038.ヴィヴィアン・ウッドワード
わたくしはヴィヴィアン・ウッドワード。
お兄様は、ルーファス・ウッドワードよ。
わ た く し の お 兄 様 よ。ここを間違えないで。
お兄様は、妹のわたくしが見ても惚れ惚れするほど、お美しいの。異論は認めないわ。
艶のある黒髪に、青い瞳はわたくしとお揃い。瞳の色は、お兄様のほうが、ちょっと薄いのだけどね。そこがまた儚げなのよ。
白い陶器のようなお肌は、触れるとほんのり温かいの。
よく麗しすぎるお兄様に、恐怖を覚える者がいるけど、わかっていないのね。
お兄様だって人間だということを。
心と血が、通っていることを。
けど仕方ないのかもしれないわ。
だって、お兄様に触れられるのは、妹の特権ですもの。
そう、わたくしの特権なの。
どこぞの赤毛に、その権利はないのよ!
だというのに、お兄様はお優しいから……。ふんっ、わたくしは認めないわ。
イアンは真贋を見極められる目があるから、いいでしょう。
でも赤毛はダメ。
だってお兄様の美しいお顔に、熱い紅茶をかけたのよ!?
信じられない! お兄様が許しても、わたくしが許さないわ。
今回だって、一緒に出かけなければよかったのよ。
どうして赤毛だけ守られて、お兄様は守られなかったの?
信じられない!
何が殿下よ、わたくしのお兄様は、お兄様しかいないのよ!
テディまで巻き込まれて……可哀想に、とても怖い目に遭ったみたいだわ。
しかも今はご両親と一緒にいるけど、ずっとお兄様のことを心配してるって侍女が言っていたの。
自分も怖かったでしょうに……。
後で殿下に償ってもらいたいわ。
……。
わかっているわ。
今回の件について、殿下は悪くないって。
近衛兵も、殿下を守るのが仕事だって。
わかっているわよ。
いざというときは、わたくしたちが盾にならないといけないの。
ウッドワード家のエンブレムだもの、理解しているわ。
悪いのは全部、誘拐を企てて実行した人たちよ。
お兄様が誘拐された詳細を、わたくしは知らない。
お父様も、お母様も、執事も、誰も教えてくれないの。
それだけじゃない、お兄様にも近付いちゃダメって言うのよ。
幸い、おケガはないみたいだけど……。
ならどうして、お父様しかお部屋に入れないの?
わたくしだって、自分の目で、お兄様の無事を確認したいのに。
だから怒られるのを覚悟で、忍び込んだわ。
部屋の中に護衛がいたのは、誤算だったわね。
ベッドに座るお兄様は、元気そうでよかった。
よかった、のだけれど。
本当に、お兄様だったのかしら?
何だか、お兄様だけど、お兄様じゃないような……。
わたくしのことも、いつものように「ヴィー」と呼んでくださらなかったし。
まるでそっくりな別人みたいなの。
ねぇ、とても嫌な予感がするの。
あなたに頼むのは、正直、とても癪よ。
けどあなたにしか頼めないの。
怒られたとき、お父様に伝えてみたけど、お言葉をにごらされるだけだったわ。
もう侍女は、わたくしを見逃してはくれないでしょう。
お願い、アルフレッド様。
お兄様の身に、何かが起こっているのは確かよ。
わたくしたちのお兄様を助けて!