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私と神様(変態)はお友達  作者: いもすけ
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3.肩幅!!

「君の願いはなぁに?」


 神様にそう言われ、私は迷うことなく――


「肩幅です」


 そう言いました。

 神様は口を開けたままぽかんとして、少しの間の後。


「どゆこと?」


 と言いました。まあ「肩幅です」とだけ言われてもわかりませんよね。


「肩幅です!肩幅を小さくしてほしいんです!華奢にしてほしいんです!!」

「え、は、え?肩幅……?」


 若干引き気味の神様に、これでもかと必死に食らいつきます。


「私はずっと自分の肩幅がコンプレックスでした……願いを叶えてくれるなら、是非!肩幅を小さくしてほしいんです!!」

「わーぉ……」


 そう。私はなぜか、他の女子と比べて肩幅が広いんです。

 そりゃあ男子とまではいきませんが、他の女子よりは広いです。

 これはもう間違いありません。

 なぜそうなってしまったのかは不明です。

 けどこの力強い肩幅のせいで、中高共にバスケ部に勧誘されてしまったのも確かです。

 そしてそこで才能を発揮したわけですが。


「特に鍛えてるわけでもないのにどうしてこんなに逞しくなってしまったの私の肩……!」

「えぇ~?言うほどかなぁ~」

「そうです!一度気になったらもう妄想は止まりません……!きっと皆私の事を力士とかだと思ってるはずです!!」

「肩幅だけで力士にはなれないから安心しなよ~…」


 やはり引き気味の神様は私の様子を見てよほど気にしているのだろうと思ったのでしょうか、哀れみの言葉を口にしました。

 神様に慰めてもらっている私とは……。


「――まぁとりあえず、君の願いは『肩幅を縮めたい』、ね。いやぁ個性的な願いだね~」

「これでも本気なんですから……」

「いや長年生きてきたけど、こんな願いは初めてだよ」


 そりゃそうでしょうねと内心自暴自棄になりつつ、改めて神様を見る。


「本当にお供え物、無くていいんですか?」

「ん?あぁ、大丈夫だよ。僕そんなに鬼じゃ無いからね~」


 例えお供え物が無くっても、参拝者には優しくするようにしてるんだーと、これもまた神様らしからぬ発言。


(こんな人が神様……こんな人が神様で良いのかしら世の中…)


「ひとまず、もう暗くなるから帰った方が良いよ?……こんな時間には、憑かれやすくなっちゃうからね」

「?つかれる?」

「んーん、こっちの話だよ。ほら、もうお帰り。女の子なんだからね」

「は、はぁ…」


 なぜか急かすように階段へと押し出される。神様が言う事なのだから、聞いておこう。


「――あぁそうだ。そう言えば君名前は?」


 思い出したと言わんばかりに神様がそう言ってくる。今更ですね。


「天官琴乃です」

「そっか。じゃあ琴乃。またね」

「はぁ……」


 階段を降りる私を手を振りながら笑顔で見送る神様は、耳さえ生えていなければ普通の男の子のように見えました。

 ――あと浮いていなければ。



  ♢ ♢ ♢



「はぁあ~……」


(お風呂さいこー……)


 廃神社から帰ってきた私は課題やらをした後、大好きなお風呂に入りました。

 お風呂は至極の時間です。

 服を脱ぐことによって残念な肩幅が見えてしまいますが、こればかりは仕方ないことですので。


(それにしても、色々あったなぁ…)


 主に、あの自称神様の変態コスプレ野郎に出会ったことだけでしたが。

 やっぱりまだ信じられない部分があります。

 いくら浮いてたり火の玉が出せたりしても、もしかして実はマジックなんじゃないかと。

 そう思えてならない。


(けど辺りには道具も何も無かったし、あんな廃神社でマジックやる変人なんているのかな……いや、かなり変人だったけど…)


 自分がいままで出会ってきた中でもかなりの変人だった。

 おそらくあれを超える人物は現れることはないです。


(それにしても、願いを叶えてくれるって言ってたけど、いつ叶えてくれるのかな?)


 そっと自分の肩を見て、未だに変化が無いことにがっかりする。

 肩幅を縮めて欲しい――それが私の長年の夢でしたが、その願いは未だに叶っていません。

 日付が変わると同時に縮んでくるとか?それとも、神様の気分次第とか?

 いつにせよ、早く願いが叶えばいいんだけど。


(その為に自家製油揚げも用意したんだし!……意味無かったけど)


 そういえばあの油揚げは結局置きっぱなしだ。

 あの神様が食べてくれたならまだ良かったものの、飽きたと言われては手は付けてくれなさそうだ。

 カリッカリになること間違いなし。


(はぁ……だって狐といえば油揚げでしょ。誰がどう考えたって)


 間違っても神様が成人誌好きとは考えないと思う。

 それこそバチが当たりそうじゃないですか。


(うう…置き去りにしてきた油揚げの事を思うと胸が苦しくなってきた。明日回収しに行こうかなぁ…)


 そう思いながら伸びをして湯船から上がろうとした時。


 ぐんっと、肩が急に重くなった気がした。


(!まただ…)


 思わず自分の肩を触るけれど、重みは取れないまま。

 最近よくこういったことが起こる。

 突然肩が重くなって、それがしばらく続く。

 気づいたら重さは消えて元に戻っているんだけど、これは一体何なのだろう。


(はっ……まさか、肩幅の呪い!?)


