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隊長、魔法が使えるのにワープ装置が作れません!  作者: まさな
第一章 軍人のなすべきこと
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第九話 魔石?

ブクマと評価ありがとうございます!(この予約投稿時にはポイントが入っているのを確認しました。剥がれてても気にしない)

 未開惑星の村人を助けるため、俺達は『森の主』と戦闘を繰り広げている。

 特命を帯びた銀河宇宙同盟軍の兵士としては疑問の行動だったが、アリアの言うとおり、子供の命を助けるのに理由は要らないだろう。


 しかし、である。

 

 かつてカール=セーガンが提唱した基準で第三型宇宙時代まで到達し、ダイソンスフィアと長距離ワープを持つ高度な文明が、宇宙船も持っていない感じの未開文明に苦戦するとは、いったい誰が予想したことだろう!

 

 それもたかが一匹の獣に生命まで脅かされているのだ。


 正直な話、俺もアリアも、村を出るときには「余裕でしょ」と思っていた。

 レーザーライフルも万が一のためで、何なら素手でも行けると考えていた。

 何せこちらには十センチ厚の超々ジュラルミン鋼を殴って破壊できるコンバットスーツが味方についているのだ。

 

 今思えば、村長が悲しそうな顔で首を横に振ったのは「言っても強さが分からぬか。また死人が増えたな」という諦観であったのだろう。

  

「狙いは悪くありません。ただし、先ほど命中したのは脳では無く、背中の部分です」


 AIが相も変わらず淡々とした口調で状況を説明してくれたが、眉間の真ん中は背中じゃないだろ、と。


「そんな馬鹿な! X線測定をスコープにリンクさせてくれ」


「了解」


 片眼スコープにイノシシの骨格が立体映像で合成されたが、おお、なんだコイツ!? 脳みそがやたら小さいな。頭蓋骨も顔の部分が大きい割に頭頂部が小さく、さらに下側の口の部分が大きく前に出っ張る角度のため、地上から眉間を狙うとちょうど垂直の角度で対峙することになる。

 つまり、俺は確かに眉間を狙ったが、それは背中なのだ。

 首が見えにくい動物は分かりにくいな。

 

 それならばと俺は今度は頭蓋骨の中心点を狙う。スコープの照準が赤く光り、狙いが定まったことを報せてくれた。

 

「最大出力、発射!」


 エネルギーを調整し、最大火力で撃つ。

 

 すると先ほどまで元気に走っていたイノシシが足をもつれさせて地面に自ら激突した。

 

「よしっ、任務、完了!」


 仕留めた嬉しさのあまり、そう言ってしまったが、あくまでこれは任務外の行為である。

 

「やったわね。でも、まだよ」


 アリアも喜んでくれたが、確かにまだ終わりじゃなかったな。

 

「AI、モード切替だ。他の熱源を示してくれ」


「了解」


 十時方向へ複数の熱源がある。

 

「あそこだな。ええと、狩人さん」


「ブライです。それにしても、お強い。まさか本当にヌシを倒してしまうとは」


「息子さんの名前は?」


「ルクスです、ああ、そういえば……!」


「ええ。この先にいるかもしれないので、確認をお願いします」


「分かりました」


 アリアが俺に対して厳しい視線を向けてくるが、息子の確認をできるのはこの人しかいないだろう。

 たとえそれが死体であったとしても。

 

「ルクス! 返事をしてくれ! ルクス!」


 息子が生きている事を願いつつ、必死に呼びかけるブライ。

 

「い、いました!」


 茂みをかき分け、その声のした方へ行くと、葉っぱが寄せ集められた場所に俺達と同い年くらいの少年が寝転がっていた。足が折れ、ズボンも血で真っ赤に染まっているが、彼が持っていたロープで止血はきちんと行っているようだ。

 

「やあ、父さん……」


 さすがに力ない笑顔ではあったが、ルクスは意識もあった。

 

「良かった。でも、この小犬みたいなのは……」


 アリアが懸念の目を向けるが、ルクスをペロペロとなめている子犬が三匹いた。

 

「ヌシの子供でしょう。長老には怒られるでしょうが、こうなっては仕方ありません」


 ブライは弓を構え、まだ目も見えぬ感じのイノシシをそれぞれ射貫いていく。

 まだ小さなその命は自分が危険にさらされていることも気づかずに絶命していった。

 

「同情はしちゃいけないと思うけど、なんだか不憫ね……」


「いいんじゃないか? 命を哀れむくらいは誰にでも許されることだと思う」


 俺はそう言ったが、他にも村人の知り合いを殺されたかもしれないブライは違うことを考えているかもしれない。

 彼は何も言わずに息子を背負った。

 

「一度村へ戻りましょう。魔石や肉は人手が無いとどうにもなりませんから」


「魔石?」


「ええ、分かっていますとも。ヌシを仕留めたのはあなた方で、私は何もしてません。むしろ助けていただいて、なんとお礼を言って良いやら、本当にありがとうございました」


「いえ、そのことはいいんですが、魔石というのは骨のことですか?」


「いえいえ、とぼけないで下さい。魔石とは魔力の籠もった石のことですよ」


「はあ、この地方のお守りみたいなものかな?」


 翻訳が失敗している感じなので俺はアリアに話を振る。

 

