第二十八話 神殿に保管される物
「何も見えないぞ?」
恐る恐る扉の奥を覗き込んで俺は言う。
「失礼、――偉大なる至高神ルーリーよ、万物の精霊エアを遣わし、闇の中に導きの光を与えたまえ、ライト!」
プラーク司祭が呪文を唱えると、そこに倉庫のような巨大な空間が出現した。天井も随分と高い。
「広いな……」「ひっろいねぇ……」
「行きましょう」
俺とアリア、ステラ、それにプラーク司祭の四人で足を踏み入れる。
ここは大司教の許可が無ければ立ち入ることは許されない場所だ。
大神殿の地下室にいったい何が収められているのか。
床が平らな石床なので、広さと相まってブーツの足音が反響していく。
がらんとしたこの広間には、間隔を開けて台座がいくつも並んでおり、どうやらそこに載せられている物が例の『聖遺物』らしい。
俺はそれを一目見ただけで、現代の器具だと見分けることができた。
「ああ、やはり、宇宙船由来の品だろうな、これは」
「そうね。材質はおそらく超々ジュラルミンと言った金属やグラフェンなどの樹脂でしょう」
アリアが台座の一つに載っていた二十センチくらいの銀色の箱を観察しながら言う。
「でも、これだけじゃ、何が何やら、さっぱり分かんないよ? おじさん、触ってもいい?」
「えっと……ええ、壊さないのであれば、勇者様のご自由に」
ステラが聞いたが、顔を引きつらせながら答えるプラーク。彼らにとっては宗教的な意味を持つ大事な品だろうし、これはあまり触らない方が良さそうだ。
「アタシ、こういう大事そーに収めてある物を見ると、なんか壊したくなるんだよねえ。にひひ」
握り拳を作って腕を回すステラがニヤニヤしつつ言うが、プラークが青ざめて死にそうになってるからやめてやれ。
「プラーク司祭、この『聖遺物』の目録はあるの?」
アリアが聞いた。
「はあ、あるにはあるんですけどねえ。それは『銀のパンドラの箱』と記されていまして、おそらく勇者様方にとっては、あまり意味の無い情報になるかと」
盗み聞きしてある程度の事情を把握したのか、プラーク司祭が歯切れ悪く答えた。
「災いの箱、パンドラか。こちらの宗教用語で適当に名前が付けていたなら、品目どころか、大きささえも分からないな」
俺はため息交じりに言う。
「そうね。用途も一つ一つ、私達が見るしか無さそう」
「ええ? こんなにたくさんある中から、アタシ達に必要なのを探し出せっていうのぉ? エー?」
周りを見回したステラが気の抜けた声を出した。
「いいから、探すわよ。まずは宇宙船の手がかりね」
アリアが言い、俺達は手分けして探すことにした。
「お、そうだ、簡易測定器を使えば一発じゃないか!」
俺はポケットの頼れる現代機器を思い出して大きな声を上げる。
「そうね!」「やるじゃん、シン」
さっそく、戦闘服のポケットから簡易測定器を取り出してみたが……
IDが表示されない。
「んん? なぜだ? 認識しないぞ?」
「ちょっと見せて」
アリアに渡して、彼女が操作してみたが、やはりダメだった。
「どういうことだ、AI」
「この機器には認証IDが設定されていません。銀河同盟軍とは別文明の品物です」
「いやいや、そんなはずは」
うちのじっちゃん達、戦艦ファンデルマークの乗組員が持ち込んだ品だろう。どう見ても。
形状もなんとなく見覚えがあるというか、銀河同盟で使われていそうな感じのものだ。
「待って。たぶん、銀河同盟の技術者が認証コードも変えてしまったのよ。ここは『自由連盟』で別組織だもの」
「徹底しているな……銀河同盟に対して、セキュリティを強化したっていうのか? 銀河同盟に反逆する気満々じゃないか」
「それ……凄くやばくない?」
俺とアリアとステラは思わず顔を見合わせた。
だが、今はそんなことを気にしても仕方ない。
銀河宇宙同盟軍の兵士として与えられた任務を達成すべく、俺達は台座を一つ一つ見て『聖遺物』を確かめることにした。
困ったことに、認証IDが使えないと、俺達には品目も用途も全く分からないと来た。コードレスドライヤーなど、見てすぐに分かるものもあったが、電池切れで役に立ちそうに無い。電池の替えは簡易測定器のものを外せばあるのだが、どう考えても簡易測定器の電力の方が大事だ。
アリアは名残惜しそうにそれを見ていたが、携帯型エアコンでも髪は乾かせるし、大丈夫、君の銀髪はいつだって綺麗だ。
「ねえ、これも電池切れなんだけどー」
向こうでステラがうんざりした声を上げる。
「後回しで良いわ。ソーラーパネルが付属していれば、動かせるかもしれないけど、私達が今探しているのはそんなに電力を必要としないものでしょ」
アリアが言う。
「確かにそうだな。宇宙船の位置情報さえ分かれば良いんだ。レーダー、いや、記録媒体だな」
徹底して情報を秘匿するなら残さないだろうが、誰だって忘れたときのために大事なパスワードはどこかに記録してるものだ。
「ああ、クリスタルチップね。ひょっとしてこれとか?」
ステラが五センチほどの透明な直方体をつまんでみせた。
「それよ!」「それだ!」
「おおー、どーよ、アタシのサーチ能力。見直した?」
「ええ、ふふ」「まあな。よし、チェックしてみよう」
俺は携帯簡易測定器のソケットにステラが持ってきたクリスタルチップを差し込んだ。
次話は10/5の土曜日投稿予定です。




