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106 クリーピング金貨の音

「今、何て言った?」


「いや、ですから。金貨を作る事が出来る、と言ったんですけど」


 難聴系主人公かよ。

 聞き返して理解しようとするだけ好感が持てる。


「はっははは! 冗談キツイだろ! そんな事が出来たら裸で町を一周してやるよ!」


 あー、さらっと流してほしかったな。

 本当に出来たら、とか考えないのだろうか。


 まあいい、金貨の作り方を教えたら良い情報を教えてくれると言ったのだ。

 この場で錬成する以上、錬金魔法を見せる事になるけど、口は堅そうだから問題無いだろう。

 何だったら口止め料でも払えばいい。


 フードの事は気にせず、淡々とテーブルに材料の入った小瓶を並べていく。

 それと、手のひらサイズの小さな金のインゴット。


「お? 手品でも見せてくれるのか? すり替えて金貨が出来ました、みたいな?」


「ちょっと、静かにしていて下さいね。集中したいので」


「おっと、悪いね。何を見せてくれるのか、楽しみでなあ」


 これからの錬成は、いつもより繊細さが求められる。

 材料には皮脂や埃も付けたくない。

 小瓶の中身を、それぞれ必要な分量を浮かせて保持。

 風の膜を張って汚れない様にしておく。


 金をベースに錬成を開始。

 それぞれの材料を錬成して、中間素材に変えながら金に練り合わせる。

 光、臭い、音が発生していないか注意。

 錬成時の変化が目に見えるという事は、魔力が余計な反応をしているので危険な兆候だ。

 各種素材が浮いている空間は、まるで宇宙のチリが集まって星が出来る過程に見えるかもしれない。


 見た目には地味な錬成が続く。

 迷いのない手順で進めていても数分かかる魔法が、やっと終わる。

 最後に暗号化の保護魔法を掛けると、よく見た金貨の形に自動で成型されていく。

 保護魔法が錬成素材それぞれに波及する。

 空間内の魔力で吸収と放出の繰り返しが行われ、不規則な波長が発生した。


「とまあ、これで完成です」


 じゃーん。

 指で金貨のふちをつまんで、フードに見せる。

 宇宙の星の行く末は金貨でした、なんちゃって。

 

「おいおい、貨幣の偽造は死罪だぞ……?」


 まあ、そう見えても仕方ない。

 指で弾き、フードへ山なりに跳ばす。

 ナイスキャッチ。


「本物ですよ、両替商に持ち込んでも問題無い――」


 問題無い、と思うが。

 実際には使ったことが無い。

 実は、別物である可能性も考えておくか。


「いや、念の為に本物かどうか調べてください。結果がどうであれ、その金貨はあげますよ」


 フードは金貨の裏、表、重さ等をめつすがめつ眺める。

 そして、アゴに手を当てて何かを考えている様だった。


「こりゃ、世界が変わるかもな。金貨を作り放題ってヤバいだろ、なあ、夢じゃないよな?」


「夢ではありません。ただ、現実は厳しいですよ」


「なに?」


 問われた疑問を無視して、紙に材料を記入していく。


 金。

 猫の足音。

 純水の結晶(氷ではない)

 竜の鱗。

 化学物質エックス。

 他にも素敵な物がいっぱい。


「どうぞ、配分までは教えられませんが。それでも錬成過程を見て頂いてましたから、大体分かるでしょう」


 さっきまでテンションが上がっていたフードの声が、急にトーンを下げた。

 まあ、分からないでも無い。


「なあ……これ、いくらくらい掛かる?」


「金貨で換算していいなら、500~1000枚くらいでしょうか」


 正直、相場は不明。

 だけど、どれだけ安くてもこれ以下は無いだろう投げ売り価格を告げたつもりだ。

 実際は、更に十倍、百倍もありうる。


 技術料は、また別。

 仕入れは七掛けが多いんだっけ?

 じゃあ、更に1.5倍だな!


「金貨を作るのに、それ以上の価値がある材料を使うのか」


「厳しいでしょう? だったら、その材料をそのまま売った方が、金になりますから」


 その時、フードに天啓が降りる。


「そうだ、逆だ。金貨を分解して、材料を取り出せば……!」


 そう、市場の金貨を犠牲に、無限の富が手に入る。

 それが出来れば。


「先に言っておきます、無理です。今から、理由をお見せします」


 金貨を取り出し、今度は分解する手順を踏む。

 作れたのだから、逆手順で良い。

 そんな風に考えていた事が、私にもありました。


 金貨の形を保っている要因である、保護魔法を解除する。

 保護が素材全てに波及しているので、全て同時に解除する必要がある。

 これが少しでもズレると、魔力に還ってしまう。

 タイミングを図って、解除に掛かるが……。


「見て! 金貨が魔力に還っているよ! お前のせいです。あーあ」


「勝手にやったのは、お前だろう……?」


「あっはい、何か流れで。金貨から、不規則な魔力が発生しているのは知ってますか?」


「ああ、もちろん。これがあるからこそ、偽造コインの区別がついてるからな」


「その魔力のせいで、保護魔法の暗号化が実時間単位で常に変化しています」


「難しく言わなくても良い、つまり?」


「金貨の分解は、理論上可能、実現不可能。あ、皆既月食が起こった瞬間は別です」


 月が隠れた瞬間の魔力パターンが、毎度同じ波長だとして観測されていた。

 その検証結果を基に、金貨の分解を試せば成功するだろう。

 もし出来たとしても、一枚だけで意味があるとは思えないが。


「六十年に一度の夜。ヴァニッシュト・ムーンか」


 なんか、格好いい言い回しだな。

 片目に眼帯してそう。


「ただし、研究しようとして観測出来るのは、その一瞬だけ。更に試行するのは六十年後、ですねー」


 こっちでは六十年ってのが、また気の長い話だね。

 皆既月食の時に、イベントが定期開催されてたなー。

 最後にやってたのは、大規模襲撃だったか?


