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隊長、魔法が使えるのにワープ装置が作れません!  作者: まさな
第一章 軍人のなすべきこと
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第七話 第二の痕跡

 無かったことにした。

 

 いや、アリアは自分の失敗にすっかり落ち込んでしまい、なだめるのに少し苦労したほどだが、彼女がそこまで悪いわけじゃない。

 銀河宇宙同盟の宇宙保護条約では、ワープ推進装置をまだ開発していない知的生命体が存在する場合、彼らとの接触と干渉が禁じられている。しかし、俺達は最重要任務のため、宇宙船の有無を相手に確認する必要があった。 

 多少、急ぎすぎた感はあるが、すでに向こうに気づかれていたし、不慮の事故……そうとも! あれは不慮の事故だ。

 それに向こうが攻撃的で襲ってきたからな。携帯測定器の測定結果ではタダの棍棒だったが、それも後から調べて分かったことだ。あのときはそれ以上の武器かどうかなんて俺達に短い時間で判断できるはずもない。


「はぁ……」


 ため息をつくアリアをなんとか元気づけてやりたい。

 

「見てくれ、ハーランド」


「何?」


「食べられる木の実だ。ちょっと苦いけど、焼いたら旨そうだぞ」


「いらない」


 困ったなあ。彼女いない歴ばく進中の俺にはこういうときに打てる手が無い。

 何か気をそらす話題でも無いものか。


「ありがとう、クラド、気を遣ってくれて」


「いや」


 微笑むアリアは気の良い奴だ。

 俺は彼女のためにも任務に集中することにして、周囲に目を光らせた。


「ん? 見ろ、ハーランド」


 地面のへこみを見つけた。


「今度は何?」


「ここに足跡がある」


「それ、さっきの知的生物のでしょう」


「いや、アイツのじゃないぞ。アイツは裸足だったが、これは靴を履いてる」


「えっ」


 アリアもこちらにやってきて覗き込んだが、彼女もその意味するところをすぐに理解したようだ。

 

「追いましょう。宇宙船の手がかりになるかもしれないわ」


「ああ、行こう」


 足跡は草むらの上では消えてしまうので肉眼ではなかなか探しづらかったが、コンバットスーツのスコープで予測行動をAIにやらせてなんとか俺達は足跡の主を追跡した。

 

「道だ!」


 そこだけ草が生えておらず、舗装されてもいなかったが、間違いない。

 この先にある物を期待して俺達の歩きは早くなる。

 

 三十分ほど歩いて、道の先に辿り着いた。

 

「建物があるわ」


「柵もあるな……」


 少し離れた木の陰から観察する。

 木と藁葺きで組んだ家がいくつか。

 街というよりは村と呼ぶべき規模の集落だ。

 

 期待していたほどの技術力ではないが、棍棒の種族よりはマシだろう。

 何せここにいるのは靴を履く文明人だ。

 

 さて、これからどうするか、だが。

 

「いきなり、交渉に行くのはやめた方がいいと思うの」


「同感だ。まずは偵察だな。気づかれないように」


「ええ」


 すぐ近くの森に迷彩テントを設置し、そこからスーツのスコープで観察。超小型ドローンも発進させて上空からも偵察することにした。

 

「出てきた。ああ! 人だわ! 私たちと同じヒューマンタイプよ!」


「本当だ。まったく同じだな……」


 やはり文明が違えど同族の安心感は大きい。

 目と足が八つずつある足長族と同室になったことがあるが、彼が動く度に俺はビクッとしてしまって落ち着かなかった。

 

「何か喋ってる。AI、言葉の解析を急いで」


「了解」


 スーツ内蔵の指向マイクで音声を拾い、AIが解析してくれるのを待つ。

 

「ああ、二人とも別れちゃった。会話はもうお終いね」


「さすがに、今のだけじゃ、解析は無理だろうな。どうだ、AI?」


「解析率0.6パーセント完了。語彙はまだまだですが、一定の会話パターンは認められました。比較的解析が楽な言語と推定されます」


「じゃ、どんどん音声を拾わないとな。ドローンを近づけよう」


「待って、それだと音で気づかれるかもしれないし、ドローンは貴重よ。私が潜入するわ」


「本気か?」


「ええ。この程度の文明相手なら、ステルスモードで気づかれずにやれると思う」


 それはこの種族も宇宙船は持っていないという宣言のようなものだったが、今の俺達は手がかりを集めるしかない。

 

「じゃ、俺はここから監視して支援する」


「お願い」


 アリアが左腕のパネルを操作して、コンバットスーツをステルスモードに切り替えた。

 スーツが変形して顔をすべて覆い、さらに光学迷彩がかかって彼女が透明になっていく。

 その仕組みはスーツのカメラで周囲の色を拾い、全方向へ向けて同じ色を指向発色する。カメレオンの原理だが、こちらは瞬時に色が切り替わるので、肉眼での判断はまず不可能だ。

