幕間 聖夜の罠
ワープ装置を求めて『浮遊城』の探索を続けている俺達だったが、もちろん軍隊にも休息は必要である。
二十四時間戦い抜ける戦士など存在しないのだ。
軍隊は組織である。組織である以上、誰かと交代して休息を取ることができるし、その方が効率が良い。
戦闘中ならともかく、ステラの話では未だ銀河宇宙同盟の主星は平穏無事であり、時間的余裕がありそうだった。
なら、一度に全員を休ませた方が、部隊を交代して分けるよりも安全だ。
俺は隊長としてそう判断し、少し余裕も持たせて二週間の休暇を決定した。
アリアが「それ、長すぎない?」などと異論を唱えてきたが、多数決に持ち込んで二週間を守り抜いた。うちのパーティーメンバーの性格を緻密に把握し尽くした切れ者隊長の戦略的勝利である!
俺はその戦利品たる休暇を存分に満喫しながら、今日は暖炉の側に毛布を被って寝そべり、この世界の書物を読みながらゴロゴロしていた。
最強暖房器具のこたつがあればなお良かったのだが、残念ながらヨーロッパ風のこの国には無いそうだ。
「あふ……」
好きなときに本を読み、好きなときに眠り、はてまた何もせずに怠惰を味わう。
これを幸せと言わずに、何と言う。
軍隊というブラック確定の組織に入った時は二度とこんな時間は来ないかと思っていた。
だが、ひょっとすると気前の良い神様も存在するのかもしれない。
俺がそんな気まぐれを起こしたせいか、せっかくの静寂を破るノックがあった。
訪ねてきたのがアリアなら気分も高揚するが、彼女ならすぐに要件を告げるだろう。
「開いてるが、何の用だ?」
「お休みのところ、お邪魔して申し訳ありません、勇者様、おっとシン様でしたな」
プラーク司祭だ。わざとらしく名前を言い直したのは、理解に苦しむ親父ギャグというヤツだろうか?
「次、間違えたら、俺は勇者を廃業するから」
「おお! なんという罰当たりなことを。勇者とは職業などではありませんぞ。それは神に選ばれし祝福なのです。まあ、そんな堅苦しい話をしに来たわけではありませんので」
ニコニコと笑う狸親父は何の用事なのやら。
「じゃあ、さっさと本題に入ってくれ」
「はい。実は、ステラ様から聞いたのですが、本日十二月二十四日の夜はとある神の生誕を祝う日だとか」
「クリスマスか」
その神の本当の生誕は四月だと聞いたこともあるが、まあ、細かいことは良い。
「ええ、実は我らが教会も二十四日の夜は特別な日として祝う行事があるのです。まあ、主神の誕生日とはまったく関係が無いのですがね」
「ふうん、あっ、俺は式典には出ないぞ」
のんびりと話を聞いていたが、うっかり勇者として活躍させられるところだった。
「いえいえ、シン様の謙虚で奥ゆかしいお人柄は良く存じあげておりますので、ご安心を。ただ、式典では無く、ちょっとしたプレゼントを運ぶ行事に参加していただければと。もちろん、内輪だけの小さなモノで、渡す相手はアリア様ですぞ」
「む、アリアにプレゼントを渡せというのか」
「はい。アリア様も大変奥ゆかしい方ではございますが、そこはうら若き女性、プレゼントをもらえば、ご機嫌も良くなり、ひょっとしたら休暇が延びるやもしれませぬなあ」
「むっ、分かった。そういうことなら、手伝おうじゃないか」
「ありがとうございます。さっそくですが、シン様は何か彼女に渡したいプレゼントはお決まりですかな?」
「いや……この本はどうかな」
割と面白い話だった。
「それもよろしいかと思いますが、せっかくのクリスマス、ここはもっと大胆に勝負して許されるところですぞ?」
「んん? というと?」
「ここに、僭越ながら宝石の指輪をご用意させていただきました。教会に伝わる由緒ある品で、プロテクトの魔法も掛かっております」
「へえ、戦闘の役に立ちそうなら、アリアも喜ぶかもしれないな」
「ええ、それがシン様からの贈り物となれば、なおさら」
「いやー、それはどうかな。ま、話は分かった。それじゃ今から渡しに行くか」
「ええ、ではこちらへ」
プラークに付いていくが、彼はアリアの部屋には行かずに、別の部屋に入った。
「では、シン様、ここで服を脱いで下さい。下も」
