうなんだろう、普通に暮らしている分には問題ないのか?
まあ寝ている間にマリーさんが来て連れて行ってくれるだろう。
夜食も食べて横になったので眠気も増して来た。
あまり考えないようにして体温の高い女の子を抱きながら寝ることにした。
そして朝である。
開けた覚えのない窓から朝日が入ってきてまぶたを射す陽の光に目が覚めた。
女の子が抱き着いたままなのは変わらない。
だが目の前にマリーさんがこちらを向いて横になって寝ていた。
女の子を挟んで川の字のようになっている。
どういう状況だよ。
私が目を覚まし、もぞっとしているとマリーさんは目を瞑っていただけなのか目を開けて挨拶をしてきた。
こちらもおはようございますと返すと私とマリーさんは体を起こす。
マリーさんは女の子を連れていけなかったことを申し訳ないと断ってから。
「この子の部屋に連れていきたいのだけれど、いいかしら」
寝ている間ずっと抱き着いたままで離れなかったらしい。
私もこのままでは働けないから良いんだけど。
抱き着かれた状態で持っていくのは少し大変だ。
マリーさんの後ろをついて行って一階のまだ入ったことのない部屋に入室する。
上質ではあるものの色使いが子供向けでこの子の部屋である事が分かる。
ここまで歩いている間に起きたのか女の子が私の胸を顔でぐりぐりしていた。
気が付いたマリーさんが女の子に声をかける。
「べリア様、これからお勉強の時間ですので降りてください」
「やだ!」
一言だけ言って私にぎゅっとしがみ付いてくる。
すごい力で抱き着いてくるのでいつまでこの力を維持できるのか興味がわいてくる。
「マリーさん、そろそろ朝礼が始まりますけど行った方がいいですか?」
ああ、そうね。と思い出したようで今日は私を欠勤にするからここに居てねと言われた。
マリーさんが出ていく。
べリアと呼ばれたこの子は私達のやり取りを見た後、私に声をかけてきた。
「お姉ちゃんはどうしてそんなにオイシイの?」
なぜおいしいかと聞かれても答えに困る。
「それはね、私が特別な女の子だからです」
甘くてクリーミィ。
「そうなの? じゃあべリアの特別になってくれる?」
おっプロポーズかな?
でもマリーさんに怒られそうだから応えられないなあ。
「いい子にしてマリーさんに聞いてみたらどうかな?」
「うん、わかった! でもいい子ってどーするの?」
どうすればいいんだろうねえ、マリーさんは何て言ってたかなと答えを促した。
するとさっき聞いたことを思い出したようで。
「これから勉強だって言ってた、一緒にしよ?」
そう言うと抱き着いた状態から降りて手を繋いでくる。
そのまま私を引っ張って勉強机に座ると繋いだ手をぶんぶん振って来た。
「今日はなにを勉強するの?」
それを私に聞くのか。
いや知ってると思っているから聞いてきたんだろう。
「昨日はなにを教えてもらっていたのかな」
きのうはねー、えへへと笑いながらもったいぶってくる。
「教えてあげる代わりにちゅーちゅーしていい?」
吸精か、手を繋いだままなのは我慢できなかったからか。
指を吸われるのは見た目にあまり良くないが吸われること自体は問題ないからいいか。
いいよ、と答えるとやったあと喜んでくれた。
そしてグイっと手を引っ張られる。
そんなに強い力で引っ張らなくても吸わせてあげるのにと思ったが。
手、手首、ひじとどんどん引っ張って身体を持っていかれる。
あれ? あれれ?
そして両手でほっぺたを挟まれると。
おくちにちゅーされた。
まうすつーまうす。
「ちゅ、ちゅー……じゅるるっぢゅー……」
吸う時に唾液も吸っているのか水音が聞こえてしまう。
昨日よりも強く魔力を吸われていく。
まさか口からとは思わずに固まってしまう。
はがさなきゃ、きょかしたし。
吸いながらもこちらを見てくるべリアと目が合う。
その目にいやらしさは無く、甘えを帯びた目ではがす気が失せてしまった。
ノックの音が聞こえてマリーさんが入って来た。
マリーさんが入って来た。
えっこの状況で? 嘘でしょ?