 

 俺は片眼スコープの赤外線熱分布画像(サーモグラフィ)モードで監視を続ける。

 スーツは温度も遮断してしまうので、アリアの姿は通信を同期(リンク)させない限り見つけられないが、これで村人の位置は建物に隠れていようとも簡単に把握できる。


「話をしている二人の女性を見つけたわ。良く喋ってくれそう」


「あまり無理をするなよ、ハーランド。何かあったら離脱を優先してくれ」

 

「分かってる。ここでは銃は使わないわ」


 だといいが。

 アリアのスーツと同期しているので聞き慣れない言葉が通信を介して聞こえてくる。

 頭痛がしてきたのでそちらの音声は音量を絞って監視を続行する。

 

「解析率12パーセント」


「早いな」


 この言語解析機能は一時間以上は会話しないと役に立たないと教わったのだが。

 

「銀河同盟ローニア星系第三ハイドニス惑星に動詞の使い方が似ています。また二人の女性は状況から中年の既婚者と推測され、夫の悪口を言い合って楽しんでいる様子なので、そこに人類共通の糸口を掴みました」


「歓迎すべき状況だが、その夫には同情してしまうな」


「あら、その夫が甲斐性無しってこともあるんじゃない?」


「その判断は夫の言い分を聞いてからだな。少し待て」


 スコープに割り込みが入り、村に急接近する人間の位置状況が示された。


「誰か来たみたいね」


「ああ、厄介ごとでなければいいが……」


「そっちに行ってみるわ」


「待て、ハーランド、危険かもしれないだろう。接近する人間がここの村人とは限らないぞ?」


「だから調べるんじゃない」


 行動力が高めでヒヤヒヤしてくるが、彼女の判断も間違っていない。

 仕方なく俺は監視をそのまま続行するが、ここから狙撃もできるように銃を構えた。

 

 走ってきた男は、息を切らせながらも、同じ単語を発声している。

 すると村人達が家々から飛び出して不安な表情を見せ始めた。

 

「なんて言ってるのかしら? 何か、危険が迫ってるみたいだけど」


「いや、それなら武器を取って警戒するところじゃないか? 村人達は困った感じだと思うが」


 男を囲んで、ヒソヒソと囁き合っている。

 すると、一人の厳格そうな老人が家から出てきた。ちなみに彼らの服は上着と下に穿く物が別れており、ボタンも付いていて前宇宙時代中世の田舎っぽい趣だ。

 

 男はその老人に向かって何かをしきりに叫んでいたが、老人はゆっくりと首を横に振った。

 何かを要請しているが、断られたという感じだろう。

 男はその場に崩れ落ちると、泣き始めてしまった。

 

「なんだか可哀想ね。事情はよく分からないけど……」


「AI、何か推測できる事はないのか?」


「いくつかありますが、『大きな(ヌシ)』と呼ばれる存在が彼の大切な肉親をさらったという状況が考えられます」


「さらった? それって子供の誘拐事件じゃない!」


 アリアが感情的に反応するが、それは(・・・)少し(・・)まずい(・・・)

 

「落ち着け、アリア。俺達は干渉できないぞ。ここの人たちはどう見たって宇宙船を持ってる感じじゃない。だとするなら、介入は銀河宇宙保護条約に抵触してしまう。それに俺達は軍人であって、警察でもないんだ」


「分かってるけど! でも、子供が誘拐されたのに、黙って見てろっていうの?」


「まだそうと決まったわけじゃない」


「解析できました。彼の息子がさらわれたようです」


「お前な……」


 AIに空気読めと言っても無駄か。

 

「もういいわ、私、この人と話してみる。子供を助けるのに理由や規則なんていらないわ」


「ま、待て、アリア! 話すのは良いが、そこでいきなり姿を現すのだけは止めとけ」


 間に合わないかと焦ったが、アリアもそこは冷静に頭が回ったようだ。


「そうね、いきなりステルスを解除して、急に人が現れたら、ここの人たちもびっくりするでしょうし」


「だが、本当にどうなっても知らないぞ」


「大丈夫よ。この状況で肉親を思い、殴り合いにならない文明人ですもの。きっと話は通じるわ」


「だといいが。俺も行く」


「ええ。私もいったんそっちへ戻るから」


 テントへ戻って来たアリアと合流し、コンバットスーツがあれば銃は必要ないと判断して、その場に置いておく。

 この銃は生体認証でロックがかかる仕組みで、銀河同盟軍の兵士でないと扱えないからここの原住民に奪われても問題無い。解析されたら困るが。テントも光学迷彩が施されているのですぐには発見されないだろう。

 

 さて、上手くいけば良いが……。

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