第三十一話 冒険者
俺達は『浮遊城』の調査を続けていた。
「ねえ、宝箱があるよ! しかもおっきいの」
戦闘の後、ステラが興奮した声で言う。横幅一メートル五十、高さ五十センチ、奥行き五十センチくらいの金色の宝箱だった。
「俺が開けよう。他のみんなは警戒を。AI、X線透視と分析だ」
「了解。スペクトル分析により、窒素と炭素および酸素化合物の高密度反応を検知。TNT爆弾一キロと判別。危険です」
「おい、中身は爆弾かよ……」
何か良い物が入っているかと少し期待しただけに、俺はがっかりだ。
「ええ? 何それぇ」
「むむ」
「おお、さすがは勇者様、精霊エアを使い、中を開けずに判別するとは!」
中年親父が一人大興奮しているが、ほっとこう。
「AI、罠の無力化はできるか?」
「単純な電気配線のため、指向性電磁場の照射により、半導体回路を焼き切ることが可能です」
「やってくれ」
「了解、完了、これで安全に箱を開けられます」
簡易測定器の電磁場であっさりと片が付いた。楽勝だな。
「おい、シン!」
俺が宝箱を手に取ると、ミーユが焦った声を上げたが、そういえばAIの声は現地人には指向性音声だから聞こえないんだった。
「大丈夫だ、罠はすでに無力化して解除した」
「ほう」「さすがは勇者様」
「プラーク、いちいち褒めなくて良いぞ」
中年親父に何度も褒められてもあんまり嬉しくない。
「おお、これは申し訳ありません。ですが、勇者様のお力を目の当たりにして、私も年甲斐も無く興奮しておりまして」
「とにかく、こんなのはいつものことだから、早めに慣れてくれよ」
「おおお……今の神業を朝飯前とおっしゃる? なんと……」
さて、宝箱だが。
開けてみると、中には一振りの剣が入っていた。
「剣だな」
AIは何も言わなかったので、ただの原始的な剣だろう。
「見せてくれないか」
ミーユが言うので、彼女に手渡す。
「ほう、これはなかなかの拾いものだぞ、シン。聖銀の剣だ」
抜き身の刃はほのかに青白く光っており、鋼とも色合いが違う。
「私にも見せてくれるかしら」
「いいだろう、ほら」
アリアが言い、ミーユが剣を手渡した。
「これは……未知の金属だわ」
「なにっ?」
「強度はチタン合金レベルね。前宇宙歴史区分で言うと、二十世紀レベルだわ」
「へえ、この星って十三世紀くらいかと思ってたけど、結構上じゃん。もうちょっとで宇宙船開発もできるかもね」
ステラが言うが、俺は否定した。
「いや、どう見てもここの人達が宇宙船を自力開発するのは無理だ。おそらく『戦艦ファンデルマーク』の仕業だろう」
「いえ、シン、それも変じゃない? わざわざ宝箱に入れて原始的な武器を放置しておく理由が無いわ」
アリアの言う通りだな。
「それもそうだ。まあいい、これは持って行くことにして、先へ進もう」
「でしたら、勇者様、鋼の剣はここに置いていった方が良いかと。余計な荷物になりますので」
「そうだな。性能が上なら、これがあればいいか。あと、プラーク、呼び名はシンで頼むぞ」
「了解です。隊長」
城の通路を進むと、カチャカチャという金属同士が当たる物音が聞こえてきた。
「気をつけろ、何かいるぞ」
ミーユが剣を抜いて警戒する。
「いや、相手は人間だ」
AIで調査した俺は言う。
程なくして通路の角から四人の男達が現れた。
「んん? おお、シンじゃないか」
見覚えのある顔の青年がパッと明るい笑顔を見せて言う。城塞都市ティムガットで、仲間の重傷を手術で助けてやった冒険者だ。パーティー名は『白き天馬』だったか。
「ロッドか。君たちもここに?」
「ああ。ここはこの辺りじゃ一番のダンジョンだからな。それなりに手強い場所だが、そろそろオレ達でも行けると思ってな!」
「そうか」
教会は浮遊城への転移魔法陣は一般冒険者にも開放しているそうで、この分だと、他の冒険者ともちょくちょく出くわすことになりそうだ。いきなり確認せずに攻撃したりしないよう、注意すべきだろう。
「ロッド、見ない顔の奴らだが、お前の知り合いか?」
軽装の革鎧の男が聞いた。ダガーを腰に差している。
「何を言ってるグレッグ、エディを助けてくれた大恩人だぞ」
「ああ、こいつが『青き星の狼』か。鎧も着てないのに剣を持っているとは、クラスは忍者か?」
「いや……」
昔の日本にそんな職業があったらしいが、俺は宇宙軍兵士だ。
「聞いたぜ、シン。お前らカンデラ街の『素手パーティー』なんだってな! 聞けよ、こいつら、素手で戦ってるんだぜ?」
「なに?」
「いやいや、ちゃんと武器を使うから」
思わぬところで噂が広がっているようで、面倒だな。現地であまり目立たないよう、俺も剣を使うとしよう。
「ロッド、ここはダンジョンの中だ。敵も出てくるからあまり話し込まない方が良い。シン、今度酒場で会ったら、奢らせてくれ」
ローブ姿のエディが言う。
「ああ、まあ、気にしなくて良いぞ。じゃ、またな」
俺達はロッド達と別れ、先に進む。
しばらく迷路を進んだところで、アリアが言った。
「待って、シン。ここにホログラムが展開されているわ」
「んん? 本当だ」
アリアが気づいたが、壁の一部が立体映像で偽装されており、その向こうにも通路がある。
「おお、こんな入り口近くに、隠し通路があったとは。私も知りませんでした。さすが勇者……オホン、いえ、アリア様です」
「大神殿の司祭も知らぬ場所か。もちろん、調べるよな、シン?」
ミーユが言うが、元々ここの調査が目的だ。
「当然だ。行こう」
ホログラムの壁を通り抜け、直線に延びた一本道の通路を歩く。
「これは……」
「ああ、気をつけた方が良いな」
プラークとミーユが緊張したように言うが、反応が気になる。
「二人とも、どうかしたのか?」
「お前はダンジョン初心者のようだから教えておいてやるが、こういう迷路ではない真っ直ぐの一本道の先にはボスがいると相場が決まっているのだ」
「そうか。強敵か」
「どうするの、シン」
「ここで引き返しても、調査が進まない。俺達ならなんとかなるだろう」
「そうね。行きましょう」
「そうそう、楽勝楽勝!」
「いや、ステラ、ここのモンスターはかなり手強いのもいるぞ? レーザーが効かなかったり」
「ええ? マジで?」
「マジよ。ネリーとアルマはあまり前に出ないでね」
「は、はい」「分かりました」
「そうだな。前衛は俺とアリアとステラ、それにミーユで行くか」
「ええ」「まっかせなさーい!」「それがいいな」
前衛の方が危険だと思うが、怯む者は一人もいない。良い小隊だ。
「待って、何か聞こえるわ」
アリアが言い、耳を澄ますと、獰猛な獣がこの先にいるのか、低いうなり声が通路の先から聞こえて来た。
「ボスがいるようだな。行くぞ」
俺は剣を鞘から抜き、そのまま前進する。
「「「了解!」」」




