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隊長、魔法が使えるのにワープ装置が作れません!  作者: まさな
第一章 軍人のなすべきこと
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第八話 大いなる主

 仕切り直しして村の入り口から二人で中に入る。


「やはり、監視装置は無いな」


 柵の内側に足を踏み入れているが、警報も鳴らなかった。

 

「向こうよ」


 アリアが指さした先――広場に村人達が集まっている。全員、不安げな表情だ。

 

「俺が話そう。AI、部分的で良いから、翻訳を頼む」


「推奨しません。言葉のわずかな違いで、状況を悪化させる可能性があります」


「構うもんか、襲われたら逃げるだけだ」


 それよりもAIが宇宙保護条約違反を指摘しないのが少し疑問だったが、子供がさらわれて法律や条約がどうのこうのなんて言ってる場合じゃないか。

 

「皆さん、私たちにも詳しい話を聞かせて下さい」


「もっと簡単な言葉でお願いします。翻訳の精度が保証できません」


 AIがさっそく注文を付けてくるが、それもそうだな。

 

「話、聞かせろ」


「何もそんな乱暴な命令口調で……」


 今度はアリアが文句を付けてきたが、どうしろと。

 だが、スーツのAIが俺の音声を上手く変換してたようで、村人達が反応した。

 村人の声もスーツが音声を変換してくれる。それ以外の邪魔な声は消音スピーカーで打ち消しだ。音は空気の波動であり、同じ大きさで逆相の波形をぶつけてやれば、無音になるのだ。 

  

「旅の御方かの?」


 村長らしき老人が前に出て聞いてきた。


「そうだ」


「ええ?」


 アリアが俺の答えに疑問を抱いたようだが、軍人と言ったところで村人を警戒させてしまうだけだろう。早く話を聞くには、この方がいい。

 

「そうですか。じゃが、これは村の問題。よそ者には関係ない」


 思ったよりも翻訳率が高そうだ。

 もう少し丁寧に話そう。


「子供がさらわれたと聞きました。私達なら助けられるかもしれません」


「本当ですか!」


 跪いて泣いていた男が、飛びかかるように俺の両肩を掴んだ。

 スーツが自動で警戒しようとしたが、俺は両腕に力を入れてその補助を停止させる。

 

「ええ。詳しい話を聞かせて下さい」


「分かりました。私は息子と森に狩りに出ていたのですが、そこでアイツ――森のヌシに出会ってしまったのです。気づいたときにはもう息子が襲われていて」


 そう言って父親は下唇を悔しそうに噛んだ。


「その場所に案内してください」


「分かりました。村長、この人がそう言ってくれるんだ、構わないですよね?」


「構わぬが、旅の御方よ、森のヌシは相当に危険じゃ。ただの××ではないぞ。関われば命も危ういし、倒したところで(たた)られよう」


 一部翻訳が失敗したが、村長が何を言いたいのかは分かる。

 

「問題ありません。こう見えても私たちは、もの凄く強いので」


 自信満々の笑顔を見せて俺は言う。

 科学技術の信奉者だし。

 それを聞いた村人達がうさんくさそうな表情になったが、別に信じてもらう必要は無い。

 村長は悲しそうな顔で首を横に振ったが、反対するつもりは無さそうだ。

 

「じゃ、私は銃を取ってくるわ」


「ああ、それを使わずに済めばいいんだが」


 だが、会話して一つだけ分かったことがある。

 森のヌシとはおそらく人間では無い。

 盗賊なら狩人の息子をさらったりはしないだろうし、村長もあんな言い方はしないだろう。




「ここです」


 父親に案内してもらい、村から十五分ほど走った場所にやってきた。

 すでに息子が襲われてから三十分以上は経過していて、時間が経てば経つほど、救出は困難となるだろう。時間は一刻を争う。

 

「百メートル以内にはいないわね……木が邪魔をして、それ以上は探知できないわ」


「ひょっとしてあなたは魔術が使えるのですか?」


 父親がハッとした顔で聞いてくる。

 

「ああいえ、見たところって意味で、魔術じゃ無いわ」


 アリアが苦笑してごまかしたが、今の父親の反応、この世界には魔術が普通にありそうな感じだった。 ……まさかな。


「そうですか。息子は襲われたときに怪我をしています。血の跡を追いましょう」


 父親が地面に屈み込み、地道に探し始めた。

 

 俺とアリアはうなずき合い、スーツの片眼スコープを使う。

 

「ALSサーチモード、対象、人間の血液」


「了解」


 AIに音声で指示して、スコープが通す可視光線の波長を変える。

 こうすると、有機物はそれぞれ特定の波長に強く反射して光ったり、逆に吸収したりする性質があるので、波長を調整すれば血液だけを光らせることが可能だ。

 

 蛍光色の緑で分かりやすく血痕が浮かび上がった。

 

