033
「武器に光属性を付与できるようになったからな! 危険が迫っても、オレが前に出て魔法で撃退してやるぞ!」
テディは警備兵や近衛兵のことを知らないから、安全面について心配していると勘違いしたのか、アルフレッドがそう言い放つ。
いや、これは自慢したいだけかな?
陛下に力を認められたのがよほど嬉しかったのか、アルフレッドは自信に満ちていた。
「いやいや、あんたが前に出ちゃ……前に出たらダメですよ」
テディの指摘に僕も頷き、アルフレッドの手を強く握る。前に出ようとしたら僕が止めないと。
近衛兵からは、何かあったときはすぐエリックにアルフレッドを渡すよう言われている。
彼らにしてみれば、今も僕がアルフレッドと手を繋いでいるのが、気に入らないようだ。
風評の悪いウッドワード家の僕より、当主が騎士団長を務めるジラルド家のエリックのほうが、信用を置けるのだろう。エリックは王妃様の覚えもめでたい。
「普段通りの口調で構わないぞ? オレは今、ルーファスの従兄弟だからな!」
「それでも不敬……ええいっ、もう、気にしないって言ったのはあんただからな!」
「うむ、オレのことはルルと呼べ! アルの『ル』と、ルーファスの『ル』でルルなんだ!」
そこは説明する必要はないと思うんだけど。
偽名を気に入ってくれたならいいかな?
「ルルがルーファスのことを好きなのはわかった」
「えっ!? ち、違うぞ!」
「違うのか?」
「ち、違わないけど……」
ごにょごにょと口を動かしながら、耳まで赤くしているアルフレッドにデジャヴを感じる。
前はイアンに突っ込まれてたよね。
どうやらアルフレッドは素直に好きだと言うのが恥ずかしいらしい。
その様子だけで、僕は心が満たされる。
今日は僕と装いを合わせているのもあってか、いつにも増してアルフレッドとの距離が近く感じた。文句を言いながらも、僕たちのコーディネートを担当してくれたヴィヴィアンのおかげかな。
僕はグレー、アルフレッドはブラウンを基調色とし、それぞれの色に合わせたキャスケットとジャケットを身につけていた。チェック柄のズボンと革靴もお揃いだ。
テディもアルフレッドの反応を見て親近感が湧いたのか、雰囲気から角が取れた気がする。
気兼ねすることがなくなった途端、僕がユノーハイネスでたくさん買い物したとアルフレッドに売り込むあたりは流石だ。
これから訪ねる店は決まっているものの、今日は街を楽しむのが主題なので、僕たちはゆっくり歩きながら周囲を眺める。
「ところで気になってたんだけどさ、光属性を付与できるようになると、何か変わるのか?」
「変わるぞ! オレを攻撃できなくなるからな!」
アルフレッドの答えに、テディが説明を求めて僕を見上げる。
王家の力については貴族の大半が知っているけど、まだ貴族になりたてのテディは知らないんだろう。
「まず王家の血を継ぐ人たちは、光属性の攻撃を無力化できるのだけれど……ルル、今の君は僕の従兄弟であることを忘れないでください」
「あ……」
話の内容で、身分が特定できることを察してくれたのか、慌ててアルフレッドが口を噤む。
「もしかして相手の武器に、光属性を付与しても有効なのか?」
「その通り。防げるのは武器を使った攻撃に限られるが、殿下は他にも身を守る魔法を習得されているよ」
あくまで光属性の付与は、外出を認められる条件の一つでしかない。
しかしこれが一番の難関でもあるようだった。
実際、事前に聞いた話で、アルフレッドも攻撃魔法を覚えるほうが簡単だと言っていた。
「ふーん、見かけによらないんだな。俺と同じ年だろ?」
「それにお父様より習得が早いんだぞ!」
なるほど、自信満々なわけだ。
つい口を出してしまったアルフレッドの額を、テディが人差し指で小突く。
「凄いんだな、殿下は。なぁ、ルル?」
「う? う、うん、殿下は凄いな!」
あぁ、和む。
もし僕の表情筋が仕事をしていたら、満面の笑みになっているに違いない。
すっかり打ち解けた様子の二人にほのぼのしながらも、「光属性」というキーワードに、足首に携えた短剣が思いだされた。
登城するときは外しているけど、今日は携帯を許可されている。既に光属性が付与されていて、それでアルフレッドを傷つけることはできないからだ。
前の遠乗りとは違い、今回はウッドワード家の護衛がついていないのも要因だろう。
それもあってか、私服組がいるにもかかわらず、武装した警備兵の数は多い。
テディもそのことに気付いているようで、襲われる心配はないな、と呟いていた。
父上が言うには、今日は街を走る貴族や商人の馬車も、特別な許可証が必要らしい。本来、貴族家のエンブレムや届け出がある馬車については不問な分、厳重さが窺えた。
それでも荷下ろしをしている馬車の傍を通り過ぎるときは、エリックが緊張しているのがわかる。
「あれも商人か? 体格がいいんだな」
「荷物の積み降ろしは重労働なんだぜ? 雑貨でも、陶器製でサイズが大きくなると、俺一人で運べなくなるからな」
「テディも運ぶのか?」
「人手がないときはな」
アルフレッドも、テディが男爵位を授かったばかりなのは知っている。
けれど荷物といえば、侍女や侍従が運ぶものであるアルフレッドにとって、テディの回答は意外だったらしい。
「貴族になって、商品ブランドには箔が付いたけど、一気に懐が潤うわけじゃない。自分でできることは自分でやるさ。つうか男爵家だったら、そんなこと珍しくないだろ?」
「そうなのか?」
テディに次いで、今度はアルフレッドが僕を見上げてくる。
アルフレッドの身分だと、男爵家の実情なんてわからなくて当然だ。しかし残念ながら、僕もよく知らない。
「テディが一番詳しいと思います」
「ルーファスも侯爵家だもんな」
逆に知ってるほうがおかしいか、とテディは笑った。
そこからは、お金のない男爵家の生活など、赤裸々な話が語られる。
思うところがあるのか、話を聞くアルフレッドの表情は真剣だった。
語り合う二人を見ながら、僕の背中には冷や汗が流れる。
あれ? これってもしかして、ゲーム主人公がアルフレッドとする会話なんじゃ?