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129 裏ルートで使われる商品の話

「ところでアーリャ、もう動けるの?」


「う~……まだ辛いかも」


 部屋に来て、私の話を聞いていたアーリャだったけど。

 やっぱり、まだ体調が悪そうだ。


 彼女は昨日まで、私に拷問訓練をしていた。

 私は過去にメイドさんから同じような目にあっていたから、体力的には少しダルい程度。

 スラ子も問題は無い。


 しかし、数日に渡って私達に付き合うアーリャは?

 その場では平気な顔をしていたが、終わった後で表に出た。

 突然、体調不良を訴えて横になってしまった。

 その彼女が起きているのが、少し心配。


「だから、いったのに。スラ子がやるから、まかせてねって」


「だって、これも仕事だったんだもん」


 完全に真っ黒な仕事じゃあないですか。

 誰だよ、そんな依頼したの。

 まあ、どう考えても、あの精霊ですよね。

 あと、スラ子が本気で拷問したらシャレにならないから。

 最初の頃、ドレインのやりすぎで数日間の記憶が飛んだのは忘れてないからね。


「ほらほら、部屋に戻って寝ていてね。食べやすい物、作ってあげるから」


「わあ、楽しみにしてるねっ!」


「それじゃあスラ子、運んであげて」


「ほいさっさー」


 さて、栄養があって消化に良い物。

 アレしかないでしょう。


 しかし、何でわざわざ私の部屋に?

 母親のローズさんは、錬金術士のお店が忙しいから寂しかったのだろうか。




「おっまたせー」


 アーリャの部屋に、初めて入った。

 寝てるかなと思いきや、彼女はベッドで窓の外を眺めている。

 ある程度おしゃれには気を遣っている内装だが、女の子の部屋かと聞かれたら微妙。

 これも、仕事の影響だろうか。

 ぬいぐるみの一つくらいは、あっても良いと思うけど。


 アーリャはこちらに振り向き、ベッドに座ったまま地面に足を降ろす。

 ふむ、やっぱり顔から血の気が引いてるな。

 食事を終えたら寝てもらおうか。


「いらっしゃいユキちゃん。何を作ってくれたのかな?」


「ふふふ……見よ、定番の!」


 じゃーん。


「うっ、何この匂い……」


「なにって、サムゲタンだよ」


「ごめんね。ちょっと、この匂いは無理かも」


 なん……だと?

 寝込んだ相手にはサムゲタンでは無いのか!?


 まあ、冗談はここまでにしておこう。

 私も、この匂いはあまり好ましくないし。

 体調が悪いって言ってるのに、肉料理も辛いだろう。

 仕舞って、取り出しなおして。


「はい、梅粥だよ。これなら食べられそう?」


「あ、うん。いい香り、美味しそうだね」


 昆布出汁をベースに梅干しを潰して散らしている。

 そのため、梅らしい刺すような酸っぱさは無いけど、ほのかな酸味が食欲をそそるだろう。


「ん~、おいしー」


「それじゃあ食べてる間、尺八してあげるね」


「尺八?」




「うう……」




「ねえ、ユキちゃん?」




「ごめんね、もうやらなくて良いよ」


「えっ、ダメだった?」


 演奏を止め、口から尺八を放す。


「うん、ちょっと大きかったかなー」


「ドクター、うるさい」


 ごめんなさい。

 あれー? 寝込んだ相手に、可愛い女の子が尺八をするのは基本では?

