100 茶番オンライン
道は作るもの。
用意されている道だけに頼ってはいけない。
(それでも、もうちょっと進んでからのつもり、だったんだけどなー)
(なんかズルい、きがする)
呼吸器を噛んで、酸欠に備えた。
意思疎通も魔力通話に頼って、スラ子に危険物を感知してもらっている。
一応、私もソナーで周囲警戒もしているけど……。
精霊の魂を失ってソナーも弱体化してしまった。
今は、私のエルフ耳に聞こえる範囲の音を発して把握している。
可聴範囲外の音を拾って、索敵出来なくなったのは痛い。
私が聞こえるという事は、他の人にも聞こえてしまうからだ。
隠密性が売りだったのに、これでは迂闊に使った場合、場所を教える事になってしまう。
上を仰ぎ見て、確認。
崩落し続けている頭上部分は、適宜固めて生き埋めにならない様にはしている。
これで、上から危ない液体を流される心配は無い。
あとは真下に掘り進むのみ。
(いやいや、本当にこれがズルなら対策を取っているって)
進行ルートが全部、岩壁で掘れる状態だったのは入って一歩目から分かってはいた。
問題は精霊に破壊行為を咎められないか、掘ったときの罠が無いかだ。
だけど、もういい。
面倒になったから掘った、何かあったらスラ子が何とかしてくれるでしょう。
(ぜんぽう、ひろいくうかん)
(どれくらい?)
(ちょっとまって)
前方……と言うか、下か。
スラ子ナビからの忠告。
掘り止めて、感知結果を待つ。
だが、そんな余裕は無かった。
(うっ、あ!?)
崩れて、宙に浮く感覚。
不意を突かれて、受け身もとれない。
バランスを崩したまま、地面に。
「あぶなかった」
叩き付けられる直前で、スラ子がお姫様抱っこで衝撃を防いでくれた。
ナイスキャッチ。
ちょっと、びっくりしたくらいで、痛みは全くない。
「ふー、意外と脆かったねえ」
上を見ると、掘ったはずの穴が消えている。
自動修復? そうなると、掘り進んでも安全とは行かないのか。
身体が変わり、魔力の視ることが出来なくなったのが痛い。
魔力感知だけでは、壁も含めて高濃度の魔力が含まれてる事しか分からない。
左右を見ると、現在位置は通路の真ん中。
下のフロアのどこかに出たらしい。
「こっち側から、大量の動く音が聞こえる」
「おと、かるい。どうぶつ?」
逆側に逃げてほしいかのような追い立てかたに、作為的なものを感じる。
だったら、やる事は一つ。
「殲滅出来る?」
「もちろん」
スラ子の下半身が地面を覆っていく。
薄く広がり、通路前方を侵食していった。
「特徴的な鳴き声。見えた……ねずみ、だけかな?」
奇妙な程、甲高い鳴き声。
夢のテーマパークに出そうな鳴き声を上げながら、四足歩行のねずみが押し寄せて来る。
大きさは普通のラット。
一匹辺りは大した強さでは無いけど、あの数に襲われたら体中食いちぎられるかもしれない。
スライムカーペットに侵入。
即座に手足は溶け、命だったものが転がっていく。
しかし、数は多い。
死骸を乗り越えて足場にして、溶かすよりも早く、どんどん迫って来た。
もう、目の前にいる。
「ざんねんでした、またどうぞ」
スパイクトラップ。
スライムカーペットから細いスライム針が、垂直に伸びているのが見えた。
伸ばし、引っ込めて、また伸ばす。
ネズミの音が消えていく。
もはや勢いは無く、まだ遠くにいるネズミの運命も変わらないだろう。
スラ子は適当に攻撃しているかと思いきや、ネズミを正確に撃ち抜いていた。
死骸が積み重なる前に、下の方の死骸が浄化されて魔力に変わり、消えていく。
浄化の光の泡が空中を舞う中、一方的な光景が数分続いた。
そろそろ動くか。
「この石、とーまれっ」
水精の結晶体を掲げて、精霊呪文を唱える。
一連の動きに反応した浄化魔力が、結晶体に吸い込まれて行く。
転移に必要な魔力を私だけで充填してはいるけど、まだまだ時間が掛かる。
他で補充できるなら、その方が効率が良い。
ちなみに、何故この呪文で魔力が結晶体に集まるのかは私にも分からない。
「お疲れさま。いやー、多かったね」
「あれくらいなら、てきじゃない」
頼もしい、お言葉です。
まだまだ余裕で何より。
「掘り進むのも危険だね」
「いちばんしたまで、ほってもいいよ」
「そう? じゃあ、どんどん行こうか」
掘った先。
「次の場所、どうぞー」
今度は、問題無く着地。
降り立った場所は……誰かの、部屋?