「おい。何のつもりだ。こら、プラーク、服を脱ぐんじゃない」
中年男のふっくらした肌なんて見たくも無い。誰得だよ。
「まあまあ、早くこれに着替えて下さい。私も寒いですからね、手早く行きましょう」
「んん? ああ、サンタ服か」
そこに畳んで置いてある赤い服には見覚えがあった。
毛皮で暖かそうなので、俺もそれに着替えてみる。白髭も付けて、完璧だ。
「では、参りましょう」
しかし、アリアの部屋に行ってみたが、彼女は留守にしていた。
出直すにしても、この服を着たままだと何だか落ち着かない。
「そうだ、端末を使うか」
俺は携帯測定器を連絡用デバイスとして常に持ち歩いている。なんと言っても隊長だからな。ポケットからそれを取り出し、アリアを呼び出した。だが、つながらない。
「おかしいな」
「何か、あったのでしょうか」
少し心配になり、今度は彼女の位置情報を探る。銀河宇宙同盟軍兵士は全員、タグと呼ばれるネックレスを身につけることが義務づけられているので、これで位置が判明するはずだ。
「いた。向こうだな」
「それは良かった。ついでに、古式のやり方で参りましょう。煙突から入って渡せば、ムード満点、ご婦人のハートもイチコロと聞きますぞ?」
「別にそこまで頑張らなくて良いと思うが、まあ、ちょうど煙突があればな」
「ええ」
携帯測定器で超音波測定を行い、反響音から立体マップを作成し、アリアの元へ向かう。
「お、ちょうどここに煙突らしきところがあるぞ。アリアはこの先だ」
「それは僥倖、では、火も付いていないようですし、参りましょう」
ロープを引っかけて垂らして、俺がまず先に煙突に入る。
「くっ、戦闘服無しだとキツいな。着てくれば良かった」
ロープの滑り降りは訓練で何度もやったが、やったからと言って慣れるものでは無い。
「まあ、降りるだけですし。渡した後の出口は大人しく普通のを使いましょう」
「賛成だ」
ここを戦闘服の補助無しで昇れと言われても俺には無理だ。
「ねえ、アリアはシンのこと、どう思ってるの?」
「ええ? どうって……」
下からステラも一緒なのか、声が聞こえてきた。
「ほら、分かるでしょ。男として好きなの? にしし」
「もう、そういう下世話な話、やめてくれない?」
まったくだ。ステラも何を話題にしてるんだか。
ようやくなんとか一番下まで降りたが、周りに湯気が充満していて、よく見えない。
なんだここ?
「シン様、早く、どいて下さい」
「おお、悪かった」
「だ、誰っ!」
「いや、アリア、俺だよ」
「シンッ!?」
アリアの反応が何やらおかしいが、とにかくサプライズだ。
「プレゼントだ。これを受け取って欲しいんだが」
その時、煙突の上から風が吹き込み、湯気が取り払われた。
俺はその光景を見て、固まる。
一歩先にはお湯が満たされた浴槽となっており、二人の少女があられも無い姿で立ってこちらを向いていたのだ。お湯で濡れたアリアの銀髪が魔道具の明かりによって輝いている。その白い柔肌は、見るからに神々しい美しさであった。
「こんの、変態!」
アリアが持っていたレーザーライフルを発射してくる。こんなところまで武器を持ち込む彼女の警戒心には感心するが、これはかなりヤバイ。急所に当たったら間違い無く即死だ。
「うわ、違うぞ! ひい!」
俺は慌てて逃げ出したが、とっとと先に逃げ始めている薄情者のプラークがトロくて、なかなかロープを上れない。
「あっつ! よ、よせ、アリア、俺を殺す気か!」
「ええ、痴漢をする不届きな隊長なんて、この場で戦死扱いにした方が良いわ。名誉だけは守ってあげるから、感謝しなさい!」
「そんなのは嫌だぁ!」
大陸歴322年十二月二十四日、聖なる夜に勇者の絶叫が大神殿から聞こえたという。
警備厳重な大神殿の浴室での戦闘という由々しき事態であったが、雪の降り始めた帝都アノンは至って平和であった。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
SF熱が冷めてしまい、アイディアが出ず、続きが書けなくなってしまったので、この作品はここで打ち切りにしようと思います。すまぬ……(;´Д`)