 いや、流石にそんな呪いは存在しないと……思いたい。それにこれは数日前からの出来事だし、生まれつき肩幅が広いならこの出来事も生まれつきのはず。

 本当に呪いならの話ですけど。


(あんまり治らないようだったら病院行くしかないかなー。はぁ)


 肩幅ではなくこちらを治すようにお願いすべきだったか。肩凝りではないと良いけれど。



  ♢ ♢ ♢



 それから数日過ぎました。

 雨の日が続いたので、結局油揚げを回収することは叶わず。

 きっとびっしょびしょに濡れている事でしょう。可哀想に……。

 私も、あの日以来あの廃神社には行っていません。

 雨の日にあんな所に行ったらとても怖いですし。


 けど。

 何とかしてあの神様に一言、物申したい。


「――願い、叶ってないじゃないですかぁあ!!」


 誰もいない屋上で、そう叫びました。

 時はお昼休み。

 私は誰もいないのを見計らって、思いの丈を叫びました。


(あれから数日経ったけど、ぜんっぜん肩幅縮んでなくない!?)


 そう。いくら待てども、私の望んだ肩幅になっていないのです。

 日付が変わると同時に肩幅も変わるのかなーと思って鏡の前で待機とかしてみましたけど、その期待も虚しく。

 じゃあやっぱり神様の気まぐれかな?と思ってしばらくは静かに待っていましたけど。


(縮むどころかむしろ広くなっているような……!?あぁあ自分の目を潰したい!)


 もう肩を見すぎて自分の目がそう幻覚を見るようになってしまいました。

 ……幻覚ですよね、きっと。


(やっぱりお供え物を気に入らなかったから!?騙された?狐に化かされた――あぁ、あの人狐の神様だった!)


 狐は化かすもの。

 そう昔から伝えられてきたのだから、もしかしたらあの神様も化かすために私を騙したのかもしれない。


(うぅ……美少年だからって油断したぁ……)


 とんでもない美少年で油断してたのはありました。えぇありましたとも。

 それは事実です。

 でも騙した方も悪いじゃないですか!嫌なら嫌だとはっきり言ってくれれば良かったのに!


(いやでも…呪い殺されなかった分、まだマシだったのかもしれない…なんで無償で、なんて言ったのかはわからないけど)


 たまたまそういう気分だったのか、気まぐれだったのかはわからない。

 けれど、私を逃がしてくれたのも確かです。


(やっぱりちゃんとしたお供え物じゃないとダメだったんだぁ)


 ちゃんとした――それ即ち、あの神様の大好きな成人誌を持ってくることです。


 それは私にとってかなりハードルが高いというか、そもそも買えるんでしょうか。

 私みたいな女子高生が買って、変な目で見られません?見られますよね?

 やっぱり無理ですそんな事は。


(じゃあ諦めるしか無いのね……さよなら私のハッピーライフ……)


 地面に項垂れるようにしていると、ふと脳裏にあの神様が浮かび上がりました。


『じゃあ琴乃。またね』


「またね」と言いながら手を振っているあの神様の姿が、どうしても脳裏から離れません。美少年だからでしょうか。


(そういえば、あの人はずっとあの神社に一人だったのかな)


 何百年、と言っていましたか。

 あの廃神社にそんなに長い間一人でいるのは、きっと寂しいものだったのでしょう。

 だから久しぶりにやってきた人間――私をからかいたくなるのも当然といえば当然だったのかもしれません。

 遊び相手が欲しいだけだったとか…。


(今思えば、浮いていてよくわからなかったけど、背丈も私とそんなに変わらなかったなぁ)


 私も背が高い方ではありませんが、あの神様も同じくらいです。

 となると見た目は私と同じくらいか、歳下くらいでしょうか。

 そう思うと急に悪い事をした気分になってきました。

 いえ、私は実際何も悪い事はしていません。ただ、「またね」という言葉が頭から離れないだけで。


 もしかしたら一人で寂しいのかな、って。思ったりして。


「……いやいやまさか。神様だし。……ッ!」


 突然ずしっ…と、また肩に重みが増したような気がしました。

 気のせいではありません。

 むしろいままでより重みがあるというか。


(っていうか、息するのもやっとな感じが……)


 はぁと少し息をついて、楽な姿勢を探す。どうしてこんなにも重いのでしょう。

 何かの病気にでもなってしまったのでしょうか。

 思えば、この事は家族の誰にも、友達にも話していません。

 心配をかけたくないのが理由なのですが、そろそろ自分一人ではどうにもできなくなってきました。


(保健室に……って、あぁ、今日は確か先生は出張中なんだったぁ…)


 これでは保健室の鍵を開けてくれる先生がいません。

 この学校の保健室の鍵は担当の先生が持つと決まっていますから。何とも不便な。

 このままだと午後の授業を受けるのも苦しいです。何とかしなければ。


 ――そこでまた、あの神様の顔が浮かび上がりました。


(神様……ごめんなさい。またお供え物も無しに…でも聞くだけ聞いてください!)


 ただ願掛けをして落ち着こうと思ったのか、どうして神様の元へ行こうと思ったのかはわかりませんが、私はそう決意して再びあの廃神社へと向かったのでした。

 きっと神様がどうにかしてくれる……不確かだというのに、そう心のどこかで思いながら。

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