質素な家具で揃えられている。
ベッドが備えているが、部屋は十畳くらいで狭い一人部屋。
天井には明かりが下がっているだけの殺風景。
都心部の一般的な人の部屋にも見える。
降りてきた穴を探すが、見当たらない。
窓は無いが、ドアはある。
さて。
「これ、みて」
「うん? あー、これはこれは」
『――しないと出られない部屋』
スラ子に呼ばれ、テーブルの上に置いてあった紙に書かれていた内容がこれだ。
直接的すぎてボカしたが、まあそういう事だ。
「それじゃあ、さっさと終わらせようか」
「わな、だとおもうけど」
「書いてる通り、しないと出られない罠じゃあ無いかな」
ドアを開けようとしても、やはり開かない。
この類のネタは、まごまごしていると竿役が入ってくるか、強制性を持たせるかだ。
結果が変わらないなら、精神的負荷が掛かる前に終わらせるに限る。
誰かに見られてるかもしれないが、逆に見せつけてやればいいだろう。
「いやあ、良い気分転換になった」
「ほんとに、ドアがあくなんて」
喉が枯れるほど叫んで、腰の感覚がなくなるくらい頑張った。
まだ、身体がふわふわする。
ポーションを飲んで回復待ちをしている間、今はスラ子に騎乗して通路を移動中。
腰が抜けて動けないから仕方ない。
本当は部屋から出るだけなら、条件に従う必要も無かったのだけど。
特殊条件で作用する術式を学ぶことが出来たのは良い収穫だ。
普通、こんな馬鹿らしい条件なんて指定しないからね。
通路を進むと、すぐに大きな生き物が見えてきた。
どう見ても、スフィンクス。
行き先をふさいでいるって事は、まあ良くあるリドルって奴だよね。
『ここを通りたくば――』
「前置きは良いから、問題早よ」
そんなの、色んな所で聞き飽きてるからね。
『分かった。問題! これ、何問目?』
「え……一問目?」
『正解! では次。これ、何問目?』
「は? ええっと、二問目」
『正解! では次。これ、何問目?』
「三問目」
『正解! では次――』
え、何これは。
バグってんじゃねーの?
いや、ランダム出題なら小数点以下の確率であり得るのか?
同問題の除外設定をしてない時点で、ダメダメだけど。
『次の歌に続け。勝ってうれしい、花?』
「……いちもんめ」
駄洒落かよ。
『正解! では次。これ、何問目?』
「五問目、時そばやってんじゃねーよ!」
「正解は?」
うん?
何の話か分からず、詰まっていたらスラ子が答えた。
「いちごせいか!」
「にっこにっこ、やっぱり、いちごマン」
『にっこにっこ、やっぱり、いちごマン』
何なのだコレは?
一体どうすればいいのだ!
