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138 強そうなトラ太

「あ、ユキちゃん起きた?」


「……寝たふりだったよ?」


 馬車の中。

 スラ子に身体を拭われ、身体は綺麗になった。

 しかし衣装には臭いが染みついている。

 洗剤を使って洗わないと。


 服を脱ぎ……あーあ、下着が少し伸びてる。

 デリケートだから、乱暴に扱わないでほしいものだ。

 もう、この世にいない人達に言っても仕方ないか。


 ショートパンツと、インナーが若干透けて見えるロングシャツを着る。

 うむ、やはり良い。

 動きやすいのは気分が上がる。

 胸がぱっつんぱっつんなのは、まあ仕方ないか。


「スラ子、髪切って」


 スラ執事には呼びかけず、居るはずのミニスラ子に声を掛ける。

 しかし、横やりが入った。


「ダメだよ、ユキちゃんは髪が長い方が可愛いのに」


「だって。ドクター、どうするの」


「あ、はい。じゃあ、このままで」


 個人的には、どちらでも良い。

 今の状態が好みに刺さっているとおっしゃるなら、断る理由は無い。


 じゃあ、どうしようかな。

 リボンを咥え、髪をポニーに整える。

 そして後ろでリボンを……あれ、上手く纏められない。


「ちょっと貸して」


 アーリャに言われたまま、渡したリボンで髪を纏めてもらう。

 うぎゅ、あだだだ。

 結構、毛根にダメージ来るなあコレ。


「どう? 似合ってる?」


「うん、可愛い。良く似合ってるよ」


「リボン? いがいだね」


「こういう所で女子力アピールしていかないと、どうにも男っぽく見られてね」


 私自身は男に見られても構わないけど、アーリャが奇異の目で見られるのは、かわいそうかなと。

 それとアーリャの母親に、一瞬で元の性別を見破られたのが心に引っ掛かっている。

 そこそこ真面目に女の子を演じていたつもりだったのに。

 でも、無意識に男っぽさが出ているとしたら治らないかもね。

 それはそれで良いか、個性と割り切ろう。


 ふー、少し落ち着いた。

 馬車の外を見ると、まだ警戒しているのか少年が馬車の外で随伴している。

 人が歩く程度の速さでゆっくりとした進行。

 んん……やっぱりニオイが鼻にこびりついている気がする、今日は湯船を作って入るか。


「ところでさあ、アーリャは何で助けに来てくれなかったの」


 てっきり、捕まってすぐに介入してくれるものだと思っていた。

 もしかして、何かあったのかと心配になったよ。


「だって、スラ子ちゃんが止めたらダメだって」


「え?」


「ドクターのしゅみ、うばったらかわいそう」


 いや、うん。

 否定はしないけど。


「それに、ちゃんと撮れたよ。見る?」


 肩を抱き寄せられて、スマートパネルをチラつかせて来る。

 あー、やっぱり女の子の柔らかさは安心するわ。


「いやいや、今見たら音を聞かれるでしょう」


 恥ずかしい音が少年に……。

 それと盗賊たちの声を聞かれる事になるから、追手が来たと思われそう。


「あ、そっか。それじゃ夜に見せてあげるね」


 実はそっちが本命では?

 なかなか良い趣味をしている。


「今度、アーリャも参加する?」


「それはヤダ。わたしはユキちゃんの可愛い顔が見たいだけだもん」


 真顔で否定されてしまった。

 ええ……そこは、さあ。うん、わたしもやるー。とか言う所では?


 ぐぬぬ、これが見解の相違という奴か。

 いや、アーリャに手を出す奴が現れたら我慢できるかという問題もある。

 多分、あらゆる手段を使ってぶっとばすかも。


「ね。ドクター、みてるとおもしろい」


「ね。これだからユキちゃん見てるの、止められないよね」


「……二人とも、悪趣味だよ?」


 また顔色がころころ変わっていたとか、そんな所だろう。

 ほんと、こういう所をわざわざ指摘されると恥ずかしいんだけど?


「はんせーしてまーす」


 二人でハモって謝罪しやがって。

 許せる!


「ここまで来れば大丈夫ですよ」


 外から少年の声がする。

 それでは、一度停めて休憩しようか。

 まだ、きちんとお礼もしてないからね。




「ボクはロストラータです」


 少年が、先に名乗ってくれた。

 赤い髪に、黄緑のメッシュが特徴的。

 いや、もっと特徴的な所がある。

 犬耳、犬尻尾。

 犬系の獣人なのである。

 性欲が強そう。


 腰に二本のナイフを携え、力よりも速さで相手を圧倒する戦い方か。

 小柄な体格の強みを生かしている。

 性欲が強そう。


「こちらはアリシア、私の嫁です」


「この子はユキ、わたしの嫁だよ」


「婿はいません。これで二人は、むこー見ず。なんちゃって!」


 バシィッ!


 顔面をスラ子が、後頭部をアーリャのハリセンが襲う。

 スラ子さん? フルスイングで目を狙うのやめてよね。

 全力で振りぬかれたから、メチャメチャ痛い。

 後先考えずにボケるんじゃあ無かったな。


「仲が良いんですね」


 そりゃあもう。

 ナカの良さには定評がありますが何か?


