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私と神様(変態)はお友達  作者: いもすけ
6/12

6.神様と友達に

ちょっと長めです。

 神様が私を庇うようにして立ちはだかりました。


「は、祓う?あの妖を祓えるんですか?」

「まぁね~。僕神様だし」


 またドヤ顔が出た。

 祓う――そう言った神様は、手の上に火の玉を出した。

 そうして徐々に火の玉は、何かを形作るようにして姿を変えていく。

 そうして一つの道具ができた。


「そ、それは……」

「うん。見てのとーり、鈴です!」


 じゃーん!と、神様は得意げにその道具を私に見せてきた。

 神様が鈴と言ったそれは、誰かしらは見た事があるでしょう、巫女さんが振っているやつです。

 そう、いわゆる、神楽鈴とやらです。


 神様はそれで、あの妖を祓うつもりなんだとか。


(し、心配しかないんですけど……!)


「まぁ見ててよ。琴乃は今おばりよんの邪気で動けないだろうし」


 待っててねーと言い残して、神様は炎に囲まれているおばりよんの所へ歩いて行った。


(た、確かによくわからないけど、身体が動かない……!)


 まぁ私が動けたところで何もできないので、とても自信満々の神様に任せることにします。はい。


「……おばりよん」


 神様は妖の――おばりよんの元へと歩いて行き、目の前で立ち止まりました。


「ヒトに慿く事はあれど、君はあそこまで力を出す事はなかったじゃないか。どうして琴乃にだけずっと慿いていたの?」

『……』


 何かを喋っているようですが、ここからでは聞こえません。


「いつから自我が無くなってしまったの?それも、何か原因があったの?」

『……グゥ……』


 炎は次第に、おばりよんを追い詰めるようにして狭く小さくなっていきました。


『アノ…』

「ん?」

『ァ、アノニンゲン……オ、オイシソウナ、ニオイ、シタ……』

「……!」


(?今なにか言った?)


 おばりよんが何か言ったような気がしたけれど、私には聞こえなかった。

 けど神様には聞こえたみたいで、なぜかそのまま立ち尽くしてしまった。


「……本来なら人間は食べない君が、そこまで思うなんてね」

『グゥゥ…!!タ、タベタク、ナイィ……イヤダ、…ァァァ…』

「……うん。そっか。――ごめんね」


 神様は手に持っていた神楽鈴を天に掲げると、一回、シャンと鳴らしました。


 その瞬間、おばりよんを囲んでいた炎が倍近く大きくなった。


「――天照(あまてらす)の名の元に。その御魂を鎮めよ」


 そう神様が言い放った時、炎はおばりよんの体を包み込んだ。


『ァァァァァァァッ』


「っ……!」


 炎に焼かれるおばりよんの鳴き声は、耳をつんざく様な響きで。

 聞いているこちら側もなぜか、胸が苦しくなりました。


(ああ……痛いんだろうな。苦しいんだろうな…)


 私はおばりよんが青い炎に焼かれている様を、目を逸らさずにずっと見ていました。




 気がつけば辺りは静まりかえって、炎も消えていました。

 おばりよんがいた所に、神様が立ち尽くしているまま。


「……ぁ、」


 神様に声をかけようとしたけれど、頭が急に大きくぐらついて。


 そのまま私は気を失ってしまいました。




  ♢ ♢ ♢




(うん……?なんだかすごく…気持ちいい……)


 あぁそうだ。確か私は気絶してしまったんでした。

 あの後どうなったんでしょう?神様は?というか私は今どういう状態ですか?


 まだ微睡みが残る中、ゆっくりと瞼をあけると――


「あ?起きた?」

「――っ!?」


 ひょっこりと、私の顔を覗き込む神様と目が合いました。


「んなぁっ!?」

「あ、ちょっと、暴れないでよ」


 がばっと起き上がろうとした私の頭をゆっくりと押し戻す神様。

 いや、何でそんなに落ち着いていられるんですか!?

 というかこの状況は!ま、まさか……。


(かっ、かかか神様に、膝枕されてる!!?)


