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ベッド下の備え付けられていたチェストに服が入った紙袋を入れる。
マリーさんは私の仕事着を取りに部屋を出ている。
今着ているテルテル坊主服から着替えたら仕事の適正を視るらしい。
木窓を開けると陽の光が入ってくるが、埃が舞っていて空気が悪い。
部屋の中にはベッド以外の物は何もなく、水回りや火を使ったあれそれは部屋の外でする必要がありそうだ。
着ている服で口を抑えながら窓の外に魔法で風を送って埃を逃がす。
汚れが気になって来たので天井付近の埃を風を操って落としていたらマリーさんが部屋に入って来た。
「あら、魔法の制御が上手いのね。てっきり」
てっきり?
書類上は能力的な評価も低かったのかな。
「いえ、この服に着替えてちょうだい。今日のあなたの仕事はこの部屋の掃除ね」
マリーさんが服と生活用品の入った袋を渡してくる。
ここを生活出来る部屋に掃除できるかどうかも仕事のうちということか。
確かにこの部屋で生活していたら病気になりそうだし掃除をした方がいいだろう。
「ベッドが二つありますけど他の子はここで寝てないんですか?」
渡された服を広げて見ながらマリーさんに問いかける。
「ええ、個室でよかったわね。でも部屋の管理は一人でしてね」
嬉しくない、おかげで部屋の掃除も必要になったし。
それはそれとして服を着替える。
今着ている服と靴を脱ぐとマリーさんが着用補助をしてくれた。
黒色で太ももまでのストッキングをガーターベルトで止める。
ショーツとブラが無いのはマリーさんの動きで察した。
ガーターストッキングでショーツ無しとか何とも思わないんだろうか。
靴は分かりやすくシンプルな扁平パンプス。
走るのにはあまり向いていないが家事をする上で走らないようにさせているという事か。
そして仕事着を着るのだが。
まず初めに着る服は、色は黒で膝丈のロングドレスでフリルは無し。
次に白のエプロンは汚れ防止やポケットを利用して業務補助にするんだろうが、まあうん。
最後に黒のベストは肩甲骨の下あたりから腰までを靴ひものようにジグザグに締めて固定する。
乳袋だコレー!?
エプロンのみぞおち辺りにある謎の紐がアンダーカップを締め付け。
ベストの肩紐が横に逃げるおっぱいを寄せて見せる。
ドレスの胸部分が既にブラのカップ状になっていて縫製技術の無駄遣いだと思った。
下着を着けない前提だからか胸を固定してくれる工夫はありがたいが視覚的には完全に強調されている。
後ろはドレス一枚だから少しかがんだらヒップラインも浮かび上がるだろう。
もしスカートを捲られでもしたら生尻ガーターがお出迎えだ。
「……マリーさん? この服はさすがに不健全では?」
相当気まずいのだろう、マリーさんは私から目をそらすと。
「ご主人様が決めた制服だから我慢してね、もし手を出してきても私が何とかするから」
だからそのチョーカーは絶対に外さないでほしいと言われた。
えっ、このチョーカーってここの主対策だったの?
