136 輪廻せよ! 封印されし、我が生命の園!
夜の事件の後は、他に何事も無く。
数日の出発準備をして、町を出た。
道中、懸念通りにタイヤが割れてしまい、現在休憩中。
そんな暇を感じた時、それは来た。
「ふああッ! 身体が、身体が疼くッ!」
「はじまった」
はじまった、って何だよ。
始まるのは、これからだよ。
「いつものユキちゃんだよね」
「しかり」
然り、とか何キャラだよ。
あーうー。
「アーリャ、鎮めてほしい」
「何を?」
「股間のマン黒竜を」
……男だったら、チン黒竜だったかも知れねえ……!
アーリャはスラ子を見るが、顔をそらされる。
「今日は、随分飛ばしてるねー」
「いつもの」
「へー、ここまで酷いの見たことなかったよ?」
「ドクター、きをつかってた」
スラ子の言葉を受けて、アーリャはくすくすと笑う。
いや、そりゃあ気を遣うでしょう。
普段から、こんな事を言っていたら引かれる事は分かってるし。
「へー? ユキちゃんがねー、ふーん」
「見せない方が良かった?」
「んーん、嬉しいなって。それで、本当にどうしたの?」
「股間のマン黒竜が――」
「それは良いから」
「えーと……生理周期の関係上、一時的に性欲が増してる、的な?」
「あー……? あれ、今まではどうしてたの?」
後ろから寄って来たスラ子が、私のお腹に手を当てて擦る。
ふぁー、それだけでも結構刺激がくる。
「スラ子、おさえてた」
「そう、今までは無かった。だから、ちょっと戸惑ってますのよ」
「ずるっ! わたしにも、してくれたら良かったのに!」
「いやあ、どうだろうね? スラ子は、出来そう?」
やってる事は子宮内膜を溶かして、無理やり月経を止めてる状態だった訳で。
私は平気だったが、他の人が体力的に問題無いかを考えると……?
「わからない。ほりゅうで」
「え、もしかして、危険な事してる?」
「どうだろうねー、ねー?」
「ねー」
あ、アーリャがむくれてしまった。
その後、何かに気が付いたのか、ハっとする。
「止めていた? 今は生理が来てるの?」
「うん……周期を安定させて、整えておこうかなと」
「……ふーん」
気の無い振りをしながらも、口元はしっかりと笑っている。
まあ、タイミングから、そういう事だ。
まだまだ先の事、長く落ち着けるまでは用の無い話だけどね。
しかし、体温が高くなってる時期は凄く性欲が増す。
自慰禁止してから三日目くらいの、このムラムラ感よ。
発散したいけど、こういう時に創作活動すると良い物が出来たり。
ちなみに、スラ子の品種改良は後ろの方へお引越し。
まだまだ、単独での魔力補給を実現するには時間が掛かりそうだ。
「あ、そうか。単独での活動、これだ」
「どれ?」
「ん、ジェイルアーマーの改善案が湧いた。馬車に乗りながら、色々作るね」
「おー、頑張ってね!」
ガタガタと馬車が揺れる。
衝撃吸収が効いているはずだが、付け焼刃の技術なんて、所詮こんな物だろう。
それでも大声で喋らないと聞こえなかった揺れから解放されて、快適な馬車の旅になっている。
その荷台。
クッションのきかない中、考え事を纏める。
「ねっ、ユキちゃん。見ていても良いかな?」
「いいですとも」
さて、どのようにして黒い鎧を改善するか。
これは、もう決まっている。
この前作った、ワープタッチを使おうと思う。
ジェイルアーマーは、直接私が乗り込むからスラ子の魔力が追い付かない。
それなら、遠隔操作で良いじゃない。
普通は遠隔操作の方が大変だが、技術は常に進歩させているのだ。
そこは、何とかする。
「さて、まずはパーツごとに再錬成を掛けないと」
その前に。
久しぶりに、ワープタッチを使ってみる。
黒い円盤型の端末に腕を突っ込むと、同じ型のもう一方から私の腕の形が生えて来た。
握ったり、開いたり。
手首や指を動かしても、離れた端末に魔力送波された通り、同じ動きが反映される。
同期はきちんと取れていて、誤差無く動作している。
このワープタッチ、問題となるのは何か?
