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魔法少女

「はっ、はっ、はっ」


 浅い呼吸を繰り返しながら空を跳ぶ。これが飛ぶだったらそれなりに格好もついたのにな、なんて思うものの、与えられた力の中に羽やマントの類はなかった。見えない足場があるかのように、私は夜空を何度も跳躍する。息も乱れてしまうので、実質的な労力は地上を走るのとそう大差ない。でも、建物や人を避けなくていい分、この方が早いのは間違いない。


 急がないと。


 もう数えるのもうんざりなくらい、同じことを繰り返したけれど。こうしている時間が一番不安や緊張が大きい。


 急がないと。


 市内で一番高いビルを下方に見ながら、軽い跳躍でその上を跳び越える。私の家があの子の家と反対方向なのはよくない。こうして到着まで、どうしても時間がかかってしまう。だからといって、普段はただの小学生でしかない私が、人に話しても信じてもらえないような理由で両親に引っ越しをねだるわけにもいかない。


 ひゅっと冷たい夜風がむき出しの太ももを撫でて、思わず身震いする。こんなふわふわひらひらしたスカートなんて私服じゃ絶対着ない。子供っぽいっていうか、単純に趣味じゃない。色が青ベースで派手派手しくはないのがせめてもの救いだけど、そもそもスカート自体あまり好きじゃないから、色が好みでも嬉しくない。スカートの中はスパッツ的な何かを身に着けているので下着を見られる心配はないけど、それでもなんだか落ち着かない。


 とはいっても、寒気は一瞬のこと。この格好の私は感覚は生きているけれど、寒さ、暑さ、痛み、そういうものへの耐性が強くなっていて、風を浴びて反射的に身震いすることはあっても、肌寒さを引きずるようなことはない。


「そろそろ、のはず」


 跳ぶ高さを一段ずつ下げながら、眼下に広がる町並みに目を凝らす。高いビルが立っていた一帯を抜け、今の私が跳び回っているのは住宅街の上空だ。ふわふわとした「こっちの方」という感覚だけを頼りにこの辺りまで来たが、正確な場所は目視で見つけなければいけない。

 一応、変身している間はメガネもいらない、どころか普通の人よりもずっと物がよく見えるし、夜闇くらいではなんの障害にもならないくらいに夜目も利く。


「……みつけた」


 住宅街の片隅にある寂れた公園。その場所に、危なっかしい前傾姿勢でつんのめるように駆け込む私と同じくらいの年格好の女の子を見つける。その後を追って公園に駆け込むのは人間を風船のごとく膨らませたようなずんぐりしたシルエット。

 一気に高度を落とし、動きを跳躍から滑空にシフトしながら異形の人影に目を凝らす。手足のようなものは辛うじて見て取れたけれど、身体に対してとても短く、それだけで自重を支えているようには見えない。手足以外に短い触手のようなものがうぞうぞと蠢いていて、どちらかというと手足よりそちらを小刻みに動かして動いているようだった。


 女の子がジャングルジムの後ろに隠れる。風船触手はその手前で立ち止まり、追いかけっこは膠着状態になった。

 そんな両者の間、ジャングルジムの頂点に、私は勢いを微塵も殺さずに、けれどなんの衝撃もなくふわりと着地する。


「かえでちゃん!」


 女の子――同級生のあおいちゃんに名前を呼ばれて、私はじわっと自分の体温が上がるのを感じた。


「おまたせ」


 まずは目の前の怪物に集中しないと。私はぶわわっと胸に沸き起こった熱を誤魔化すように、あえて素っ気なく返事をして、蠢く触手の塊をにらみつけた。

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