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第三十話 浮遊城

 しっかりと準備を整えた俺達は、アノン帝国の大神殿から転移魔法陣を使い、『浮遊城』へと移動した。


「ここが……『浮遊城』か……」


 俺はその中庭とおぼしきテラスから、目の前に広がる空を見据える。確かに、テラスのすぐ外の中庭には地面すれすれに雲のような薄いもやがかかっており、ここが普通の地上とは違うのは明白だった。

 雲の上を飛ぶ城――。

  

「そんな。この時代の人達が、ワープ技術を使っているなんて……」


 ツインテールの銀髪が風に揺れるのを片手で押さえたアリアが、信じがたいというように言った。うん、やはり君はポニーよりツインテールが似合うな。

 

「別にいーじゃん、使ってたって。ねえねえ、プラークのおじさん、ついでにアタシ達をファジスへ飛ばしてくれないかな?」


 赤毛のポニーテールのステラがアリアの言葉に文句を付けると、プラーク司祭に向かって頼んだ。


「ファジスというのは、あなた方の故郷でしたね。残念ながら、あの転移魔法陣は、行き先は指定できないのです。単なる通り道でしかありません」


「えー?」


 ステラは不平の声をあげたが、ま、そんなことだろうとは思ったよ。

 仕組みは気になるが、魔法陣は暗号めいていて、AIでも解析不可能だった。未知の文明がどうとか言ってたが。


「だが、お前達の話では、この『浮遊城』のどこかに、もっと良い転移魔法陣があるということだったな?」


 正義の騎士ミフィーユが問う。金髪碧眼の女性が白い鎧を着ていると様になるな。


「いや、ミーユ、あるかもしれないということだよ。あまり先走らないでくれ」


 俺はミーユにというより、俺らファジス組が期待しすぎないように釘を刺した。

 

「ご主人様達のために、ネリーも頑張ります!」


 気合いを入れているネリーだが、本当に彼女をここに連れてきて良かったのかどうか。猫耳は確かに癒やされるのだが、ここにはモンスターがひしめいており、あのクリスタルチップの映像でも、足長族の船長がやられていた感じだった。ファジスと同じ文明レベルでレーザー銃を持っていた彼でさえやられたとなると、気を引き締めなければならない。

 

「もちろん、私と聖女アルマも勇者様のためにご協力させていただきますよ」


 プラーク司祭がニコニコ顔で言うが、まあ、協力してもらえるなら、協力してもらおうか。彼らの回復魔法は役に立つはずだ。

 

 俺、アリア、ステラ、ミーユ、ネリー、プラーク、アルマ、総勢七人の小隊(パーティー)だ。引率する隊長の俺としては実戦で初めての大部隊であるし、責任重大だな。


「よし、じゃ、そろそろ進もう。まずは周辺の調査からやろう。戦闘があることを前提として、昨日の打ち合わせ通り、バラバラにはならないでくれよ」


「ええ」「わーってるって」「はい」


 今のところ、指示には全員素直に従ってくれるようだ。  

 これが戦闘になったときにどうかというところだろうな。


「では、シン=クラド准尉以下民間協力者を含む七名、小隊(パーティー)コードネーム『青き星の狼』、現地時間大陸歴三百二十二年八月八日、『浮遊城』の調査を開始する」


 俺は念のために音声記録を取っておくことにする。別にあの足長族の船長の二の舞になると考えたからでは無いが、誰かの足跡というものは、きっと何かの役に立つだろうと漠然と思ったからだ。

 片眼スコープを出した俺はAIのオートマッピング機能が働いていることを確認してから歩き始める。

 中庭のテラスから階段で城の中へ入ると、さきほど俺達がくぐってきた魔法陣の『転移の間』に戻れる。そこには行かずに、別の通路に向かう。

 


「しっかし、でっかい建物だねぇ。その割に誰もいないってどういうこと?」


 ステラが城の内部を見ながら言うが、確かに巨大な建物だった。石ブロックの組み合わせだけで、どうやってこの高い天井を築き上げたのか、興味すら湧いてくるほどだ。


「放棄されたようね。どうして放棄したのか、その理由は分からないけれど」


 アリアがステラの疑問に推測で応じた。

 

「ここはかつて、神々が住まう城だったと言われています。しかし、神々は地上に興味を示し、人間に恋をして次々と天空から地上へと降りていった、そんな逸話がいくつか残っています」


 プラーク司祭が神話を話すが、神々が戦艦ファンデルマークの乗組員だったとすれば、なんだか真実味のある話だ。

 

「へえ、シンみたいなのがたくさんいたんだね」


「ちょっと待て、俺にたとえるのは何か違うだろう」


 納得いかないので、俺はステラに抗議する。

 

「あら、私も今、そう思ったところなのだけれど」


 アリアまで。

 

「ほう、シンは女好きか」


「だから、俺を勝手に変な性格の奴に仕立て上げるのはよせ。周囲の警戒を怠るなよ」


 クスクスと笑っている聖女アルマと、なぜか顔を赤らめて落ち着かない様子のネリーにまで俺を誤解されたようだから、そこは隊長の威厳を示して指示を飛ばす。


「来たぞ」


 騎士ミーユが腰の剣を抜きながら言う。『聖遺物』の映像記録に残っていた二足歩行の大ネズミだ。人間と変わらない身長で、手には鉄の剣まで装備していた。宇宙保護条約に従うなら、直ちにこの場を退去して身を隠すか、友好的な挨拶を試みないといけない義務があるが、彼らがどういう反応をするかはもうわかりきっている。

 

「「「CYUUUU――!」」」

 

 四匹の大ネズミ達は雄叫びでもあげるかのように一声鳴くと、一斉にこちらに向かって走ってきた。ただ、短足の上に図体がメタボリックなせいか、その動きは遅い。

 

「遅いッ!」


 こちらも駆け込んだミーユがすり抜けざまに斬撃を加える。

 

「CHU!」


 ミーユの脇を通り過ぎたネズミは操る糸が切れた操り人形のように動かなくなり、そのまま倒れた。

 これは、行けそうだな。

 

「おりゃあーっ!」


 威勢の良い気合いの声を出したステラもネズミに正面から斬りかかる。

 

「CHU――!」


 頭に一撃をくらったネズミはかなり効いたようで悲鳴を上げてふらふらと後退した。

 

「はっ!」


 そこを逃さず、アリアが剣で追い打ちをかける。倒した。

 

「よし、二匹目!」


「当たってください!」


 ネリーが引き絞った弓から矢を放つ。矢はこちらに走り込もうとしていたネズミに突き刺さった。それだけでは倒れなかったが、プラーク司祭が錫杖でさらにネズミを殴りつけ、三匹目、沈黙。

 

「これで、クリアだ!」


 ミーユが残る最後の一匹を片付け、戦闘はあっという間に終了した。

 

「襲いかかってきた現地生物(・・・・)を撃破、戦闘終了。みんな、怪我はないな?」


 俺は戦闘の最初からずっと構えていたレーザーライフルを降ろして、確認を取った。


「ええ、問題無いわ」

「大丈夫です!」

「ありません」


 小隊(パーティー)の皆が小気味よく返事をする。

 

「よし、このネズミが相手なら、剣だけでも対応できそうだ。先へ進もう」


「「「 了解! 」」」


 俺達は城の通路を再び踏みしめ、未知の領域への侵入を開始した。

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