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第三十二話 いびつな生物

 『浮遊城』の調査を続けている俺達は、隠し通路を見つけ、その先に待ち構えている何か・・を警戒しながら進んだ。

 

「いたわ!」


 吹き抜けの広間に入るなり、アリアが叫ぶ。

 

「ちい、二頭か……」


 俺は思わず舌打ちした。そいつは一頭だけでは無かったのだ。

 ライオンのような大型の猛獣が二頭、すでに獲物を狩る態勢に入っているのか、両方とものそりのそりと我が物顔で広間を歩きながら、こちらを窺っている。


「うえ、なんかこいつら、おかしくない? なんで頭が二つずつあるの?」


 ステラが気味悪がったが、ライオンの頭の横には山羊の頭が生えており、明らかに普通の生物ではない。突然変異にしても二頭ともその形なので、やはりおかしい・・・・


「遺伝子操作で生み出されたみたいね……酷いことを」


 アリアが空色の瞳を曇らせ悲しむように言ったが、何を目的とした研究だったのか。残念ながら、俺達には分かりそうも無い。


「話に聞いたことはある。ライオンの頭、山羊の頭、そして毒蛇の尾。こいつらはキマイラだ。火のブレスを吐くと言うから、気をつけろ」


 現地の騎士ミーユが言った。


「俺とアリアは右、ステラとミーユは左の奴を頼む。ネリーやアルマには近づけさせるなよ」


 前衛と後衛を意識して配置を指示し、戦闘服のスイッチをフルモードに切り替えておく。

 

「ダメ、アタシがアリアと組むから、シンがミーユと左を頼むよ!」


 赤毛のポニーテールをなびかせたステラが右に駆け込みながら言うが、リーダーの指示を無視するなんて勝手な奴だ。どうせ理由は仲良しのアリアと組みたいだけなんだろうけど。


「分かった。油断はするなよ」


 ここで揉めている場合ではないので、俺が左に回ることにした。

 先ほど宝箱から手に入れたばかりのミスリルの剣を抜く。レーザーライフル銃の方が安全だろうが、今後のことを考えるとエネルギーパックの残量も気にしなくてはいけない。雑魚相手であれば、なるべく節約して剣で倒したいところだ。チタン合金並の強度なら、戦闘服で全力の二トンパワーを出しても、簡単に折れてしまうことは無いだろう。

 

「もっちろん!」


 ステラも剣を抜き、アリアと共にキマイラに斬りかかる。


「GUO!」


 キマイラは一声吠えると、意外に素早くジャンプしてそれを躱してしまった。


「あっ、コイツ、速い!」


「シン、こちらは挟み撃ちだ!」


「了解!」


 ミーユと俺で、左のキマイラを囲い込むように斬りかかる。俺の一撃は躱されてしまったが、ミーユの一撃がキマイラの体を捉えた。

 行ける、と思ったが、しかしキマイラは器用に爪でミーユの剣を弾いてきた。


「こ奴ッ! 気をつけろ、かなり強いぞ」


「みたいだねえ。くっ、全然剣が当たんないよ!」


「ステラ、むやみに攻撃しないで。相手の動きをAIで予測して攻撃しましょう」


「あー、でもアタシ、このブルータス製のスーツ、いまいち操作が分かってないんだよねえ」


 この様子だと、アリア&ステラ組は苦戦必至のようだ。早めにこちらを片付けて援護に行かないと。

 

「シン、もう一度だ。連携で行くぞ」


「分かった」


 通常、出会って間もない剣士が互いの動きを合わせながら動くというのは至難の業だろう。だがしかし、俺の戦闘服はすでに一度、ミーユとの決闘で彼女の動きを深層ディープ学習ラーニングさせている。となれば、何もせずとも自動で最適解を導いてくれる。

 

「GUA!」


 先に斬り込んだ俺の剣が、キマイラの爪で防がれたが、ここは力押しでコイツを足止めする。戦闘服の人工筋肉がきしむ音を発し、キマイラがよろけた。

 片眼スコープに、ミーユの未来予測が半透明の映像で示され、ロックオンが掛かった。


「今だ、ミーユ、アレを使え!」


「承知! 王院流旋風剣、奥義ッ! 飛翔エンジェル聖痕スティグマータ!」


 白き騎士が放った、一閃。

 それはただの一撃でありながら、無数の傷を負わせる奥義。

 映像解析して分かったことだが、音速を超えるスピードで連撃を繰り返し、その衝撃波がかまいたち・・・・・となって、剣の間合いの外まで切り刻む技だった。

 

「GUAAA!」


 血を流して暴れたキマイラはかなりのダメージを受けたようだが、まだ動ける。

 

「ちいっ、しぶとい……! シン、残念だが私はしばらく奥義を使ったせいで、腕がまともに動かぬ。奴のとどめを頼む」


「分かった」


 しぶとい相手には、体全体にダメージを与えるより、急所を狙うべきだ。俺はそう考え、奴の頭を剣で刺すことにした。

 

「GAU!」


 手負いでありながら、逃げようともせず襲ってくる魔物。俺を噛もうと大口を開けたところを見計らい、その喉を剣で貫く。

 

「やったか?!」


「いけない、シン、離れて! そいつの脳は一つじゃ無いわ!」


「むっ!」


 アリアが指摘してくれたから、俺は難を逃れたが、二つ頭がある生物は、両方の頭を潰さないと動きは止められないようだ。当たり前だったな。

 

 だが、頭は残り一つ。

 

「あぐっ、ミスったぁ!」


「ステラ!」


 広間の右では、ステラがもう一匹のキマイラに体当たりされてしまったようで、壁にめり込んでいた。共和連合のパワースーツを吹っ飛ばすとは、なんて力だ。

  

「アリア様、ここは私が援護します!」


「ありがとう、プラーク司祭。でも、無理はしないで」


「ええ、分かっていますよ」


 プラーク司祭が前に出て錫杖を構えたが、ま、彼ならばそれなりの戦闘力はある。

 

「――偉大なる至高神ルーリーよ、万物の精霊エアを遣わし、かの者の傷と疲れを大いに癒やしたまえ。ハイヒール!」

 

 聖女アルマは魔法を唱え、ステラのダメージを回復させてくれているようだ。ステラの状況が心配だが、彼女が再び動けるようなら、こちらに有利だろう。

 

 なら、ここはこのままレーザーライフルは使わないで行く。

 俺がそう決めたとき――

 

「シン様、私も援護します!」


「ばっ、馬鹿、ネリー、お前は出てくるんじゃない!」


 俺は慌てて止めたが、一歩遅かった。


「GAU!」


「きゃあっ!」


「「「ネリーッ!」」」

 

 軽装の鎧しか身につけていない猫耳少女が、キマイラに体当たりされてしまい、ぬいぐるみのように軽々と宙を舞った。

あとがき

「シン様……宇宙を手にお入れ下さい」

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