「向こうだ!」


 そちらに向かって三人で走る。


「注意、複数の熱源を探知」


 十分ほど森の中を走ったところで、AIが告げた。

 

「近くにいる。ここからは慎重に行こう」


「ええ」

 

 父親は背中に担いでいた弓を下ろして構え、俺達は銃を構える。

 

 三人とも音を立てないようにゆっくりと歩いて周囲を警戒した。

 

「警告、大型の熱源がこちらに急速接近中。気づかれたようです」


「来るぞ!」


 アリアもリンクしているので言う必要は無いが、父親にも報せてやり木の後ろに隠れる。

 

「……なに、この音」


 アリアが緊張した声でつぶやいたが、俺にも次第に大きくなる地鳴りのような音と、爆竹のような連続する破裂音、そして時折、低く嘶く声が聞こえてきた。

 おかしな音も混じっているが、どうやら獣には違い無さそうだ。

 

 相手が人間で無くてほっとする。


 軍隊に入っておいてそれは無いだろうと言われそうだが、俺は故郷の星を守るために軍隊に入ったのであって、人を殺したいからでは無い。

 

「ヌ、ヌシです!」


 父親が狼狽えた声を出し、その直後、周りの木をなぎ倒しながらソレが出てきた。

 

「BUMOoOOO――!!!」


「な、なんだコイツはッ!」


「そんな、こんな生物がいるなんて!」


 人を襲う大型の獣が来ると予想していてなお、俺とアリアは動揺してしまった。

 あまりに大きい。全長十メートルやそこらでは利かないだろう。

 真上を見上げるような巨体――。

 

 一瞬、その大きさにあっけにとられてしまったが、コンバットスーツの自動回避で俺は潰されずに済んだ。

 跳躍して逃れたが、俺の後ろに生えていた木々が代わりに弾き飛ばされていく。

 木を弾き飛ばすって。

 無茶苦茶だ。

 大型ブルドーザーや戦車でもああは行かないぞ?

 

「気をつけて下さい! 奴の正面にいると潰されます!」


 いつの間にか別の木の上に登っていた父親がこちらに向かって言う。

 それ、もうちょっと早く言って欲しかったんだけどね?

 

「また来るわ! 方向転換が速い!」


 銃を構える間もなく、またヌシがこちらに突っ込んできた。

 

「っざけんな! イノシシ風情が! 宇宙艦隊兵士を舐めるな!」


 俺は横っ飛びの避けざまにレーザーライフルの引き金を引いた。

 さすがに照準を合わせている余裕などない。

 いくら2トンの衝撃に耐えられるコンバットスーツとはいえ、アレは無理だ。

 試す気にもならない。


「よし、命中! んん?」


 イノシシが痛みで怯むと期待した俺だったが、奴は痛がるそぶりさえ見せない。


「レーザーライフルが効かないですって!?」


 アリアもイノシシに何発かレーザーを命中させているが、奴の動きが鈍る様子は無かった。

 

「AI、どうなってる! 推測で良いから説明しろ」


「了解、一定のダメージは与えていますが、巨体のため、致命傷に至っていません。また、痛覚が元々鈍いか、興奮状態で麻痺していると考えられます」


「どうすればいいの? このままじゃこっちが持たないわ」


「弱点を解析中。攻撃を続行して下さい」


「ええ? なるべく早く頼むわね」


 アリアは諦めて攻撃に戻ったが、相手が生物ならやりようはいくらでもある。

 

 俺はその場で仁王立ちになると、レーザーライフルを構えた。


「何してるの、クラド! 潰されるわよ!」


 まあ見てろって。

 

 俺は牙と牙の間、眉間の中央に照準をしっかりと合わせた。

 

「ここだ! 照準固定! 自動追尾しろ」


「了解」


 AIに命じてから、一発。

 すぐに地面を思い切り蹴って、巨体の衝突から逃げ延びる。

 

「クラドーッ!」


 アリアが悲痛な叫びを上げたが、どうやら俺が死んだと思ったらしい。

 

「まだ生きてるぞ」


「ああもう、死んだかと思ったじゃない。で、今のは何? 英雄気取りか自殺願望なの?」


「馬鹿言わないでくれ、どっちでもないよ。ところでアリア、生物の最大の弱点はどこだと思う?」


「なるほど、脳を狙ったのね。効いてないみたいだけど」


「なにおう!?」


 そんな馬鹿な、と思って俺は後ろを振り向いたが、イノシシがこちらに向かって再び突進してくるのが見えた。

 

 コイツ、不死身か?!

連投終わり。

やりきった……やりきりはした。

ブクマや評価を頂くと作者が喜びます。

クオリティと書く速度があがるかもしれません。


追記

ご存じの方もいるかもしれませんが、作中に登場させた血痕を見る科学捜査用(ALS)ライトはすでに実在します。

私も欲しいなと思ったらお値段が高すぎて手が出ませんでした。

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