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122 部屋割りの設定は全く考えてません

「この部屋、使っているんじゃあないんですか?」


「いいのよ。今は、誰も使ってないから」


「そうですか」


「けっこう、いいへや」


 住み込みという事で、案内された部屋。 

 そこには生活感のある家具が据えられて、部屋の主を待っているように見えた。

 薄っすらとヤニ臭い。

 掃除はしっかりとされているようで、見える範囲に埃やクモの巣は見当たらない。


 そもそも。


「ここ、男性部屋ですよね? 旦那さんの部屋では?」


「……そうね。アリシアが生まれて数年後に、防衛の仕事中にね」


「そうでしたか」


 まるで、もう終わった事のように話すね。

 気にしてないフリをしてはいるが……まあ、人の心を読み取ろうなんておこがましいか。


 アーリャの見た目を考えると、十年くらいは前になるのかな?

 残されたのは仕事と、残り香の残る家と、娘。

 幸せだったかどうかは、アーリャを見たら分かる。

 ならば、この話は終わりで良いだろう。


「それでは、好きに使っても?」


「どうぞ。あの子が懐いている人が、誰かを不快にする事なんてしないでしょ?」


 遠回しに、下手に荒らすなと。

 さっきのやり取りの後で、そんな事をするだけの図太さは無い。


「あんまり、変な圧力掛けないでくださいよ」


「ごめんね、初対面の相手には用心深くなっちゃって」


「スラ子がみてる、あんしんしてほしい」


「あら、スラ子ちゃんがそう言うなら安心ね」


 まあ、寄ってくる虫が多かったのだろう。

 それでも過去の苦労を顔には出さない辺り、強い人だと思える。


 それと、スラ子は安心で私には用心って。

 中々、人を見る目があるね。


「それでは荷物を出すので、何かあったら呼んでく……何やってるんですか」


 ローズがクローゼットを開けて、何やら引っ張り出している。

 服かな? しかし、成人男性のクローゼットに入っている服なんて一体、何に?


「じゃーん! ユキちゃん、これ着てみよう!」


 ずい、と出されたゴテゴテのゴシック子供服。

 男性部屋は見た目だけで、もう倉庫と化していたか。

 使われていない部屋には良くある事。


「え、あっ、はい。良いですけど、もしかしてアーリャのお下がりですか」


「可愛いでしょう。売るのも勿体ないけど着る人がいないから、どうしようかと悩んでたのよね」


 広げて確認すると、結構着るのに手順が掛かりそうだ。

 一人で着用するようには出来てないな。


「今、着て見せた方がいいですか」


「お願い」


「それじゃあスラ子、手伝って」


「おっけー」


 今着ている服を脱いでいく。

 途中、ローズさんから待ったが掛かった。


「はい、こっちもね」


 下着もかあ……うわ、きわどい。

 ん? って事は。


「アーリャは、子供の頃からこんなのを……?」


「いいしゅみ、してる」


「可愛いでしょ、どうしても捨てられないのよね」


 かわいい……?

 セクシーなら分かるけど、可愛いと言うセンスは分からないわ。

 捨てられないのは生産職特有のあるあるだから、それは理解できるけど。

 将来何かに使うだろう的な。


 とりあえず、穿いてみたけど。

 後ろ側なんて、お尻に食い込む程のヒモ感。

 ……レギンスから穿き替えた落差で、まるでノーパンみたいな心許なさが。


「えい」


「ひい!? こら、スラ子。後ろを引っ張り上げるんじゃあない」


 あー、びっくりした。

 後ろを引っ張るだけで食い込むとは。

 これは油断出来ないな。


 意識させられて立ったとしても、バレないのが女の身体の良い所だな。

 スラ子にはバレバレだけど、それは何時もの事なので今更気にしない。


「外で待ってたほうが良いかな?」


「大丈夫です。すぐに着るので」


 いま外に出られたら、服を着た後に何をされるか分かったものでは無い。

 どうせするなら借り物の服では無く、同じ物を作ってからだ。

 他人の物を勝手に汚したくは無いからね。




「どうでしょう、似合いますか?」


 言っといて何だが、かわいい服と子供体形が良く似合う。

 しかし、私の趣味とは少しズレてるような。

 ゴシック系は表情筋が弱い系の子に着せた方が、映える気がするのだが。


「んん~……」


 ん~?


「わっ、わわ」


 いきなり抱き着くな!