「さあ? とにかく、救急キットもテントにあるから、村へ怪我人を早く連れて行きましょう。あの、ブライさん、私達が息子さんを背負いますけど」


「いえいえ、とんでもない。これくらいは私がやりますので、お気遣い無く」


 そう言われてしまっては担がせろと強く言うのもためらわれた。

 途中でブライがへばったところで交代を申し出た方がいいだろう。

 アリアと目配せで頷き合い、森を警戒しつつ進む。

 

 さすがにあんな化け物が出てきた後だ。

 俺もアリアも今度は何が出てきても良いように油断せず、レーザーライフルをずっと構えたままで移動する。

 

 

 

「おお! 戻って来たぞ!」

「あなた!」


 村に戻ると、村人達も無事で済むとは思っていなかった様子で、皆が驚き混じりで歓喜していた。

 その間にアリアが救急キットをテントから持って帰り、ブライの家でルクスの治療を開始する。

 

「まず患部の消毒ね」


「先に服を切ってしまおう」


 『単分子高周波ブレードナイフ』を使い、ルクスの布ズボンを慎重に切り取る。

 

 単分子とは、一つの原子だけで作られた分子であり、分子とは物質の性質が機能する上での最小の組み合わせのことを言う。

 つまり、早い話が、これで作られた刃先は世界で最も薄く鋭く、強固な物質となる。

 何しろ原子一つ分の厚みなのだ。これ以上の薄さは存在しない(・・・・・)

 

 さらにナイフは柄の部分に高周波の出力調整スイッチがあり、握りしめることによって切れ味を変えられる。物を切るには摩擦が関係しており、ミクロな視点で見るならば、それは物質の破壊と言えよう。

  だから、より激しく細かく振動させることにより、摩擦力と破壊力も局地的により大きく(・・・・・)なるのだ。

  

  ただ、今は彼の足を間違って切ったりしないようにしなければならないので、良すぎる切れ味も考え物。このナイフは鋼鉄でもスパッと切れるし、これで間違って自分の手を切った兵士も大勢いるという話だ。

 

「どうぞ、酒です」


 ブライが消毒用にと革袋を渡そうとしてくれたが、彼らが持つ物ではアルコールの純度が気になる。


「いえ、こちらのを使わせて下さい」


 救急キットから消毒スプレーを取り出してシュッシュッ。


「うっ、あれ? ()みない?」


「なんだと! くそっ」


 ルクスの意外そうな反応に、父ブライは痛みも感じぬほどの重傷かと誤解してしまったようだ。

 

「いえ、これは滲みない薬ですから」


「おお、そんなものを。しかし、うちにはあまりお金が無いので……」


 不安そうにするブライに、アリアが微笑む。

 

「いいえ、お金は取りませんから」


「では、何を差し上げれば――」


「何も要りませんよ。ああ、でも、皆さんが着ている服を譲ってもらえるとありがたいですね」


「分かりました。私と家内の着ている物でよろしければ、いくらでも持って行って下さい」


「一着、いえ、着替え用も含めて二着もあれば充分です」


 大きめのiPS絆創膏を傷口にペタッとな。これは剥がす必要も無く、貼るだけでどんな傷口も再生してくれる優れ物だ。

 傷跡も残らない。


「ルクス、痛み止めと抗生物質の薬だ。飲んで」


「はい。コーセー? これは変わった薬ですね……」


 俺からカプセルと錠剤を受け取ったルクスがしげしげとそれを見つめた。

 

「ルクス、何をしている。この方達はお前の命の大恩人だぞ。今更、毒を盛るようなこともないだろう」


「いや、父さん、それを心配したわけじゃ無いんだけど」


「だったら、言われたとおりにしろ」


「分かったよ」


 母親が水の入った木のコップを渡し、ルクスがそれで飲み干す。

 こちらの無菌のペットボトル入りの水を差し出したくなったが、知らない人から変な水を出されてもまたルクスが戸惑うかもしれない。


「後は添え木だな。何か使えそうな物は……」


 ブライがそう言って家の中で木を見繕い始めたが、それも救急キットにあるので不要だ。

 

「いえ、こちらで用意しますので」


「おお、ありがとうございます」


 スコープのX線測定で骨の位置を確認する。


「良かった、単純骨折だ。これなら難しくない。アリア、足を押さえててくれ」


「了解」


 添え木になる網付きのプラスチック棒を救急キットから取り出し、展開して長さをひねって調節する。スコープで骨の接合を確認し、足に巻いて固定。網状だから傷口が蒸れる心配も無い。

 

「これでもう大丈夫です。後は安静にしておいて下さい。一月くらいで痛みが取れたら、ここのつまみをひねってギプス……添え木を外せますから」


「ほう、こんな細い物で?」


「強度は充分ありますよ」


 心配そうな父親に予備のプラスチック軸を渡してやる。

 彼は曲げようとして少し力を入れたが、それで納得してくれたようだ。

 

「どれ、手当は済んだかい?」


「ババ様!」


 真っ黒なローブを纏い、腰の曲がった呪術師風の老婆が家に入ってきたので俺は不安を覚えた。     

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