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131 いざ、出発!

「それじゃあ、お世話になりました」


 玄関口で、ローズさんとお別れの挨拶を交わす。


 最初会ったときは、私を疑われたりもしたけど。

 誤解は解けて、そのうち母娘のように接してくれていた。

 ちょっと、寂しかったりして。


「アーリャも、またね」


「アーリャ、がんばれ」


 私とスラ子の挨拶に、泣くかと思いきや。

 意外にも、悲しげな表情をするだけだ。


「うん、ユキちゃん。スラ子ちゃん、またね」


 別れは、あっさり風味。

 若干後ろ髪を引かれる。

 まあ、二度と会えない訳でも無いだろう。

 最悪、仕事を投げ出して帰ればいいや。


「で、方向はこっちで良いんだっけ?」


「まちがいない、こっちであってる」


 向かうのは町から出た、すぐ外側。

 そこで、馬車を借りる事になっている。

 移動手段はいくつかあるから、要らないと言ったのだが。

「錬金術ギルドが移動している事を示すためよ、我慢なさい」

 と、言われてしまった。

 公的な出向なので、動いている事を関係各所に示す必要があるらしい。

 面倒だなあ、色々と。


「わすれもの、ない?」


「えーと、大丈夫……かな?」


「ほんとー?」


 ギルドの所属や馬車の所持、銅級以上の仕事が出来る特殊権限を記した各種証明書類……あるね。

 元から持っていた物は全てある……あれ、何か?


「あっ、生オモチャ。アーリャに渡しっぱなしだったわ」


「とりにもどる?」


「んー……いや、別にいいや。もう設計は済んだから、作ろうと思えばいくらでも作れるし」


「じゃ、だいじょうぶだね」


「これで馬車の方に不備があったら笑えるけどね……笑えないか」


 錬金術ギルドとして、現地に赴き仕事をする。

 その為に必要な道具は、ギルド側で用意してもらう事になる。

 何故なら現地の村は出来たばかりで まだ錬金術士が居ない。

 着いた先で仕事が出来ないので錬金釜を作って下さい、なんて言えるわけも無い。

 お前は、何をする為に来たのかと言われてしまう。

 銅級の個人が高額な道具を持っているはずが無いので、借りたものを持参するのだ。

 これが表向きの話。


 なので、借りた仕事道具を馬車に積んで持って行く。

 その積み荷も念の為、出発前にチェックする必要があるだろう。


「ところで、さ」


「なに?」


「やっぱり、胸元見られてる気がするんだけど」


「ドクター、えっちだから。しかたない」


「何でだろうなー、替わりの服を作ろうとするとド忘れするんだよね」


 今の服装は布製で金糸の縁取りがされた、シックな色合いの軽装防具だ。

 太ももが見えたり、わきが見えるのは可愛さがあるからまだいい。


 問題は胸。

 中央部が開いたまま、巨大な谷間をアピールしている。

 直そうと思ったけど、何故か他の事に気を取られてそのまま来てしまった。

 これでは、いつでも身体を売りますよと思われても仕方ない。


「まあ、誰に操を立てている訳でも無いから、別に良いか」


 たとえ襲われても、痛くしなければ許せる。




「はい、次ー」


「おっけー、ぜんぶそろってるよ」


 チェックリストを埋めながら、スラ子に荷台を確かめさせている。

 それも終わり、後は出発……なのだけど。


「はあ、馬が無いって酷くない?」


「てってーした、こーぎをしよう!」


「おー! デモの開始じゃー! いや、やらないけど」


「えー」


 どこに抗議するんだよ。

 ここからギルドまで、歩いて数時間は掛かるんだぞ。

 そんな面倒な事、する訳無いでしょうに。


「スラ子、馬になって引かないか?」


「やだ、つかれるもん」


「ですよね」


 正確には疲れるのでは無く、魔力の消耗が激しくなるのだが。


 でもなあ。

 通達がある以上、馬車をインベントリに仕舞うのは無し、でしょう?

