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 ゲーム中、苛烈な性格のアルフレッドは、主人公とよく衝突する。

 けれど親密になる中で、下位貴族の実情を知り、上位貴族との確執へと行き着くんだ。

 そこで主人公に嫌がらせをしているヴィヴィアンの存在が浮き彫りになるんだけど……。

 うん、気付かなかったことにしよう。

 白状すると、既にアルフレッドの乱暴さも鳴りをひそめて、周りから愛される性格になっていると思う。横暴な素振りを見せつつも、本音が隠せてないっていうか。

 正直、六年後が全く予想できない。


「……貴族でも階級差でそこまで隔たりがあるのか」

「俺にしてみれば、ルルもルーファスも、知り合えるはずない人間だよ」


 社交界では、下の爵位の者から上の者に声はかけられない。

 コネを駆使して紹介してもらうか、声をかけてもらう他ないんだ。

 デビュタントすれば、子どもでもこれが常識になる。大人に比べれば、例外も許されるけれど。

 アルフレッドとテディの関係性も変わってしまうだろうか?

 叶うなら、このままでいて欲しいと思う。


「あ、見えてきたな。これから行くのは、王家御用達の老舗だぜ」

「うむ、普段使っている紙は、あそこのものだと聞いているぞ」


 ウッドワード家でも、主に手紙でお世話になっているお店だ。

 オーダーメイドで紙にエンブレムを入れてもらえるのもあって、上流階級のほとんどはこの店を使っていた。


「僕も店に行くのは、はじめてだ」

「おっ、ルーファスもか。うちとは全然違って落ち着いた内装だから、男だけでも気軽に入れるぞ」


 紹介された通り、シックな色合いで統一された店内は、プライベートよりも仕事向きという感が強かった。大人が事務用品をあつらえに来る感じだ。

 少し離れてついてくる近衛兵と歩調を合わせながら、つつがなくテディの案内は進む。

 予め決められている場所を回るだけとはいえ、テディは常に話題を提供して、終始アルフレッドを楽しませた。

 ユノーハイネスの店前にまで戻って来ると、二人はまた一緒に街を歩こうと約束している。


「もちろんルーファスも一緒だからな!」

「はい、次の機会も楽しみにしています」


 心からそう告げる。

 実のところ、僕もこうして街を歩くのははじめてだったから、とても楽しかった。

 できるならヴィヴィアンとも歩けたらと思うけど……難しいだろうな。流石の父上も、今回と同じ規模で警備兵は動かせない。

 何にせよ、問題が起きることなく済んで良かった。

 後はテディと別れ、ウッドワード家の馬車に乗って帰るだけだ。


「テディは乗らないのか?」

「うーん、急な予定変更はダメだろ?」


 名残惜しそうに、アルフレッドは空いてる手で、テディを引っ張る。

 普段なら喜んで僕もテディを同乗させるんだけど、今回ばかりは勝手が違った。

 僕の後ろで、エリックが静かに首を振る。

 しょんぼりするアルフレッドを見ると胸が痛い。


「どうしてもダメか?」

「また誘ってくれよ。ルルの誘いなら、誰も断れないからな!」


 元気づけるように、テディはアルフレッドの背中を叩いた。

 そのとき、通りに視線を向けていたエリックの眉間に皺が寄る。

 近くはないが、離れた場所で騒ぎがあったようだ。


「アルフレッド様」


 慌ただしく人が行き交っているのが見えて、エリックがアルフレッドに声をかける。

 いつの間にか近衛兵も間近に集まっていて、厳しい視線を向けられた。

 最後の最後で、僕は繋いでいた手を放し、アルフレッドをエリックに渡す。

 これにはアルフレッドが慌てた。


「ルーファス!」

「先にエリックと馬車に乗ってください。僕もすぐに」


 乗ります、という声は、近衛兵の背中に遮られる。

 彼らにとってはアルフレッドが第一だ。

 僕もアルフレッドの安全が守られるなら気にしない。

 こんな形になってしまったけど、テディに別れを告げようと振り返る。


「テディ?」


 しかし、すぐそこにいたはずのテディの姿が見えなかった。

 近衛兵が集まってきたから、店に入ったのだろうか?

 店内に視線を向ける僕に、上から声が降ってくる。


「お友達が大事なら、一緒に来てもらおう」


 その言葉は、ナイフより鋭く、僕の心を突き刺した。


 いつの間に。

 誰が。


 頭の中が思考で荒れ狂う。

 けれど抗う術はなく、僕は男に従った。

 男は自身の体で、ウッドワード家の馬車から僕を隠しながら、路肩に止められていた他の馬車へ誘導する。

 男は警備兵のようだった。

 ただ警備兵に変装しているだけかもしれない。

 今日は街に警備兵が溢れていたから、その数に乗じたのか。

 平静を装い、焦ってはダメだと、自分に言い聞かせる。

 今はアルフレッドに集中している近衛兵も、僕がいなければすぐに気付くはずだ。

 本物の警備兵だってたくさんいる。

 乗せられようとしている馬車だって、人目は避けられない。

 落ち着け、落ち着いて、対処するんだ。

 しかし馬車の中で、顔を隠した男に捕らえられているテディを見つけ、反射的に名前を叫んでしまう。


「ーーー!」


 すぐに口を塞がれて、それは声にならなかった。

 布で猿ぐつわをかまされ、視界を何かで遮られる。


「大人しくしていろ」


 僕を乗せた瞬間、馬車は動き出したようだった。

 振動を感じながら手を縛られ、足を縛られたところで――。


「ほう、一丁前に護身用のナイフか」


 足首に携えていた短剣を奪われた。

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