「七日後か、すぐに頼めそうな錬金術士の伝手を探すか……?」


「えっ、七日後? 六十年に一度なのに?」


 都合が良すぎだろう。

 作為すら感じられる。


「運が良かったな。いや、運が無いのか。月が消える時、不吉な事が起こるらしいぞ」


 月が無い、運の尽き。

 命運が尽きて最後の時が来たこと。辞書からの引用より。

 うーん、縁起でもない。


「あの、もうすぐ錬金術ギルドの試験なんですけど」


「中止にならないと良いな。聞きたい事は、まだあるか?」


「金貨の秘密を教える事が出来たら、裸で一周……でしたっけ?」


「うああ、そんな事言ったか? 言ったな、言ったよ」


「しなくても良いですけど、そのかわり」


「なんだ、何でもするよ」


 裸で町を一周したくない一心に、焦っておかしなことを言い始めたな。

 そんな事を言ってたら、いつか後悔するぞ。


「私が金貨の情報を出した事、それに関わる内容は一切口外しないでください」


「ああ……? そうか、そうだな。分かった、なるべく話したりはしない」


「絶対、です。もし、話したら」


「話したら?」


「物理的に話せないようにします」


 フードはしばらく押し黙る。

 そして。


「具体的にどうするか、聞いても?」


 あえて聞いてくるのは、嫌いじゃあない。

 テーブル下で、ハンドサイン。

 魔力通話でも大丈夫だろうけど、傍受の可能性を考慮。


 既に相手の体内に潜り込んでいたスラ子が、声帯だけを一瞬で溶かす。

 違和感に気付いて、声を出そうとするが。


「……? ――!」


 呼吸音が漏れ聞こえるのみ。

 スラ子は再生薬を流し込み、回復させる。


「もう、大丈夫ですよ」


「あ、あー、うっうー。はあ、生きた心地がしなかったぞ」


「ついでに、胃が荒れてたので治しておきましたよ」


「……それは、どうも」


 リンクする事で、内視鏡のように使えるのは面白いね。

 網膜に投影して、半透明に透かして見せるスラ子の技術に感動すら覚える。


 最初に見せられた時はアレの断面図で、一瞬だけ恐怖を感じたけど。

 その後調子に乗って、後ろからの視点と中から映したワイプを脳内に出し始めた時は笑ったが。

 あ、そうだ。

 金貨の話に逸れたせいで、まだ聞いてなかった。


「最後の質問、まだ聞いてなかったですね。では改めて、魔晶石を狙う人っていますか?」


「いくらでも。てーのは、答えになって無いな……」


 フードは、店内に耳を立てている人がいないか気にした後。

 やっと口を開いた。


「鮮烈のブラッド。こいつが最近、力をつけて――」


 やばい、笑いを顔に出さない様にするので必死だわ。

 全然、話が入ってこない。

 その名前は、自称だろうと他称だろうと恥ずかしさが振り切れてないか?

 鮮烈のブラッドさんがやってくれた! とか言うの? きついわー。

 この先生きていくなら、二つ名に触れる機会も増えるのだろうか。


「えっと、何か、特別な特徴は?」


「血を使った能力、らしい。これ以上は不明だ」


「いえ、良いですよ。関わる気は無いですから」


「あん? じゃ何で聞いた」


「それっぽい人がいたら、逃げる為。でしょうか」


「そうか、賢明だと思うよ」


 正義の味方を気取って、邪魔するのが正しいのか分からないし。

 町からみたら悪だけど、魔晶石があるせいで世界がヤバイとかありそうでねえ。

 魔晶石って、精霊の魂の亜種では? と思わないでも無い。

 実際どうするかは現場判断で良いだろう、やりたいようにやるのが一番良い。


「なあ、手を組まないか?」


 ほえ? いきなり、そんな事を言ってくるとは思わなかった。

 一瞬だけ喉を潰して脅したつもりだったのに。

 フードには挨拶程度だと思われたのか?


「いえいえ、私は善良な錬金術士見習いですので」


 肘先を振って腕輪が無いアピール。

 銀級にすら、なってませんよー?


「ハッ、冗談の多いガキだな。この話はまた今度でいい、気が向いたら呼んでくれ。後は何かあるか?」


「いえ、もう十分です。それでは、くれぐれもお気をつけてお帰り下さい」


「ああ、それじゃ失礼する」


 それでは早速、とフードは席を立ち、去って行く。

 結局、顔は分からなかったなあ。

 あえて見ないようにしていたのもあるけど。

 別に、見たいとも思わなかったし。




「もし、ヒミツをはなしたとき、どうする?」


 フードが店から去ると、スラ子が問いかけてきた。

 そりゃあ、勿論。


「殺していいよ。やらなきゃ、私が命を狙われるような情報だもん」


 自分の身は自分で守るのがルールってものですよ。

 権力に訴えた所で、個人情報保護の概念があるとも思ってないし。

 個人情報に気を遣うようになったのは、結構最近だったような?


 まあ、あの脅し方なら、余程の事が無い限り私の情報を喋る事は無いだろう。

 金貨の情報も下手に話そう物なら、フードの方に厄介ごとが舞い込んでくるだろうし。


「そもそも、みせるひつよう、あった?」


 金貨の錬成手順の話かな。

 何で? と、言われてもね。


「面倒になった」


「どういうこと?」


「どうせ、何かに巻き込まれるだろうと思って。だったら、先手を打ってコントロールしようかと」


 受け潰しって神経使うから、あんまりしたくないんだよね。

 先手必勝! とまでは言わないけど、牽制して面倒事の予兆は察知しておきたい。

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