 びっくりしたじゃあないか。

 そのまま放って置いたら、持ち上げられて拉致された。

 ローズさんは椅子に座り、膝の上に座らされた。


 スラ子、助けてはくれないのか?

 視線を送るが、これをスルー。


「やっぱり見る目に狂いは無かったわねえ、いい匂いもするし」


 うん、髪の毛を吸われるのは結構不快になるなあ。

 生理的嫌悪感がすごい。

 匂い物質はスラ子が吸い取ってるから、良い匂いなんてしないはずだけど。

 でも、たまに気を利かせて解放するのは何なのか、やさしさ?


「そ・れ・に」


 ローズが私の服を捲り、肌に沿わせるように手を突っ込んで来る。

 流石に口の端が引きつる。

 触るな、とは言わない。

 触り方が気持ち悪い、もっとやり方があるだろう。


「……あの?」


「あら、慣れてると思ったのだけど。硬くなっちゃうなんて、可愛い所あるのね」


「雰囲気を大事にしたい方なので」


 逃げられない状態で、される事は嫌いではないが。

 まだ、陽が落ちてない時間にするのは好みでは無い。


「だいじょうぶ。ドクターは、むりやりされると、スイッチがはいるから」


 余計な事は言わないでほしい。

 その気になったらどうするんだ。


「ひえ!?」


 下に手を入れてきた。

 えっ、マジで始める気?


「……あれ? ついて無い? 男の子じゃ無かったの?」


「いやいや、見た通り……触った通りですよ」


「おかしいわねー、勘が外れた事は無いのだけど」


 正解!

 流石、一人で家を守って来た人だ。

 勘がとても鋭い。


「ローズさん……本当に、始めるつもりですか?」


「今は、やめておきましょうか。あの子が来ちゃったみたいだから」


「あー! ユキちゃんが、わたしの服着てる。かわいー!」


 緊張感から解放された反動か、アーリャの言動が少し幼く見えた。

 いや、テンション上がると、いつもこんな感じだったわ。


「似合ってるかな?」


「もちろん!」


「ローズさん、服のデザインを使わせて貰っても良いですか?」


「良いわよ。それ、私が縫った物だから好きに使ってね」


「ありがとうございます。ところで、そろそろ荷物の整理をしたいんですけど」


「どうぞどうぞ」


 いや、抱き着いたまま言わないでほしい。

 一旦、部屋から出て行って欲しいって意味なんだけど。

 はあ、仕方ない。


「スラ子、荷物整理お願いしていい?」


「いいよー」


 自分で出来る事をスラ子にお願いすると、スラ子から何らかのお願いをされる。

 それは別に構わないんだけど。

 お願いの内容がなー、ハードだからあんまり頼りたくないんだよねー。


「それで、アーリャは何か用事があったんじゃあないの?」


 私の問いに思い出したのか、ローズさんに呼びかける。


「あ、そうそう。先生に用があるって人が来たよ?」


「そういう事は先に言いなさい。ユキちゃん、スラ子ちゃん、また後でね」


「お仕事頑張ってください」


「……はあ、今日はもう閉めようかしら」


 溜め息を吐きながら、ローズさんが部屋から出て行く。

 アーリャも仕事の補助があるのか、出て行った。

 私は、まだ業務の説明がされてないから、また今度だな。


「さて」


「ドクター。にもつ、おわったよ」


「おや早い」


「だから、おそってもいいよね?」


 触手をうねうねさせて挑発するんじゃあ無い。

 まだ借り物の服だっての。


「ダメです。同じ服、作ってからね」


「ぶー」


「ぶーたれてもダメだからね。そこまで言うなら、スラ子が編んでくれたら良いのに」


 何日掛かるか分からないけど。

 綺麗にドレープを掛けようと思ったら、時間もセンスもいるだろう。


「スラ子、やることあるもん」


「うん。まあ、待っててね。すぐ終わらせるから」


 スラ子には周辺家屋の把握と警戒。

 それと、物価や変わった情報が無いか調べてもらっている。

 あんまり負担を掛けるのも、なんかね。

 気が引けるって言うか。


 ノックの音。

 手伝いに行って出戻りしてきたアーリャが、部屋に入って来た。


「ユキちゃん、スラ子ちゃん。二人に、お客様だって」


 お客様?

 私達の居場所を知っている時点で、警戒対象だけど。


 スラ子を見る。

 警戒感は無く、どうやら大丈夫そうだ。

 そうなると、知り合いか。

 一体、誰だろう?

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