 私がどれだけ頑張ったところで、力が足りないから引けないし。


 仕方ない。

 ギルドに戻って馬を手配してもらうしかない。

 そう、踵を返そうとした時である。


「きた」


「えっ、なに……が?」


 馬に乗ったローブの人物が、町からこちらへ駆け寄ってくる。

 あ、町の入口で屯していた衛兵に尋問されてる。


 検問を通って、すぐさまこちらに駆けてきた。

 すぐそこだったのだから、わざわざ馬に乗りなおさなくても良かったのに。


「へーい! お困りかーい!?」


 まだ、男の声。

 急ブレーキを掛けたせいで、跳ね馬状態になりながらもこちらに問いかけて来る。

 いやー、無視したい。

 これが知り合いじゃあ無かったら、間違いなくスルーしていた。


「困ってるから、馬だけ置いて行って。すぐに帰っていいよ」


「えー、そんな! 助けに来たのに!」


「えっ……? ついてくるつもりなの? えーっと、ブラッド」


「もちろんさ!」


 多分ニコっと好青年のような笑顔を見せたのだろう。

 そんな雰囲気を醸し出しているが、隠ぺいされていて顔の印象が入ってこない。

 印象のまま、あてずっぽうで言ったけど、やはりブラッドだったか。

 問題は、これが操り人形なのか、それともアーリャ本人なのか。


 ブラッドは馬から降り、馬車と手綱を繋いでいる。

 これ、この展開になる事が分かっていたって事だよね。


「なあ、スラ子?」


「きいてみれば?」


 そうか、お前は知っていたのか。

 私の知らない間に、女同士の秘密を交わすなんて嫉妬しちゃうわー。

 なーんて、どうでもいいんだけど。

 どちらかと言えば、スラ子が私以外に仲のいい人が出来たのが、少し嬉しかったりして。


「さあ! ユキちゃん、スラ子ちゃん。出発するよ!」


 なあに仕切ってるんだか。

 アーリャの時は、ふわふわべったりなのに。

 ブラッドになってる時は性格が不安定だから困る。


「ブラッド……いや今は、なんて呼べば?」


 他の人から見たら、ちょっと理解しがたい問いかけ。

 誰が見てるか分からないから、一応ぼかしてみた。


「何言ってるの、わたしはわたしだよ?」


 この感じ、アーリャ本人か。

 口を開けて……言葉が出ない。

 何かを言おうとしたけど、言葉にならなかった。


 わたしはわたし。

 最近、誰かに言ったような気もする。


「続きは馬車の中で、ね?」


 うなずいて、応えるのが精いっぱい。

 御者台に、スラ子が乗る。

 幌付き荷台のフロント側には狭いながらも座席があり、そこにブラッドと私が乗り込んだ。

 乗ってみると、幌付きの軽トラックみたいな馬車だなあ。

 荷台と座席部分が繋がっているけど。


 スラ子の御者姿が、様になっている。

 教えたことないのに。

 つまり、相当前から計画されていたのか。






「馬車の改造をします!」


「えっ、いきなりどうしたの?」


「ドクター、いつもこうだよ」


 出発してから、一時間もしない内の事。

 私は馬車を止めて、宣言。

 二人の反応は気になるが、それどころでは無い。

 ブラッドはフードを降ろして、いつものアーリャになっている。


 人が乗る事を想定していない荷台馬車。

 ガッタガタで、はっきり言って不快なのだ。

 この中で話を? ハッ、ばっかじゃねーの!?


「大丈夫、すぐに終わらせるから」


 大きく改造する訳にもいかないからね、借り物だから。

 見た目上の変化を少なく、大きな成果をあげたい。

 と、なると。


「タイヤとサスペンションかな?」


 車高を少し上げる必要が有るけど、スプリングとダンパーを。

 足回りを取り換えて、ブッシュとゴムタイヤをはめて……なのだけど。

 ゴムタイヤの配合比率なんて、知っているはずも無く。

 ああいうのは企業秘密で、一般に公開される事は無いからね。

 残念ながら、私の汎用知識インプラントには存在していない。

 なので、車体の改造を施しながらタイヤをどうするか考えようか。


「ドクター、てつだいは?」


「んー、必要に応じてジャッキアップして」


「りょうかい」


「ユキちゃん、わたしは?」


 これ以上、手伝いは要らないんだけどなー。

 あっ、そうだ。


「はい、これ。スラ子に使い方教えてもらって」


「これは?」


「スマートパネル」


「撮って、全体の重心が悪くなってないか。改造前と後で大きく変わって無いかチェックして欲しい」


「うん……? 分かったよ」


 早速、スラ子に教えてもらっている。

 ふむ? 何で知らないんだろう?

 夜にスラ子が、あんなに撮りまくっていたのに。


 あっ、顔が赤くなった。

 マジ? 撮られてるの、知らなかったのか。

 録画した物を見ていくうちに、アーリャの表情がどんどん変わっていく。

 ……やばい、目が血走ってやがる。

 あーあ、これ後で私が被害者になるやつだ。

 仕事して忘れよ。

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