「ところで、あの。お嬢さんと執事の方は馬車の中に?」


 ……ん? ああ。

 助けたエルフお嬢様と、私の見た目が繋がって無いのか。

 今は比較的ラフな格好だから、顔をよく見ていないと気が付かないのも頷ける。


「いやあ、ごめんね。それ、私だから」


「えっ!? あ、すみません、失礼な事を言っちゃいました!」


 ぺこぺこと頭を下げるロストラータ少年。

 独りで旅が出来るほど強いのに謙虚な人だ。


「後、執事だった人はスラ子が擬態していたから」


「よろしく」


「よろしくお願いします……?」


 挨拶をしながら、何か納得いかない様子。

 うん。倒れていたのは何だったのか、腑に落ちないだろうね。


(ふふーん)


(あ、なるほどね)


 スラ子が催眠術を使ってたのか。

 多少の矛盾は、一時的に常識を改変されて気が付かない訳ね。


「面白い人だね」


「ね」


 目の前で面白い人扱いは、それこそ失礼だったか。

 先に言うべきは、お礼だったな。


「改めて、助けていただき有難うございました」


「いえ、ボクが助けたいと思っただけですので」


「言葉だけのお礼では気が済まないから、何か必要ならば用意するけど」


「お構いなく、好きでやった事ですから」


 謙虚だなー。

 お礼を貰うのも相手の気持ちの為になるのだけど。

 それは長く社会生活を送らないと気が付かないか。


「それで。今日は私達この辺りで野営するけど。ロストラータさんはどうします?」


「呼び捨てにして良いですよ。ですが、この辺りで野営ですか」


「何か?」


「まだ、盗賊の仲間が追ってくるかも知れません。なので、ボクも一緒に泊まりますよ」


「ああ、それは助かります」


 別に、助かりはしないけど。

 隣に寄って来たアーリャに、耳をつねられた。痛い。

 耳は敏感なんだから、強く引っ張らないで欲しいなー。

 そして、小声で抗議の声を上げられる。


「ユキちゃん? 人が居たらゆっくり出来ないよ?」


「えー? 聞かせてあげれば良いのに」


「ボクっこ、かわいそう。こえだけとか、きちくだね」


「いや、混ざってこないかなと」


「ないわー」


「ないね」


 なんだと。

 二人共、百合の間に男を挟むのは否定派か。

 仕方ない、そこは諦めよう。


「それじゃあ、準備始めようか」


「そうだね」


 馬に水をやっているスラ子を横目に、荷台の幌に手を伸ばす。

 一部を外し、帳を追加して馬車を簡易テントに変えていく。

 ほとんどキャンピングカーで、テントを張るよりは早くて楽。

 まあ、本来は荷が詰まってるから、こうはいかないはずだけど。

 今は全部仕舞って、荷台がガラガラだから出来る事だ。


 ついでにお風呂も作ってしまおう、簡易的な物だけど。

 馬車の傍に浴槽を出します。

 水を入れます。

 火魔法を突っ込みます、魔力を燃料としている間は酸素の供給は要りません。

 はい、完成。


「先に、お風呂入っちゃうねー」


「あ、もう入るんだ。お先にどうぞー」


 トラタ少年は面食らった顔をしているが、今は無視。

 どうせ旅先の野宿で風呂に入るのは非常識とか、そんな所だろう。

 一応、見られないように暗幕を張ったけど、無くてもよかったかな?

 服を仕舞って、さっさと身体を洗ってしまおう。


 液体石鹸で身体を洗う。

 あー、やっぱりミルクの香りをつけると落ち着くわ。

 下を割り開いてみるも、残滓が出て来たりはせずに綺麗にされている。

 馬車に担ぎ込まれた段階で、スラ子が仕事をしてくれていた。


「流石スラ子、さっスラ。自力で洗うのは手間だからなー」


「もっと、かんしゃすべき」


「へへー、あじゃっす」


 ふー、これで……後は最大の敵か。

 髪を洗うのが面倒。

 これがあるから切りたかったのだけど。

 ちなみにリンス等、髪のケアは必要ない。

 私の再生力なら余裕でキューティクルの維持は可能なのだ。


 湯船の湯を浮かせて、頭から浴びる。

 上半身、下半身と水球で洗い落としていくと、水が結構汚れていた。

 うっわ、これはひどい。

 やっぱり、毎日お風呂入らないと衛生的によろしくないね。

 さて、風呂に入るか。


「あはぁー、新鮮な風呂やー。たまんねー」


 胸が浮いて肩かるーい!

 少しだけ湯量が不満なので、適宜足して湯温も上げる。

 あーもう、暗幕掛けない方が良かったな。

 横に見えるのは魔法の明かりと馬車の側面、少しだけしか空が見えないなんて損した気分だ。


「あー、ユキちゃん、もう入ってる」


「そりゃあ入りますよ。つーか、トラタ君を見張らなくていいの?」


「ふふっ、トラタ君だなんてヘンな呼び方だね。大丈夫だよ、スラ子ちゃんが見てるから、多分ね」


 多分なのか。

 まあ、私は見られたところで困らないけど。


 アーリャも一通り洗った後、湯船に入ってきた。

 一人で入る事を想定しているから、普通に入ったら狭くて無理だけど。

 なので、アーリャの上に乗って抱っこしてもらう。


 背もたれとなったアーリャに体重を掛ける。

 頭が良い感じに胸に沈んで、このまま寝られそうなくらいだ。


「ねえ、ユキちゃん」


「んー? なーに?」


「人前でお風呂に入るの、あまりしない方が良いよ」


「どーして」


「むかし、異邦の人達が行く先々でお風呂を作って入っていた逸話があるの」


「あー。なるほどねー、そりゃー考えないとー」


「くすくす、本当に考えてるの?」


「うー」


 それはつまり、私が異邦精神体だとバレる恐れがあるという事。

 今の所、根回しをしてもらって違う事になっている。

 国のお堅い人達が絡んできて、面倒な事になるのは嫌だなー。


 どうしようかな。

 今度から旅の途中、人が居る時は水球で身体を流すに留めておくか。

 それだけでも、気分的に全然違うから。

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