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 僕の問いに対して、テディは上半身を少し屈めた。

 胸の前でぎゅっと拳を握ると、必然的に上目遣いで見上げられる。もしかして、わざとやってるのかな? あざとい。あざと可愛い。


「お、怒ってないんだよな?」

「あぁ、無表情なのはいつものことだ」

「だったら言うけど……俺も、最初は悩んだんだ。文句は言ってやりたいけど、相手は侯爵家だろ? でも逆にそこまで家格が違うなら、見逃してもらえると思って」


 ふむ。

 完全に僕の行動が裏目だったと。


「すまない」

「えっ!? いや、いいよ……なんか、あんたは俺が想像してた貴族と違うし……あのときは、俺もカッとなってた自覚あるし……」


 改めて謝ると、テディはしどろもどろになって目を泳がせる。

 その場の勢いもあったんだろうけど、やっぱりテディは考えられる子だった。

 落ち着いて話せば、スムーズに会話が続く。


「迷惑をかけられたと言ってたか」

「うぐっ、もう店でのことは忘れてよ……」

「でも文句があったのだろう?」

「今思えば、暴走したなって反省してるんだ。絶対、帰ったら父ちゃんにぶん殴られる……」


 グラムさんには柔和な印象しかないけど……商人としての顔と、父親としての顔は、また別なんだろうか。


「うち、行商人上がりだからな。着痩せして見えるけど、脱いだら筋肉バキバキだぜ」


 言われてみれば、テディの頭も片手で軽々と押さえ付けていた。

 どうやら握力も強いらしく、店では痛いぐらいがっつり掴まれていたらしい。

 そんな状況下で、まだ不満げだったテディも末恐ろしいものがある。


「けどそんな父ちゃんがさ、徹夜で店の準備して、いつもなら朝から肉だって食えるのに、今朝は飲みものだけで済まして、ぺこぺこしてる姿見たら、なんかさ……」


 相手が侯爵家だと知りつつも、カッとなってしまったのだとテディが語る。


「店としては一世一代の商機だったんだなって。だから父ちゃんもあれだけ気を張ってたんだって、ここで色々食べさせてもらって、骨の髄まで理解できた。うぅ、やっぱ殴られるよな」

「気を失ったところだ、そこまで無体なことはされないと思うが」

「あんたは父ちゃんを知らないから……そういえば名前聞いてなかったな」


 テディに言われて、店前で名乗ったときに、彼がいなかったことを思いだす。


「ルーファス・ウッドワードだ」

「……」


 よろしく、と続ける前に、テディの顔から血の気が引く。

 今になって気を失った後遺症が現れたんだろうか。


「テディ、大丈夫か?」

「……ウッドワードって、あの? ウッドワード侯爵家?」

「ウッドワード侯爵家は、他にないと思うが」


 ヴィヴィアン同様、テディもまだデビュタント前だから、ウッドワード家のことを知らなくて当然だと思ってたんだけど。

 顔を真っ青にしたテディの表情は、グラムさんとそっくりだった。


「あばばばば、命だけは! 命だけは、ご容赦を……!」

「取らないから」


 振り出しに戻ったテディの様子に、僕は再度額に手をやった。



◆◆◆◆◆◆



「ウッドワード家、超人道的……!」

「わかってもらえて嬉しいよ」


 あれからテディを宥め、ウッドワード家の実情を説明した。

 といっても当たり障りのないことだけど。

 次いで早朝に店を開けてもらうことになった経緯を話すと、テディは何やら感動したようだった。


「事前に迷惑料まで払ってくれてたんだな。店の売上げを考えたら、一度で一か月分……もしくは、それ以上? しかも商品を気に入ってもらえたなら……」


 父ちゃんが、身を粉にするのも納得だ。と利益換算を続ける。


「けどウッドワード家としたら出費だよな? 貸し切りにしなくても、護衛を付けて来店すれば、もっと経費は抑えられたんじゃないか?」

「他の家なら、そうするのだろうけど」


 母上にも、過保護だと呆れられたけど。


「僕たちは、身を守る魔法が使えないから」


 生活魔法と呼ばれる、初級魔法ならウッドワード家の人間でも使える。

 炎や水の塊を飛ばす中級魔法で、ギリギリといったところだ。それも数発撃てば、魔力が枯渇するだろう。

 護衛と分断されるような、最悪の状況になった場合、僕やヴィヴィアンはとても非力だった。


「えっ、でも侯爵家なら……」

「もしかしたらテディにも、僕は負けるかもしれない」


 ゲームでは主人公と一緒に戦うぐらいだ。

 テディに、僕以上の才能があっても不思議じゃない。


「ウッドワード家が魔法を使えないことは、知らなかったのか?」

「うん、死神って呼ばれてるぐらい容赦ないのは知ってるけど」


 死神……十中八九、父上のビジュアルが発端だよね。


「侯爵家でも色々事情があるんだな」

「むしろ上流階級のほうが、色んなしがらみで身動きできないかもしれない」

「うーん、なるほどなぁ……貴族って何かと面倒そうだし」


 もちろん、相応の恩恵もある。

 だから面倒も負うべきものの一つなんだけど。

 腕を組んでテディは考え込む。


「でもさ、やっぱり貸し切りはやり過ぎじゃないの?」

「母上にも言われた」


 けどヴィヴィアンのことを思うと……。


「ルーファスってシスコン?」

「テディもヴィーに会っただろう? 僕が心配するのもわからないか?」

「将来美人になりそうだよな」

「不用意に近付かないように」


 僕の即答に、テディは半眼になった。

 だってゲームのテディは、女の子を侍らせてたし……とは本人には言えない。


「まぁ俺はルーファスでもいいけど」

「えっ」


 テディは男でも有りなのか!?

 僕の表情は変わってないはずだけど、愕然としたのが伝わったのか、テディが声を張り上げる。


「違うぞ!? 何か勘違いしてないか!? 友達になるなら、ルーファスでもいいってことだからな!?」

「僕を侍らすという意味ではなく?」

「んな恐ろしいことできるか!? ……ちょっとやってみたい気も、しない、しないから!」


 そっと距離を空けた僕に、テディが慌てて手を伸ばしてくる。

 僕はこの手を掴むべきなんだろうか? それとも払いのけるべき……?


「変な意味じゃないって、本当!」

「今はその言葉を信じるよ」


 あまりイジメるのも可哀想かなと、テディの手を取って握手する。


「でもヴィーは別だから」

「やっぱシスコン……」


 正直なところ、自分でもそう思わなくない。

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