『あなたの好きなモノは?』
「ざるそば」
「ドクターのミルク」
『アンケートにお応え頂きありがとうございました、こちらの道をどうぞ』
スフィンクスは立ち上がり、二足歩行で道の脇に退いた。
お辞儀をしたまま、私達が通るのを待っている。
問題ですら無くなったんですけど。
全体的に黄色いスフィンクスだけど、下腹の毛は白くてふさふさだあ。
つっこみたくなるな。
あ、ついてない、こいつメスか……。
そのまま通り過ぎ、次に進む。
「なにか、みえてきた」
「もう? 早いね、何だろう」
トンネルのような通路から見える、広場。
たったひとつの施設。
それが強調されるように、広場の真ん中に配置されている。
キラキラと明かりが周りを照らし、馬と馬車の作り物が乗り手を待っている。
「これはいったい、なに?」
「ぬうっ、これはメリーゴーランド! よもや、こんな場所で出会えるとは」
「しっているのか、ドクター!?」
「乗ったが最後。もし、生きている馬がいた場合、黙らせないと呪い殺されてしまうという……!」
嘘だけど。
いや、ほんと何でこんな所に?
どう見ても場違い。
罠を警戒したが、逆に考えよう。
乗らない事で何か、不利益を出すための罠だと。
「何かよく分からないけど、とりあえず乗ろう!」
「……えっ、こんなにアヤシイのに?」
乗るしかない、このメリーゴーランドに!
スラ子に乗ったまま、馬車の乗り物に移動してもらう。
馬車内の椅子に座ると、アナウンスが流れて動き始めた。
チープな上下運動。
円周軌道を周るだけの、どこかこもった音楽。
「おもしろかった」
「これ、何の為に作られたのかな?」
腰が抜けていたけど、終わる頃にはすっかり回復した。
スラ子と一緒に降りて、広場から離れる。
「きにしたら、まけ」
なるほど。
私は負けちゃったのか。
「負けちゃって、ごめんなさい?」
「そこは、おしりふりながら、さそってしまって、ごめんなさいっていわないと」
「それは違う」
もう、この前に催眠術をかけてやったばかりでしょう。
あれは被支配感がすごくて、えげつない落ち方するから嫌いじゃあないよ。
その後は、博物館を歩いていると錯覚するような部屋が続いた。
大きい円筒状の水槽に、脳の模型が入った古いイメージのマザーコンピュータ。
軌道エレベーターや衛星基地も含めて記されている天球儀。
炭素を爆発物に変えて、世界を破壊し尽くす、連鎖破壊爆弾。
見上げるほど巨大な、人型二足歩行機械なんて物もあった。
動いたとして、エネルギーとランニングコストをどう捻出するのだろうか。
ロボットアニメのように、架空エネルギーと架空金属が無制限に採れるならまだしも。
図体がデカイからパーツも大きく作ればいい、とはならない訳で。
「これ一機だけで、国の軍事費が全部飛びそう」
それともファンタジックに魔力で駆動するのか?
その場合、更に問題が出てしまう。
大きさが強さに直結しない所だ。
ファンタジーってほとんどの場合、大きい方が負けるよね……。
「うごくところ、みてみたいかも」
そう言われると、少し気になる。
近寄って、乗り込むところが無いか調べようとしたが無理だった。
見事な立体映像。
実体は無く、スッカスカな虚像だ。
「なーんだ、詰まんないの」
異世界勇者、クリーム・ソーダが巨大ロボに乗って世界を救う!
俺は今、猛烈に熱くなっているッ!
みたいな展開が、あるかと思ったのに。
個人的には、謎の第三勢力として出演したい所。
二回行動して、経験値を泥棒する忍者になりたい。
「ドクター、つくれる?」
どうだろう。
大きくしてもインパクトがあるだけで、実用性がねえ。
ふむん?
「ちょっと思いついたかも、作ってみたい物が出来たから設計してみる」
ロボでは無い、けどインスピレーションは頂いた。
集中したいので、スラ子に騎乗する。
移動は任せて、私は設計を詰めていこう。
しかし、この辺りは近代的な区画だな。
精霊界は色んな世界と繋がっているらしいから、こういう所があって当然なのかな。
100ページ到達ですが、特に何もありません




