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009

2/29更新分

 キツネ狩りの練習と言いつつも、庭にキツネを放つわけにはいかず、僕と殿下はのんびり乗馬を楽しんだ。

 前世の記憶からすれば、ウッドワード家の敷地は広く、徒歩より馬で闊歩するぐらいがちょうどいい。

 心地よい陽光に、庭師が植えてくれた花が、目を楽しませてくれる。

 穏やかに吹く風につられて視線を横へ流していると、窓からヴィヴィアンが見ているのに気付いて手を振った。


「オマエたちは仲が良いな」

「兄妹ですから」


 特に我が家では両親の留守が多く、寂しさを覚えたヴィヴィアンが僕のところに来れば、自然と共有する時間は長くなった。


「……ルーファスは、オレの兄じゃないもんな」

「どうされました?」

「別に」


 アルフレッドも兄が欲しかったんだろうか。

 それとも隣の芝生が青く見えているのか。

 不貞腐れたアルフレッドの様子に、休憩しましょうと声をかける。

 庭のテラスで馬から降りれば、既にお菓子と紅茶が用意されていた。

 琥珀色の液体を見たアルフレッドが、気まずそうに肩を揺らす。


「すみません、飲みものを変えますか?」

「いや……その、怒ってないんだよな?」

「はい。僕が好きなので用意されたのでしょう。他意はありません」


 チラリと僕付きの侍女に視線をやると、そっと逸らされた。


 え、他意があるの?


 まさかの嫌味だった。

 どうやら燻っていたのは、ヴィヴィアンだけじゃないらしい。

 アルフレッドに知られるわけにはいかないので、言葉を重ねる。


「アルフレッドとは仲直りしたと思っていますが、僕だけですか?」

「オレも……でもルーファスは顔が変わらないから……」


 怒っているのかどうかもわからない、と。

 でもその割には懐かれている気がする。

 わざわざ屋敷に遊びにくるぐらいだ。


「アルフレッドは僕が怖いですか?」

「怖くはない。けどオレがお父様の息子だから、相手をしてくれるんじゃないか?」


 あぁ、そうか。

 これがアルフレッド・ロングバードの不安なのか。

 他人を信用できないが故に、乱暴に振る舞うゲームの彼を思いだす。コーン氏の一件も絡んでいそうだった。


 ラスボスとして、どう答えるのが正解なのか。


 そんな考えが頭を過ったけれど、行動はもう決まっていた。

 悲しそうに赤い瞳を揺らす少年に、嘘は言えない。


「アルフレッドと知り合ったきっかけは、お互いの立場からです。そしてアルフレッドが僕より上の立場であることは、覆しようがありません」


 言葉を切って立ち上がる。

 僕はアルフレッドの隣で片膝をつくと、彼の手を取った。


「けれど友好を深めたい気持ちにも偽りはないのです。信じる信じないはアルフレッドに任せるしかありませんが、僕はアルフレッドのことが好きです」


 乱暴なところはあっても、ちゃんと善悪の区別はついている。

 紅茶を見て、居心地悪そうにするのは、自分が悪いと理解しているからだ。

 ヴィヴィアンに謝ってくれたことからも、決して悪い子じゃない。

 素直になれないだけの少年を嫌う理由は、僕には存在しなかった。

 アルフレッドの顔を覗き込む。


「これが僕の本心です。表情に出ない分、行動で表そうと思っていますが……アルフレッド? 大丈夫ですか?」


 顔を真っ赤にして、唇を震わせる様子に、具合が悪くなったのかと心配になる。

 額に手を当てて熱を計ろうとしたところで、アルフレッドの手が首の後ろに回された。

 前のめりで抱き付いてくる小さな体を受けとめる。


「オレだけだぞ。他の奴には、こういうことするなよ!」


 耳元で上げられる声にくすぐったさを覚えながら、目を瞬かせる。

 臣下として片膝をつくことだろうか。

 侯爵であるウッドワード家が仰ぎ見るのは王家だけだ。

 心配はいらないとアルフレッドに頷く。

 計らずしも、潤んだ赤い瞳と目が合って、ドキリとした。

 そこまで不安にさせていたとは思わなかった。


「ルーファスのことは信じる」


 アルフレッドと額が重なる。

 少し熱いけど、体調を崩したわけではなさそうだ。


「だから……二人のときは、オレも、お、お兄様って呼んでいいか」


 ダメです。

 僕の心臓が不整脈を起こして死んでしまいます。


「か、勘違いするなよ! オマエの妹が羨ましくなったとかじゃないからな! 王家が他人を羨むことなんか、ないんだからな!」


 わかりやすいツンデレもありがとうございます。

 ヴィヴィアンが羨ましかったんですね。


「ダメか……?」


 フリーズしてしまった僕に、アルフレッドの勢いが削がれる。

 至近距離に赤い瞳があって、ようやく密着したままだったことを思いだした。

 そろそろ心臓が止まりそうだ。


「構いませんよ」


 だからそろそろ首に回した腕を放してください。


「本当か! もう取り消せないぞ!」

「はい。ご随意に」


 だからそろそろ。


「えへへ、お兄様……」


 放して欲しかったのに、むしろより強く抱き締められました。

 まだ筋肉が付いていない、柔らかな温もりに包まれる。

 頬に当たるふわふわの髪がくすぐったかった。


 神よ、僕の何がいけなかったんですか……?


 あれかな。

 アルフレッドは僕が闇の化身になることを知っていて、今の内に萌え殺そうとしてるのかな?

 心配しなくても、最後は君の光剣で死ぬ運命だよ。

 というか、殺すならしっかり闇の化身になってからにしてください。じゃないと世界を救えないから。

 いい加減、密着のし過ぎを咎めてくれないかな、とアルフレッド付きの侍女や護衛に視線をやるも、温かく見守られるだけだった。


 僕の味方はいないのか!? ラスボスだから!?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 弟が小さかったときのことを思い出しました
[良い点] 尊いオブ尊い [気になる点] 尊みにやられて気を強くもたないと召される
[一言] 初めて感想かいてます。 ルーファスとヴィヴィアンの関係性がすごく好きです。
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