マリーさんと一緒に一度部屋を出て、階段近くの用具室から掃除道具を持ってくる。
ついでに三階にある共用トイレを見たが、小さく間仕切りされて公共施設の洋式トイレのようになっていた。
入口の魔石に魔力を吸わせる事で流す用の水を発生させてタンクに溜めるとか何とか。
使う時はここに触れてからトイレに入ってほしいって事だね。
ちなみに男子トイレは無かった、部屋は仕切られてるので男女共用なのかもしれないが。
部屋に戻ってくると晩御飯の時間に呼びに来るので掃除していてください、と言われて出ていってしまった。
服と一緒に渡された用品袋に、ホワイトブリムとスカーフが入っている。
前髪が垂れないように抑えて、スカーフをマスク代わりにした。
陽も結構傾いているので早速掃除に入る。
念のために部屋の外を見聞きして、誰も近くにいない事を確認。
ベッドはこのまま掃除するとゴミで汚れるので二台ともインベントリに一時的に仕舞った。
天井付近のまだ落とし切っていなかった埃を落として外に飛ばす。
水拭き乾拭きはもちろんズルをする。
私が出せる水は本来水圧の少ない水を手元から出す事しかできない。
だが道具を使えば話は別なのである。
取り出したのは脚立……はまあ普通のものだが、この水鉄砲が特別性だ。
魔力が極端に高ければ岩を貫通するほどの水圧が出る、まあ私には無理だが。
これに延長・変形ノズルを取り付けて圧縮ポンプをピストンすると私が出す水でも高圧洗浄機になるのだ。
ちなみに元々はプランターに肥料その他を散布するときに使っていた。
当然このまま洗うと二階に水漏れするかもしれない。
出し惜しみは無しだ。
インスタントエッグの入ったポーション瓶に特定の素材と自己魔力を詰めた水を入れることで孵化させる。
瓶が割れて出てきたのはクリーンスライム、まあ名前の通り落とした水と床や壁の汚れを取ってもらおう。
しばらく掃除をして部屋の空気も澄んだ気がする。
部屋の中の汚れもきれいに取れて明るくなったように見える。
クリーンスライムも制限時間が来てクズ魔石だけを残して溶けるように消滅した。
あとはベッドを戻して終わりである。
しまった、ベッドが案外汚い。
用具室から持ってきた雑巾でベッド台を拭いていたらマリーさんが部屋に入って来た。
窓から差していた陽の光はいつの間にか赤いものになっている。
マリーさんは部屋を見回して感心した。
「あら、意外とやるじゃない。これは他の業務も期待できるわね」
その言葉を聞いて掃除で上がったテンションが一気に冷えた。
はっきり言って後悔している。
通常業務でこのレベルの仕事を要求されたら無理だぞ……。
仕事はノルマを満たす範囲で手を抜く。
これが出来ないと心身ともに追い詰められるんだよなあ。
「今日は頑張れましたが疲れが出てしまいました、次以降の仕事はお手柔らかに頼みます」
自分で言っててすごくわざとらしく聞こえる。
マリーさんにも見抜かれたのか、こちらの話には答えずに次は何を視ましょうかなどと呟いている。
「それでマリーさんが来たという事は食事の時間が来たのでしょうか」
「ああそうだったわ、食堂で集まっての食事になるから付いていらっしゃい」
夜になってから仕事も無いだろうから明日までには忘れてないかなあ。
部屋を出て一階に降りていく、厨房横が使用人用の食堂になってるようだ。
食堂の広さは一般家庭より少し広いくらいで、テーブルには3人の女性が座っていた。
マリーさんが私の頭に手を乗せて紹介してくれた。
「この子が今日からハウスメイドとして入ったカヨウよ、よろしくして頂戴ね」
「ご紹介いただきましたカヨウです、よろしくお願いします」
自己紹介をすると座っていた3人の女性も名乗ってくれた。
一緒に働くことになる予定の先輩らしい。
今ここにいない人は厨房が2人に後は庭師と警備の人で全員、あとはここの持ち主の関係者がいるとか。
広さの割には館内清掃4人は人数が少ないような、日ごとに清掃個所を変えれば仕事は回るのかも。
自己紹介も終わり、食事の時間になったらマリーさんは出ていった。
主人の所で侍従をするとか、メイドの管理と侍従の兼任って普通は片方しかしないと思うのだが。
食事が終われば特に歓迎会なんてする事も無く、そのまま4人で一階裏口近くの洗い場に移動した。
皿洗いではなく浴場で体を洗うのだが、なんと風呂場に湯殿がある。
ここも使用人用らしく4人で使うのはギリギリといった大きさ。
石鹸は変な臭いも無く、少し質が悪いかなといったくらいだ。
みんなで一緒に入って身体を洗ってくれたのは覚えているが、それ以降は記憶にない。
見られるのは抵抗が少ないが見る方は罪悪感があるので目をそらしていた。
だがその後、抱き着かれて揉みくちゃにされたような気がする。
強がっている子供に見られたかもしれないな。
外は暗く館内は月明りしか入ってきていない。
夜間の移動は魔石ランプを発光させて目的地に向かう必要がある。
三階に戻ると翌日からの仕事がある事も考えてすぐに寝ることにした。
寝間着に着替えると気分的に解放されて、疲れが出てきた。
朝に起こしてくれると言っていたのでその時間まで疲れを取る事にしよう。