 まあ、室内で尺八はうるさすぎたか。

 野太い音だもんね、どう考えても屋外用だわ。


「はあ……ドクター?」


「なんでしょう」


 イラついた様子のスラ子に、つい丁寧に返してしまった。

 久々のイラつきスラ子も可愛くて良いね。


「でていって。あとは、スラ子がやるから」


「はい、すみませんでした」


 部屋を出てすぐ、スラ子の歌声が聞こえてきた。

 視界が傾く。


「……っ!」


 踏ん張り、気を持ち直す。

 あいつ、本気で癒しの催眠音波を出してやがる。

 気を抜くと、廊下で眠ってしまいそうだ。

 さっさと自分の部屋に戻ろう。


 本当は、尺八の意味くらい知っている。

 思い返すと、梅粥も最初から出せばよかった。

 女の子が寝込んでいる現場に出くわしたのが初めてで、混乱してしまった。

 どうでも良い相手なら冷静にもなれるけど、身近な相手にはどうしても動揺してしまうなあ。

 こういうのは慣れなんだろうけど。


 はあ、大人しく何かをして気を紛らわせよう。

 尺八ねー、この世界の人達は感染症の予防が出来てるのだろうか。

 魔法薬はあるけど、装着して使う道具は見たことないかも。




「ふーん、ふんしゃか、ふふんふーん」


「ただいま」


「おかえり、アーリャはどう?」


「いま、ねてるよ。……それ、なに?」


 私がいじくっている試作品を見て、興味を示してくれた。

 うん、聞いてくれると話が繋がりやすくて助かる。


「男性に着ける避妊具、よりも感染症予防の為の道具になる。かな?」


「スラ子、しってるよ。こうやって――」


 右手を男のアレに変化させて、左手を薄い膜状に変える。

 そして、膜を右手に被せて覆った。


「正解者に拍手、良く出来ました! そして、これが試作品一号になります」


 気合いを入れて作ったのでゴムは薄く、向こうが透けて見える。

 これを、普段使っているオモチャに被せる。


「ただ、問題があってねー」


「もんだい?」


 そして、アンを模し……コホン。女性側を模したオモチャに挿し入れる。

 こうしないと放出量が多く、ゴムは水風船のように際限なく膨らんでしまうからだ。

 出来るだけ現実に近い再現をするのは当然だろう。


「アンにみられたら、おこられるよ?」


「個人で使う分には問題無し!」


 準備は、おっけー。

 刺激に頼らず、特定の魔力を流すことで発射させる。

 蠕動運動と共に射出される量は多く、こうして見ると現実を疑ってしまう。


 オモチャだから、では無い。

 私の経験上、実物も一回でこれくらいは出ている。

 死亡率の高い世界だから、出生率を上げるための進化の名残だろうか。


「あっ」


 スラ子が驚いた声を出すのも分かる。

 受け止めきれず、入口側から逆流して溢れてしまったのだ。

 これでは、正しく機能を果たせているとは言えないだろう。


「なので、考えました」


「ふむふむ?」


「諦めました」


「あきらめんなよ! どうして、あきらめるんだよ、そこで!」


「いや、そんな熱くならんでも。それに、この量は物理的に無理でしょう」


 根元部分を縛って、出ない様にしたら効果はあると思うけど。

 これだけ出るはずだったものをせき止めたら、身体に悪いと思うわ。

 輸精管の方を魔法で縛るか?