 そう。私は膝枕されていました。

 一体なぜそんな状況になったのか知りませんが、起きて数秒で私はもうパニック状態です。


「まだおばりよんの邪気が取れきれてないんだから、安静にしていた方が良いよ」

「え?あ……」


 そういえば、気絶する前に邪気が云々と言われたっけ。


「あの、邪気って何ですか?」

「んーとね。邪気っていうのは、妖が放つ気のことだよ。邪悪な妖ほど邪気を放ちやすいし、ヒトには害しかないね」

「な、なるほど…。あ、じゃああのおばりよんはかなり悪い奴だったってことですか?」


 私がそう言うと、神様は「うーん」と唸り始めた。


「ううん。おばりよんは元々あんまりヒトを襲ったりしないよ。どうしてか今回は自我すら失っちゃうほど、暴走してたみたいだけど…」

「そ、そうなんですか…」


 どうやらおばりよんがそうなってしまった原因は、神様にもわからないらしい。


 まぁ確かにすごく重かった。

 今思えば、あの重さに耐えられた自分はかなりすごいと思う。

 けれどあの重さのせいでまた肩が逞しく――


 そう思ったところではっと思い出す。


「そうです神様!!私の願いはどうなったんですか!?」

「ん?願い?何のこと~?」


 今度こそ起き上がった私は、神様に面と向かい合いました。

 そうです。この一件で忘れてましたけど、私は元々願いを叶えて欲しくてここに来たんですから!


「とぼけないで下さい!私の、肩幅を縮めるっていう願いです!叶えてくれるって言ったじゃないですか!」

「えぇ~?やだなぁ琴乃ったら。僕、叶えるなんて一言も言ってないよ~?」

「は!?」


 何言ってんのー?とヘラヘラとぼける神様に、私はわなわなと震えました。


「だ、騙したんですか!?」

「騙すなんて人聞きの悪い~。僕は願いを〝聞いてあげる〟って言ったんだよ?叶えるなんて言ってないも~ん」


(つ、つまり……)


 願いを聞きはするけれど、叶えるとは言っていない。

 確かに神様は「叶える」とは言っていなかった。そう。言っていなかった。

 ということは。


「わ、私の勘違いなんですかぁ……!?」

「あっはは。そういう事になるねぇ」


 わなわなと震え上がる私を見て、神様はにこにこ…それはもう楽しそうに笑顔で見つめてきました。


「駄目だよ?人の話はちゃーんと聞いてなきゃ。まぁ、琴乃はまず人を疑う事から始めた方がいいねぇ」

「そ、そんなぁ……!」


(やっと願いが叶うと思ったのにぃ…!)


 がっくりと、その場で項垂れてしまいました。

 とてもショックです。

 やはり顔の良い人の言う事なんて信じるんじゃありませんでした。

 信じた自分が情けない。


「ううう……」

「そんなにショックだった~?」

「そりゃそうですよ……長年の夢だったんですから…」

「あらぁ…」


 これで本当にさようならなんですね、私の肩幅ハッピーライフは……。

 良いですよ。これからの人生、この逞しい肩幅と共に生きていきますから。

 私なら大丈夫ですもん……。


「……」


 ――なんか、自分で勇気づけてるというのに虚しくなってきました。

 この無言が辛いです。


 せめて部活をやめたら、少しはこの肩幅も落ち着くのでしょうけど……


「……な、なんかごめんね?」

「うぅ…別に良いですよ。馬鹿な私が悪いんですから…」

「そ、そうじゃなくて!その、僕もちょっと浮かれてたというか…」

「……はい?」


 神様の言葉に、項垂れていた顔を上げてみると。


 神様の耳が、下に下がっていました。

 尻尾も、九本全部がしょぼーんと下がっています。


「か、神様…?」

「すっごく久しぶりにヒトが来たもんだから、ちょっと浮かれてたっていうのもあるというか…巫山戯てた部分もあったんだよ…」


 その白く長い睫毛を伏せながら、そう言ってきて。


「それに、実際願いを叶えたのは十何年か前に来たヒトの願いだけだったし。その時はお腹いっぱい食べたいって単純な願いだったから、テキトーに食べ物あげて叶えてあげたけど…」


 私をちらりと見て。


「まさかそこまで願いを叶えてほしいとは、思ってなくて。ち、ちょっとは反省してるというか――」


 そう言って今度は神様が項垂れてしまいました。

 さっきの私みたいに。


 神様が、は、反省している?あの神様が?

 会ってからというものずっとヘラヘラと笑っていたあの神様が?


(そもそも神様っていう存在が、人間に対して反省するなんて事があるんだ…)


