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107 リアルで見た夢を端折った話

「先にネタバラシをしておきますが、この付与魔法で怪我することは無いです」


 グロースバトンの両端から、黄色く発光した刃を発生させる。

 片方だけなら見た目はナギナタ。

 しかし、両端から刃が出ているナギナタバトンでは自傷に気を付ける必要がある。

 普通なら。


「刃で切られても、気を失うだけ」


 見せつけるように、黄色い刃で自分を切る。

 胴を、横薙ぎに。ゆっくりと。

 相手は驚いた顔を見せ、そして納得した。

 輪切りにしたはずの私の身体には、傷一つ付いていない。

 魔力を合わせたから、精神に与えるはずのダメージも入っていない。


「さあ、始めましょうか」


 相手は10位。

 最下位ながら、ランク表に入る程の実力者。

 舐めては掛かれないが、その張りついた笑顔を凍らせてやる。






「学園編、くる!?」


 ベッドから体を起こす。

 見た夢を忘れないように、口の中で反芻する。

 これで、意外と思い出せるようになるのだ。


「う~、ユキちゃん? ……あう」


「おはよ、アーリャ」


 同じベッドで寝ていたアーリャが、目をこすりながらあくびをする。

 目を直接こすると、視力が低下する原因になるから、しないようにしようね!


 先に断っておきます。

 抱き枕にされて一緒に寝たけど、アーリャに手は出してません。

 ただ……そう。

 寝る前に、見せて聞かせただけで。


(私は途中から余裕無かったけど、どうだった?)


(とちゅうから、きょうみしんしん。かなりのムッツリ)


(いやあ、それは可哀相じゃない?)


 アーリャは一昨日の夜中、夜這いを掛けられそうになった。

 なので、昨日の夜は私の部屋で一緒に寝ることに。


 しかし、私は欲求不満が限界でギュンギュンだ。

 だからアーリャを誘ったけど断られたので、しかたなく。

 そう、しかたなぁぁくスラ子と絡んで寝たのだ。


 彼女は最初、毛布を頭からかぶって耳を塞いでいたのは覚えている。

 だけど、そこは思春期の女の子である。


(スキマからみていたよ。ひっしに、こうふんをおさえてたけど)


(だったら、見なければ良かったのにね)


 耳を塞いだとしても、喘ぎ声は貫通するから我慢できなかったのかもね。

 普通の宿の薄いドアくらいなら、女性の声は余裕で廊下の端まで響くのだ。

“VRホテルでバイト”で清掃をしていた時も貫通した声が逆側の端まで――って、この話はいいか。

 魔道具で部屋の外に音は漏らさないようにしているけど、アーリャには直接響いたはず。


(さあ、何日我慢できるかな?)


(うわあ、わるいカオしてるー。ドンびきー)


 おっと、そうじゃあ無かった。

 夢の話だ、冒頭に戻る。


「それで、相手の首をバトンではねる寸前で、審判に止められた夢を見たんだよ」


 スラ子に身体を洗ってもらっている間、夢の話をする。

 アーリャは、まだベッドでウトウト。

 起きるまで、もう少し掛かるかな?


「次の9位。黒豹人がスピード型で、殴り合いに負けた私が逆に超スピードで圧倒した」


「ドクター、つよくないでしょ」


「うん、まあ。夢だからね? もしくは、最初から擬態したスラ子が出ていた可能性もあるかな?」


 状況を考えるとあり得る。

 何故か素手の、原始的な殴り合いには付き合いたくないはず。痛いの嫌いだもん。

 だったら、すり替えて表には立たない、かも。


「それでぜんぶ、たおしたの?」


「うんにゃ。8位の魔法使いのお姉さんに、土下座して勘弁してもらった」


「ええ……つよかったの?」


「凄かったよ。頭上に上げた手の先に、巨大な火魔法の玉を出されたもん。あれは無理」


「なら、しかたないね」


 実際どうなんだろうね。

 私もスラ子も魔法に弱いけど、それは同レベル帯の相手ならという前提がある。

 学生程度の魔力なら、それほど脅威だとは思えないけど。

 まあ、そこも夢だからでいいか。

 そもそも、ランキングが10位までしか無いとか在学生が少なすぎだろう。


「こういう話は、途中で負けておかないと面倒になるからね。勝ち取った位階も返した所で目が覚めたよ」


 いつの間にか、起きて髪を整え始めたアーリャが聞いてきた。

 スラ子が濡れタオルを渡して身体を拭いている。


 私が見ているのに、いいのだろうか……?

