128 あいつこそが拷問の女王様
ローズさんの家に来て、季節がくるっと一巡り。
あの後は平和そのもので、特筆すべきことも……まあ、無くはないけど。
昨日までの夜の事とか。
諜報員として拷問に耐えられるかテストをすると言われて、アーリャに責められた。
痛みならともかく、あっちの方を色々な方法で。
拘束されて、逃げることも出来ずに何日も。
スラ子もノリノリで協力していたのが、本当にどうしようも無い。
撮影されたスマートパネルの動画、消すかどうか未だに決めきれない。
これが、自分の姿じゃあ無かったら永久保存なのだが。
そうか、アーリャのやつ。
ずっと錬金術の勉強漬けで、私の講義を受けて、うっぷんがたまってたんだな。
そして、こんな機会を得たんだ。
いつも以上にテンションが上がって、プレイするのもうなずける。
いや、アレが本来の。
アーリャの本性なのかもしれない。
「ねえ、あと100日やる?」
「ドクター、そんなにやりたいの?」
「嫌だけど。はあ、いつの間にか豊胸されてるし」
解放された翌朝。
自分の身体を見たら、これだよ。
骨盤も少し開き、お尻の肉もふっくらしている。
性的な部分だけを見れば大人だが、全体的には少女のままと少々アンバランス。
肉体年齢相応の子なら、大人の視線が恐怖に感じるお年頃だ。
「いちにちに、20リットルのミルクをだす。あじは、コクがあって、うまい」
「私をミルクタンクみたいに言うんじゃあないよ」
また、肩の重い生活が始まってしまった。
デカイと上半身が振られて、バランスを取るのに苦労するんだよね。
何よりも、豊胸の副作用が。
「永続的な筋力の低下は、どうにかならなかったの」
「アーリャにいって、スラ子はかんけいない」
日常生活すら、魔力によるブーストを掛けないと覚束ない。
それなら、身体を変えれば良いのだが。
まあ……その、なんだ。
自分の意思で逃れられるのと、抵抗しても抑えつけられてしまうのでは意味合いが違う、みたいな?
頑張った結果凌辱されるから興奮するのであって、自分から襲われに行くのは解釈違い、みたいな?
最後まで諦めずに頑張れば、良い結果がついてくるんだよ。うん。
そう考えるとやっぱり、しばらくはこのままで良いかな。
とにかく。
もう、絶対あの子の薬は飲まないわ。
責める事に快感を覚えるマッドサイエンティストとか、まともじゃねーよ。
そもそも、これ豊胸薬じゃあないよね。
部分的に作用する老化薬だろうか?
大人に使ったら垂れ下がりそう。
「ドクターとアーリャ、おにあいだよね」
「弟子は師に似ると言うし、ローズさんが悪いね」
私がマッドサイエンティスト?
ははは、そんな訳無いでしょう。
「……そうだね」
そうしとけ。
半分以上、私が望んで教えたことだけど。
影響を受けるかは本人次第だからね。
「ちょっと、腕立てしてみるか」
まずは、魔力強化の掛かった状態で。
起きたばかりで服も下着も無し。
これなら構えた時、筋肉の薄さが良く分かる。
改善しようにも、筋肉がつくことは無いからなー。
「いー、っち。にー、い」
ヤバイ。
かなり必死でやってるのに、力に余裕が無い。
だが、崩れることは無い。
乳酸が溜まっても、一瞬で散る。
筋肉が断裂しても、すぐに再生する。
まあ、そのせいで筋肉が太くならないのだけど。
回復力は正常に機能している。
一時期、すごい疲れやすかったのは何だったのだろう?
「はい、ドクター。まりょくきょうか、きってねー」
ういーす。
腕を立てた状態で……。
「いや、無理無理! 腕を曲げたら戻せないって!」
「がんばれ、がんばれ」
「いーっ、いいいいっ!」
腕を曲げて伏せた状態で、にっちもさっちもどうにもプルプル硬直。
体力が尽きないのが、精神的辛さだけを増している。
昨日までの拷問訓練よりも、今の悔しみ溢れる虚無感の方がキツイわ。
「くずれたほうが、らくになれるのに」
「そう、だね。仕方ないか」
うつ伏せに潰れて、重い身体を起こす。
あーしんどい。
やっぱり、近いうちに新しい身体を作っておかないと。
こんな貧弱な筋肉、魔法の無い世界なら難病指定されそうだわ。
「あせ、かかないね?」
「本当に、筋力だけの問題だからね。さて、いつまでも裸じゃあ居られないか」
とは言ったものの。
このサイズの下着なんて用意してないから布でも巻くか。
なんて思っていたら、スラ子が差し出して来た。
「はい、ドクター。あたらしい、ブラだよ」
「お、助かる。またサイジングしなきゃと思ってたから」
しかし、奇妙な形だな?
どうやって着けるのだろうか。
「てつだってあげる」
「ども」
うん、うん?
