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第二十九話 ブラックボックス

 記憶媒体(チップ)を差し込んだ携帯型簡易測定器は空中ホログラムを再生し始めた。


 蒼穹の中にいくつも浮かぶ白い雲。それが近づいては後方へあっという間に流れていく。

 高速で移動している何かから撮った映像だ。

 

「メ、メーデー、メーデー! こちらポアンカレ3号。光子推進装置がやられた。操舵不能!」


「ダメだ、大気圏から離脱できない! やっぱり落ちてるぞ! 畜生!」


 そこはガタガタと揺れる船内のコクピットなのか、緊迫した音声が飛び込んでくる。


「仕方ない、着陸に変更だ。キュビット、修理はもういい、上に戻ってこい。全員、席について安全バーを確認しろ」


 唯一、落ち着いている声の男が指示を出した。


「了解、船長、上に戻ります」


「しかし、船長、これで修理ができないとなると、我々はこの惑星に一生いることになりませんか?」


「その前に救助が来るだろう。たとえあのブラックホールが邪魔でも、こちらの正確な位置情報さえ送っておけば、別の穴を探せるかもしれん」


「だといいですが」


「あっ、船長、あれを」


 映像が拡大され、そこに空中に浮かぶ巨大な城が映った。

 

「なんだあれは?」

「城なのか?」

「どうして空中に!」


「奇妙ではあるが、浮遊しているところを見ると、あれに重力装置が備わっているようだ。ちょうどいい、あそこに着陸しよう。修理の設備があるかもしれない」


「冗談でしょう、船長。誰が作ったかも分からない代物ですぜ? 規格が合わなかったらどうするんです?」


「その時は、その時だ。何なら彼らの船を貸してもらえば良い。目標、前方の城。着陸準備にかかれ」


「「「 了解 」」」


 だが、船は思うように動かず、かなりのスピードで城に激突した。

 

 ここでいったん映像が途切れ、次は宇宙服のヘルメットの中から外を撮っている映像だった。カメラの前に息で時々白くなるガラス面が映りこんでいる。

 

「ふう、生き残ったのは私と君の二人だけか」


「すみません、船長。もっとオレが早く修理できていれば」


「いや、あの時間で修理しろというのが土台無理だったんだ。気にするな、キュビット。足の出血は大丈夫か?」


「応急処置はしました。なあに、足の二本や三本、どうってことはないですよ」


「それでも四本ないと歩きにくいだろう。無理はするなよ」


「はい」


「君はそこで休んでいろ。私はこの周囲を調べてくる」


「了解」


 船長が破片を避けて移動する。

 時々映像の下部に船長の黒い節足が映り込むが、彼らは足長族のようだ。

 

「おかしい。電線も見当たらないだと? この施設はまるで……むっ」


 船長の前方に手に剣を持った大ネズミが数匹現れた。


「私はポアンカレ3号の――おいッ!」


 船長が挨拶しかけたが、いきなり大ネズミたちが斬りかかってくる。

 レーザー銃が使用され、大ネズミはすぐに退治された。

 

「なんなんだこれは……知的生物だと思ったが、彼らの神聖な縄張りでも侵したか? まったく、戻ったら宇宙保護条約違反で船長資格剥奪かもしれないな……」


 船長が屈んでネズミの死体を調べた。


「現地生物を正当防衛で射殺、AIで全員死亡を確認。脅威判定を見誤った。機構を持たないただの鉄の塊だったとは……連中の武器は極めて原始的だ。先へ進む」


 そのまま城の内部を進み、大きな両扉の前までやってきた。

 船長が節足あるいは手を伸ばし、それを押し開ける。

 

 他に何も無い広間の中央には全長四メートルほどの円柱型の装置があり、内部は淡く黄色い光で満たされていた。何かの装置だ。

 

「これは転移装置! やったぞ! キュビット、聞こえるか。すぐにこっちに来い。助かったぞ! キュビット? おい、応答しろ、うおっ!?」


 興奮した声で叫んだ船長だったが、何かの衝撃があって大きく揺れると、そこで映像が完全に終わっていた。

 ホログラムが消え、俺はここが神殿の地下倉庫であることを思いだした。


「うっわー、私、足長族は無理」


 ステラが両腕をさすりながら言う。


「ダメよ、ステラ、そういうことを言っては」


「だってアリア、足が虫と同じだよ? カサカサキシキシ言うんだよ?」


「そ、それは分かってるけど……」


「今はそんなことはどうでもいいだろう。それより最後の方に映った装置を船長は知っているみたいだったな」


 俺は気になったことを言う。


「転移装置と言ったわね。どういう装置なのかしら? あれで怪我人が助けられるみたいだったけれど」


 アリアが言うが、治療だけなら、船長はあそこまで喜ばなかったはずだ。 


「転移というからにはワープ装置なんじゃないのか?」


「ええ? あんな小型なのに?」


「いや、あれは一部で、装置全体はもっと大きいはずだ。とにかく、この空中に浮かぶ城を探さないと。プラーク司祭、場所が分かるか?」


「ええ、あれは間違いなく、空中城ラプタです」


「知っているのか!」


 あまり期待せずに聞いたのだが、プラークが知っていた。

 

「はい、帝国の南に浮かぶダンジョンです。かなりの階層があり、幾人も冒険者が挑戦していますが、まだその全貌は掴めていません」


「ま、待って。あそこに入れるの?」


 アリアが戸惑いつつ質問したが、そういえば城は浮いているんだったな。

 どうやってここの現地人があそこに入れるというのか。

 

「フフ、知りたいですか?」


 ニヤリとプラーク司祭が笑った。


「もったいぶらずに言え」


「ええ、失礼しました。実は、この大神殿の転移の間から移動できるのですよ」


「なに? ここから?」


「参りましょう。ご案内しますよ。ああ、でも、装備は調えておいた方が良いですね。あそこは数多くのモンスターが巣くうダンジョンですから」


 そう言うとプラーク司祭はすたすたと一人歩き始めた。

 残された俺達三人がお互い、顔を見合わせ、何を言ったものか少し考える。

 

「どうしました? 鍵を閉めますよ」


「ああ、今すぐ行く!」

「行きましょう」

「そだね!」

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