026.???
「見ましたか? あの彫像のような容貌を」
「確かに気味が悪いくらい整っておったな」
「あれだけ大勢に囲まれて、ピクリとも表情を変えないなんてあり得ません」
先日の夜会での光景。
ウッドワード家の嫡男は、大人に囲まれても、王妃派の子どもたちに囲まれても、顔色一つ変えなかった。
その薄気味悪さといったら、霊にでも取り憑かれているようで――。
「ううっ、今思いだしても、背筋が寒くなります」
所詮は子どもだと、高をくくっていた。
社交界デビューを終えたといっても、まだ十二歳。高等学院にも入学していない。
だから今のうちに思い知らせてやろうと、ウッドワード家の悪評を流した。
敵の多さを知れば、殿下に取り入って伸びた鼻を、へし折ってやられると思ったからだ。
「あれでは父親の生き写しではありませんか」
「顔は母親に似たようだがのう」
憎たらしい。
どれだけ母親に似た美しい顔を持っていても、父親のように愛想がなければ宝の持ち腐れだ。
笑いもしなければ、怒りもしない。
涙の一つでも流せば、温情が生まれたものを。
「少しでも痛い目を見れば……」
「滅多なことを言うでない」
「しかしこのままでよいのですか?」
どのような手を使っているのかわからないが、ウッドワード家は地位を欲しいままにしている。
父親の足場を崩すのは難しくとも、息子相手なら、まだやりようはあるのではないか。
「だから子どもを使っておろう」
「成果があるようには、見受けられませんが?」
「根気だよ。今から孤立させていけば、高等学院での生活は辛くなるだろうて」
「孤立させられるのですか」
王妃派があるように、ウッドワード家に与する派閥がある。
パーシヴァル家に同じ年の子はいないようだが、三男が懐いていると聞く。夜会では長男とも親しげだった。
ジラルド家が息子を近づけさせるとは考えられないが、現状は孤立していると言いがたい。
「すぐには難しかろう。だが王妃派の子どもたちへの刷り込みはできている。対立させるのは簡単だ」
「子どもでは限界があるでしょう」
実際、夜会での手応えは皆無だった。
「だからとて、どうする? 子ども相手だから、まだウッドワード卿も静観しておるのだ。儂らが動けば、流石に黙ってはおらぬぞ」
「バレなければよいのです」
何も直接手を下す必要はない。
使い捨てできる人間を雇えばいいのだ。
子どもの悪口程度では顔色が変わらなくとも、命の危険を感じれば流石に怖気立つだろう。
少年の彫像のような顔が、恐怖に歪むのを想像する。
それは、どれほど甘美だろうか。
「あてはあるのか」
「お任せください。金で動く連中に心当たりがあります」
ふふ、命までは取らないでおいてやる。
侯爵家の跡取りが害されたとなれば、王家も動かざるを得ないからな。
しかし少し借りるぐらいなら、ウッドワード卿も被害を訴えにくい。
幸い、声が変えられる魔導具も所有している。
あの母親似の美しい顔が、自分の足に縋り、助けを求める姿を想像する。
なんと心躍ることかっ!
恐怖で泣き叫んでもいい、声を失ってもいい。
失禁するだろうか、二度と外を歩けなくなるだろうか。
あぁ、可哀想に。
少年はウッドワード家に生まれた我が身を呪うことになるのだ。
――待っていろ。
今にわたしが、真の恐怖というものを教え込んでやるからな。