乳房間の紐がない。
ああ、アンダー部分で繋がるのね。
それでアンダーの紐から上部に布が張られて、支えると。
これ、支える能力は十分だけど、面積が若干少ないような。
「なんか、胸の中央部分が空いてると不安になるね」
胸の左右が連動してないから、動きの自由度は高い。
逆に言えば固定感が薄いので、大きく弾んでしまう。
だが擦れによる痛みは無い、出来は良いんだなあ。
あっ、気づくの遅れたけど。
金属フックを使わずに、ボタンでの固定を採用してある。
それもフロント側だから、着脱が容易で助かる。
「ふく、どうぞ」
「ほいほい」
ふわふわした可愛らしいデザイン。
しかし、胸が……。
「流石に胸の先は露出してないけど、かなり攻めてるね?」
「みごとにあいてる、みたてどおり」
服を着たまま挟むことが出来るであろう、肌色の窓が覗く煽情的なデザイン。
それ系のキャラクターならともかく、現実で着ていたら娼婦と言われても否定しにくい。
アーリャに見せたら襲われそうだ。
なんとか日中は守れているが、最近は過激なスキンシップが多くて困る。
「まあいいか、この服で外を出歩く訳でも無いし」
「ちなみに。ほかのふく、ないから」
なにい。
じゃあ、明日までに他の服を仕立てないと。
こんなの、シャツ一枚で出歩くより恥ずかしいって。
だが、その前に。
「部屋の掃除をしないとね」
何故か存在した地下拷問部屋から戻ってきたら、けっこう埃が目立っていた。
日数が経っているから当然なのだけど。
今日は、借りた部屋の掃除をしなければ。
「どうせ、ふくのことはわすれる」
「え、何でそんな不穏な事を」
おい、無言でニヤけるんじゃあないよ。
あっ、もしかしてコイツ、催眠術で……えっと、あれ、なんだっけ?
そうそう、部屋の掃除をしないと。
「今日は、この魔道具を使って掃除をします」
「にんぎょう?」
水の精霊、アンダインよりも小さい私の手のひらサイズ。
その人形を持ち上げて。
「おそーじごーれむー」
掲げながら、ダミ声で宣言する。
人形を地面に置いて、魔石動力を起動させる。
すると、人形はぴょこりと立ち上がった。
そして二足歩行し、掃除を始める。
「ゴーレム? ちいさいのは、パワーがたりないってきいたよ」
そう。
ゴーレムの力は大きさに比例する。
それを考えると本来であれば、ちっこい人形ではパワー不足になるはずだ。
「マシンゴーレム、だよ」
「ロボット?」
「この間、ゲーム機を作ったでしょう。その演算処理を利用して作ったのさ」
「ふつうには、つくれないの?」
「私の知っている技術を使っているからね。かなり劣化したものだけど、これでも十分だよ」
意識投入型のVR技術を成立させるための、高速演算、大容量技術を。
少し不安ではあったけど、この世界でも流用出来た。
意識投入型のVRには壁があった。
今までの技術では、膨大なデータ量を詰め込む手段が無かったのだ。
そして最低限必要なデータだけでも、相当な容量や計算能力が必要になる。
「そうやって作られたのが、四軸色相情報圧縮」
「よん……?」
「みんな、愛称では四次元データと呼んでいたよ」
「いっきに、わかりやすくなった」
「親しみがあって良いよね」
風を吸い込んで、埃を吸引しているお掃除ゴーレムを見る。
うん、今のところ不具合は無さそうかな。
偉そうな事を言ったけど、説明通りの仕様でデータを詰め込むのは無理。
専用の機材を作るための専用の機材がいる。
お使いイベントの為のお使いみたいだな。
この魔道具は、知っている技術を十分に生かせているとは言い難い。
最近作ったゲーム機ゴーレムに計算させて、出来る範囲で作った物だ。
精度も悪いし、計算能力も非常に遅く、この程度ではVRマシンを作る事は出来ないだろう。
「まあ、性能が悪くて大したことは出来ないんだけどね」
私の世界はコピーした人格で仕事をする事で、現実よりも情報世界の方を重用するようになった。
脳に過負荷が掛かる程の時間加速を掛けても、負担はコピー情報体が被り、本体には影響しない。
必要な時は、現実に戻る際に最低限の知識だけをフィードバックする。
そして、これらの知識を前提として持っていると疑問が生まれる。
私と、この世界の関係。
転移などでは無く、実はデータ上に存在するコピーなのでは無いか?
しかし、もう答えは出している。
はっきり言って、どうでも良い。
自我があり、生物として世界を感じている以上、気にすることなど無いのだ。
私はこの世界で、自由に生きていくだけ。
「以上、終わり!」
「おおー」
「おおー?」
分かりやすくするため、図解のために捲っていた紙芝居の“完”を出して話は終わり。
同時にスラ子とアーリャの、拍手と声があがった。
まあ、アーリャは良く分かっていなかったようだけど。
理解できない様に話していたのもあるけど。
理解されても混乱を招くだけだろう。
自分が作り物である可能性なんて、普通の人は思いつかない方が幸せだ。
あ、掃除ゴーレムがゴミ以外を吸おうと頑張ってる。
判別処理が、まだ甘かったか。
これなら結局、手作業の方が早かったなあ。
連続してイベントを起こすのも不自然だろうと、何も考えずに一年経過させたのですが
まさか、あんな事になるなんて……