 客観的に考えたら、女の子相手に気にしないか。

 あっ、生えてない。

 なんだ、パイパンならそう言えっての。


「それで、学園ヘン? って何?」


「えーと、夢が現実になったらですよ? どこかに入学でもして、そういう状況になるんじゃあないかなーっと」


「へー! ユキちゃん、夢見る女の子だね!」


 おおう、朝起きてすぐにハツラツとした声を出せるとは。

 起きるまでは遅いけど、エンジンが掛かるのは早いね。


 ん? 夢見る女の子は違わないか?

 殴り合いの女子力……死と隣り合わせの灰色の青春?

 大事な何かを覚えられ無さそうな。

 ああ、学園に入る下りがそう聞こえただけか。


「そう言われると、ちょっと恥ずかしいなー」


 入学して学園ルートかあ。

 まあ、あったとしても面倒事は避けて通るだろう。

 競い合って青春するのも悪くは無いと思う、だけど。


 何もしなくても平和に生きられるなら、そういう生活もしてみたい。

 しかし、それで満足するかは分からないなあ。


「スラ子も、ゆめみたよ」


「へー、どんなの?」


「えっとねー」






 密閉型の自走式ゴーレムがアスファルトを走って行く。

 情報が確かなら、この先にターゲットがいるはずだ。


「あそこ」


 道路脇に設置されている投書箱。

 側面にはタバコの火を押し付けて消したような跡が。

 この辺りには、当然のように広まっているのだろう。


「あの子も」


 歩く子供の手を見ると、火のついた紙巻きが握られている。

 あんな子供まで標的にするなんて。


「みえた」


 歩く集団。

 その目の前に自走ゴーレムを止め、ドクターが降りる。

 リーダーと思われる男を前に、本人か問う。そういう手筈だった。


「スラ子、本当にこの人なの?」


「まちがいない」


 中肉中背で特徴が少ない。

 裏に生きるなら、他人の記憶に残りにくい点は優れていると言える。

 ドクターは、見た目に騙されているのだ。


 いつものように、アホ面で相手を見ている。

 まるで当たらない考え事をしている時の表情だ。


「つかぬ事を伺いますけど、あなたがまとめ役ですか?」


「あ、はい。そうですけど」


「一応、名乗って貰ってもよろしいでしょうか」


「モンスターバンディットのオフカイで、リョウダンの集まりです」


 お不快なら両断する集まり、だって!?

 やはり、こいつらはマズイ。

 誰にも気づかれない様に、始末する準備を整え――





「ここで、おきた」


「へー、ふーん? あ、そう?」


「だから、ドクターはきをつけてね」


 ダメだコイツ。

 普段から情報の共有はしておかないと、何するか分からないな。


「ふんッ!」


 スラ子にボディーブロー。

 ノッてくれたのか、身体をくの字に曲げてくれた。


「なにするの」


「最後の人、ゲームで集まった人達じゃあねーか!」


 某狩りゲーのオフ会の集まりって言ってるし。

 あと、アホ面呼ばわりしていたのは許さん。

 私の深淵なる考察も、当たった事はあるよ!

 ……あるよね?


「ゲームはあそび。げんじつじゃ、ないよ?」


 うーん、前提知識が違うのが辛い。

 何て説明したら良いだろうか。

 そもそも、夢の話を真面目にするのが……まあいいや。


「えっと、遊びを交流の手段として使っている人が、他の場所で同好の士を募って遊んでいた?」


「なるほど?」


「まあ、夢だから仕方ないでいいか」


 それよりも、変な知識がスラ子に流れている方が気になる。

 まだ、アスファルトなんて見せたことは無い。

 感覚リンクの副作用だろうか?

 それとも、前に渡したスキル書に作り方書いてあったかな?


 話を聞いていたアーリャが、乗ってくる。

 恥ずかしそうに。


「あの、ね? わたしも夢、みたの。……深い意味は無いと思うんだけど、その」


「どうぞどうぞ、夢なんて支離滅裂なものだから」


「ユキちゃんと、スラ子ちゃんが……とっても、いやらしい事をしていた、夢」


 うん。

 夢にしておきたい、そういう事か。


「それ、夢じゃあないから」

「それ、ゆめじゃないよ」


「……え? えっ?」


 現実は非常である。

 事実は事実として、受け止めてほしい。

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