身体の一部だけならともかく、全身の動きを反映するには消費魔力が大きすぎる。
それと、操作可能距離が短い。
送波している魔力を正確に受信する距離は、限られている。
ラグがあったり、操作誤差があっても良いなら話は別だけど。
戦闘に使う以上、そうもいかない。
しかし解決案は、もう浮かんでいる。
「ワープタッチ……だったよね? それ、使うんだ」
「いま錬成するからねー」
「へー、ユキちゃんをイジるためだけに作られたと思ってた」
「いや、元からそんな目的は無かったから……」
よし、難しい錬成では無い。
ほとんど組み合わせただけ。
話ながらでも、すぐに終わった。
「どう? 面白いでしょう」
「どうって、手足と頭だけ?」
そう、腕も首も無い。
五点の末端パーツのみ。
取りあえずは試運転。
フルフェイスのヘルメット、グローブとブーツを着用。
魔道具を起動して、同期を取る。
一瞬、意識を失い。
「ア、あア。うまく声がデないな」
立ち上がる。
足パーツが荷台に立ち、手と頭は本来の私と同じ高さに浮いている。
成功だ。
パーツに込めた魔力を使い、魔力体の一部を再現。
本体と模倣体を相互リンクさせる事で、まるで自分が動かしている感覚を得られる。
最悪やられても良いので、防御面を薄くする事で魔力の消費を抑えた。
実践で使える時間は測る必要はあるが、相当少なく見積もっても数日は持つはず。
横を見る。
体育座りをしながら、目を瞑ったままの私が居た。
自分の腕をつまむ。
触られた感触、触った感触どちらも存在する。
感覚のフィードバックも出来てる。
ていうか柔らかっ、なんだこの柔らか物体。
「また、ゴーレムさんを作ったの?」
「違うよ、ブラッドと同じような物。遠隔操作する人形だよ」
声の抑揚が安定しないなー。
後で直しておかないと。
「あっ、それじゃ今ならユキちゃんにイタズラし放題!?」
「やめてね」
本当にされると思い、同期を解除。
急いでいたからパーツが物音を立てて落ち、意識を取り戻した。
うん、戻りも問題無し。
「へー、わたしにも作って欲しいなー」
「良いよ。これを改良して、そのままあげる」
「えっ、良いの? よっぽどの物じゃ無い限り、自分で作るのが錬金術士だって言ってたのに」
そんな事、言ってたっけ?
やばい、そんな偉そうな発言、記憶にございません。
「良いの。でも、魔力を繋いだ血を通せないとだね、そうじゃあ無いと使えないでしょう」
アーリャの血の能力を反映させるために、ちょこっと設計を変えないとダメか。
元の動きが出来る様に性能を整えるのが難しいな。
しかし、これで彼女が直接危険な場所に向かう必要が無くなる。
見た目はリビングメイル……リビングパーツ? になるけど。
私の分はどうしよっかなー。
いっそのこと、グロースバトンを防御特化にしようか。
戦闘面は、ツクモハンドガンで遠距離からチクチク撃っていれば良いだろう。
やっぱり直接戦闘は出来そうにないからね。
「そうだ、アーリャ。ギルドの馬車を囮に、悪人を引っ掛けるように言われてたでしょう?」
「うん、精霊さんに言われてたよ」
「それ、どこまで本気なのか聞いてる?」
目的地へ行く用件。
錬金術士の派遣要請も嘘では無いはず。
今回は分かりやすかったけど、本当に荷物を奪われていたら大変な事態だ。
実質護衛も付けないで、釣り餌になるのは気持ちの良い事では無い。
まあ、足手まといを寄越されても困るけど。
「完全に本気も本気、酷いよね。しかも、これも本命じゃ無いんだって」
「まだ何かあるの」
「襲われて、あわよくば異邦の力を持った人物を釣るように、だって」
ピンチに現れるヒーローを釣り出せと。
いやあ、流石にそれはムシが良すぎないかな?
襲われそうな女性の前に現れるって、小説やゲームじゃあ無いんですから。
もっと中身の無い話が書きたい・・・
しかし、そう書こうとすると筆が進まなくなるジレンマ