 それくらい、自覚したという事でしょうか。

 それにしても、自分の感情と連動しているのでしょうか。

 耳と尻尾が下がっているのが、なんだかとても可愛く見えてきてしまって。


 小動物を見ると許してしまいたくなるのもわかる気がします。


「――別に、もう良いですよ。私の勘違いのせいでもあるんですから。神様のせいじゃないです」


 そう私が言うと、神様は恐る恐るこちらを見ました。

 その端正な顔を向けないでもらいたいですね。心臓に悪いですから。


「本当?もう怒ってない?」

「も、元から怒ってないですよ」

「本当に本当?」

「本当ですって!!」


 半ばやけくそになりながらそう言うと、神様の耳と尻尾がぴこーんと、上に向きました。


「なら良かった!」


 そしてとびきりの笑顔を見せてきた。

 やはり、相手の顔が良いと苦労する。


「はぁ。まぁもうこの話は良いとして……さっきはありがとうございました」

「え?」


 先程の一件のお礼を言い忘れていたのでそう言うと、神様はぽかんと口を開けてしまいました。


「ま、また何かおかしかったですか?」

「いや……まさかお礼を言われるとは思ってなくて」

「えぇ?」


 助けられてお礼を言うのは当然だと思いますけど。

 この神様、どこかズレている気がします。


「だって僕、君の願い叶えてないし。それどころか変な戦いに巻き込んじゃったし」

「まぁそれはそれですけど…現に肩の重みにも困ってましたから、それを解消してくれたのは神様ですから」

「そ、そっか……」


 そしてまた神様は下を向いてしまいました。

 本当に、何を考えているのかわからない神様ですね。


 そこで、ふと別の疑問が湧きます。


(そういえば、神様ってずっとここにいるのかな?)


 さっき十何年前に人が来たきりって言いましたよね?それより前も後も、一人も来なかったって事でしょうか。

 それって、かなり長い時間だったのではないですか?


「あの、神様。神様はずっとこの神社にいるんですか?」

「ん?そうだよ。僕はこの神社の神様だから。ここ以外に行くところも無いしね~」


 当然でしょ、と。

 それはつまり、ずっと独りぼっちだったということで。


(寂しいとは思わなかったのかな……。ううん、違う)


 さっき神様は、久しぶりに来た人間を――つまり私を、からかったと言っていた。

 それは、言い換えれば、誰も来なくて寂しかった、という事にもなるのではないでしょうか。

 人間が来ないとやることも無く暇なはず。

 私が来て、それはもう楽しかったに違いありません。

 現にすごく笑われましたし。


「あぁ、なら神様!」

「んん?今度はなぁに?」


 私はその時、ぱっと頭に浮かんだ言葉を口にしました。


「私とお友達になりませんか?」


 そう言って、神様に手を差し出しました。


「……え」

 

 突然の私の申し出に、これまた神様はぽかんとしたまま。


「と、友達…?」

「はい!お友達です!」


 私は無理やり、神様の白い手を取りました。


「さっき助けてくれたお礼――じゃなくて、これ以上神様が独りぼっちにならないように!」

「僕が…?」

「そうです!だって一人って寂しいじゃないですか。私も一人っ子だからわかります!」


 そう。

 思えばずっと下の子が欲しかった。

 可愛い弟や妹をめちゃくちゃ可愛がって、貢ぎたかった。

 まあその夢も叶いませんでしたけど。

 けどその分、お友達を増やせば寂しさなんて紛れるはずです!


「それに凄くないですか?人間と神様がお友達って。きっと前代未聞ですよ!」

「ま、まあそれは確かにそうかもしれないけど……」


 神様は私に握られた自分の手を見つめたまま、動きません。


(と、突然お友達になれって言われても、まだ無理だったかな…)


 今思えば本人の意思も聞かずに勝手に手を取ってしまっている。

 これでは一方的です。


「おっ、お友達が駄目なら、まずは参拝者からでお願いします!!」

「ぶっは!」


 頭を巡らせて必死に思いついた言葉でそう言うけれど、神様はなぜか吹き出してしまいました。

 何か変な事を言ったのでしょうか。


「あっははは!参拝者って!ははははは!」

「か、神様……!?どうしてそんなに笑うんですか!?」

「だって…琴乃が変なこと言うから!」


 やっぱり変だったみたいです。

 どうやら私も、少しズレているらしい。


「ふふふ…参拝者かぁ。――いや、それだったら友達の方が良いなぁ」


 そう言って、神様は私の手を握り返してきました。


「……!」

「――こちらこそ、お願いします」

「神様……!」


 神様は笑顔で、私を真っ直ぐ見つめてきました。

 これは、間違いなくOKのサインです!


「やったぁ!私、今から神様のお友達ですか!?」

「うん。君が僕の友達第一号だよ?神様の友達なんて、光栄に思うんだよ~?」

「はい!わかりました!」


 神様は九本の尻尾を嬉しそうに動かしています。

 私も嬉しいです。弟ができたみたいで!

 それにお友達第一号という響きも悪くないです!

 これで神様は、独りぼっちじゃなくなりますね!


「ふふふ。第一号~♪」

「――あぁ、それとね、琴乃」

「?何ですか?」

「油揚げ、美味しかったよ」

「!食べたんですか……!」


 油揚げもカリカリになってなくて良かったです。

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