 しかし、出ているときの快感も知っているだけに、そこまでしたら一般的に使われないだろう。

 そういう特殊なプレイならともかく。


「なので、技術を転用してこんなものを作ってみました」


 ファンデーションのコンパクトみたいな、見た目と大きさ。

 継ぎ目は無く、円盤状。

 セルフスタンドの静電気除去シートみたいな形。


 それが、二つで一組。

 黒一色のゴム質感。


「送受波した魔力で連動させる魔道具なんだけど、ちゃんと動くかな?」


 一つを机に置き、もう一つを手元に。

 手に持った端末に指を当て。


 押し込む。


 すると、ゴム製品を押し込んだように窪んだ。

 そのまま更に奥へ。

 私の指が、まるで黒くなったように見える。

 素材を膜状に薄く纏って、向こう側に突き出ていた。


「これ、おもしろいね」


 机に置いた端末から、私の指と同じ形状に生えている。

 正しく連動。

 指を動かしても遅延も無く、同じように動いている。

 指を二本、三本と増やす。

 腕を突っ込んだら、きちんと腕の形が机から生えた。


 技術としては、VRの初期も初期。

 体感型と呼ばれた時代の技術。

 私が生まれる前のものだ。


「名前を付けるなら、遠隔体感機になるけど。機能は、これだけじゃあ無い」


 腕は突っ込んだまま。

 魔力を流し、付与した重力制御を発動させる。

 机の端末が浮き上がり、空中で静止。

 常に集中して制御する必要はあるが、自由に空中を泳がせられる。


 泳いでいるのは私の腕だから、風情は無いけど。


「ふははっ、くらえー! 私のジェットパーンチ!」


 スラ子に、私のグーパンチが飛んで行く。

 しかし、当たり前のように受け止められてしまった。


 よし、掴まれたスラ子の感触がこちらにも伝わっている。

 相互間の感触同期も、ちゃんと取れているな。


「すごい。ちゃんと、ドクターのやわらかさになってる」


 そのまま腕を、にぎにぎ。

 いや、ちょっと待って、力入れ過ぎだって。


「いたい! 痛いから、手加減プリーズ!」


「えっ、あ。そっちにも、つながってるんだね」


 腕は釈放された。

 あー、痛かった。

 手首をプラプラ振ると、遠隔機の手もプラプラ振る。


 連動する力の制限を掛けないとダメだな。

 不意に馬車に轢かれて腕が潰れました、とかシャレにならない。


「遠隔地からスマートパネルの映像を受け取れば、遠隔で手術や勉強を教える事に使える!」


「おおー!」


 面倒な時には、遠くにあるお菓子を取る事も出来るぞ!

 こたつに入ったまま、何でもできる。

 みかんを取るのも、ゴミを捨てるのもオーケーだ。

 これで、冬の備えは完璧だな!


 魔法で物体を移動をするには、これとは比較にならないくらい集中力を使うからなー。

 何とかして楽をしたかったのだ。


「なまえ、ワープタッチで」


「良いんじゃあないかな」


「これ、つくってうるの?」


「売れないよ」


「どうして」


「盗難や暗殺に使えるじゃん? どう考えても禁制品に指定されるでしょう」


 このサイズなら大きいから、すぐに分かるけど。

 小型化ができれば、毒を盛る事も可能になる。

 争いの火種になる事を分かっていて、世に出す訳が無い。


「なるほど、たしかに。ちょっと、かして?」


「どうぞ」


 腕を引き抜き、スラ子に渡す。

 うん、肌触りは問題無く、遠隔操作の誤差は少なく済んでいる。

 圧迫感も無いから、遠隔側の触感も本物同然に感じられる。


 問題は、物理干渉は出来ても魔力を十全に送れる訳じゃあ無いって事。

 つまり、魔法や錬金術は遠隔使用出来ない。

 だから、使用用途は限定的になるだろう。


「ちょっと、うしろむいて」


「うん? いいよ」


「えいっと」


「ひぃっ!?」


 不意を突かれ、私の股間のデリケートな部分にワープタッチをはり付けられる。

 嘘だろ!? 一瞬で理解したわ!

 剥がそうとするが、スライム膜で覆われ、ガッチリガードされている。


「ちょっ、ちょっと待って」


 せめてスラ子から奪えば!

 手を伸ばすが、かわされる。

 スラ子は容赦なく、指を端末に押し込み。


「~~~~っ!」




 この後、寝る前まで剥がすことは許されなかった。

 食事などの集まっている時にイジられても、声を出さなかった私を褒めてほしいくらいだ。

 バレたらどうしようかと思ったけど、何とかなったかな?

 ……夜には元気になっていたアーリャは、察していたかも。


 夜に使った感想としては、一本で二つの穴を同時に出来たのは目から鱗だった。

 前と後ろに着けて使うとは。

 しかし、同期が完璧すぎてあまり良くは無い。

 二本使う時は、予期しない動きをされるから良いのであってだな。


 うーん。

 転移陣を解析して、液体くらいは送れる様にしようかな……。

 こういうのって、公衆で注がれてこそ意味が……いやいや。

 物理的接触が無いから、避妊と感染予防の魔道具として機能しているのだ。

 いや、しかし……。

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