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隊長、魔法が使えるのにワープ装置が作れません!  作者: まさな
第一章 軍人のなすべきこと
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第六話 ファーストコンタクト

『未踏領域』の惑星に不時着した俺とアリアは、この惑星を調査しつつ、宇宙船の手がかりを探している。しかし、今のところ、宇宙船どころか、人工物を一つも見つけていない……。

 大丈夫、まだ慌てる時間じゃない。まだ不時着一日目、初日だ。

 

 

「あっ、野苺があるわ。クラド、調べて」


 先ほどから目新しい物を見つける度にアリアが俺に測定させようとするので、一言言っておく。


「あのなあ、リュックとバッグを持ったままで動き回るの、結構大変なんだぞ?」


「それ、私もまったく同じ条件なんだけど? 銃で安全を確保する方が神経を使うんだから、何なら、役割を交代してみる?」


「いいだろう。じゃ、測定器をほれ」


 携帯測定器は予備がもう一台リュックの中にあるが、二人で一台を使えば充分だ。

 銃の方は俺もそのまま肩に引っかけているので、交換する必要は無い。

 

「あ、やっぱり食べられる。んー、ちょっと酸っぱいけど、悪くない味ね。砂糖を足してジャムにしてみたいわ」


「お前、本当に勇者だな。俺はいくらセンサーがOKを出しても、人柱にはなれんわ」


「ええ? いくら私でも、大丈夫そうに見えるものしか手をつけるつもりは無いわよ。でも、非常食は二週間分しかないんだから、現地調達できそうなものは、ここで先に食べる方がいいと思う」


「ううん、それもあるのか……」


 あまり先のことを考えていなかったが、この惑星で宇宙船が発見できない場合、いや、発見した場合でも冷凍睡眠(コールドスリープ)装置が無ければ、どのみち食料が必要になる。それなら保存が利く非常食を後に残し、野苺を先に食べた方がいい。

 

「それと、スーツのエネルギーも長丁場に備えて節約しておきましょう。普段はオフで」


「えっ、省エネモードでいいだろ……」


「文句を言わない、クラド准尉。敵から宇宙船を奪う時に、かなり酷使するだろうから、敵に囲まれたときにエネルギー切れになったら困るわよ?」


「ああ、分かったよ。じゃあ、モードオフだ」


 音声認識でコンバットスーツのAIが補助をやめてくれたが、肩と両手に荷物の重みがずっしりとくる。

 

「うっ、何がこんなに重いんだ……?」


「水でしょう。二リットルのペットボトルが四本だから、八キログラムになるわ。その次が六四型光学式ライフルの四キロ、あと重いのは携帯用エアコンと救急キットかしらね」


「軽く十キロを超えてるなぁ……水だけで八キロって。これで、確か一人八日分か」


「正解。だけど、さっき見つけた川の水も飲料に適していると分かったし、濾過フィルターもあるから、キツいなら捨ててもいいわよ?」


「いや、宇宙船に乗り込んだ後で水がねえ! なんてことになっても事だからな」


「そうね。あとで汲み直すにしても、一度栓を開けると、長くは持たないし……」




 アリアがどうしたものかと思案していると、その後ろの木陰に、何かが動くのが見えた。

 俺は低い声で静かに言う。

 

「アリア、振り返らずにそのままで聞いてくれ。後ろに何かいる。十五メートル先」


「ええ?」


「まだ動くな。三秒後に、茂みの後ろに隠れよう」


「分かった」


「三、二、一、今!」


 ここはコンバットスーツを節約している場合ではないので、二人とも戦闘モードで俊敏に動く。

 

「ギッ!?」


「よし、いいぞ、こちらを見失ったみたいだ」


「でも、あの姿、二足歩行型の生物って……しかも、服を着ているわ」


「ああ……参ったな」


 スーツ内蔵の赤外線スコープを使い、茂みの中から観察する。

 

 体長は俺達より低く、一メートル二十センチくらい。しわだらけの顔はとても子供には見えないのだが、人間とは別種族なので、大人かどうかを判断するのは難しい。


 特徴的なのはその肌の色で、暗い緑色を少し濁らせたような、くすんだ色をしている。

 着ている物は服と言うには粗末なもので、腰に布を巻いて紐で縛っただけという感じだが、知的生物に間違いは無いだろう。右手には棍棒を持っている。

 

 ただ……見るからに石器時代を思わせる彼らに、宇宙船を作る技術があるとはとても思えない。しかし、銀河同盟の中には似たような種族でワープ装置を独自開発していたものもいたから、ここは慎重に行くべきだ。

 

「じゃ、交渉してみよう」


 俺は言う。

 

「本気なの? 待って、クラド。彼がブルータス共和連合の一員だったら、私たちはそれまでよ?」


「その可能性は低いな。ブルータス宇宙共和連合の種族リストは、このコンバットスーツのデータベースにも全部入っているが、該当ゼロ、正体不明の新種族だ。独立系でも無い。それに、奴は通信機も持っていないようだ」


 そう言って茂みから出ようとしたら、アリアに引っ張られた。


「ま、待って。そう急がないで」


「何でだ? 向こうの武器は棍棒だぞ? レーザーガンでも光の剣でも無いんだ」


「でも、仲間を呼ばれると危険だわ。一応、ジャミングをかけておきましょう」


「そうだな」


 微弱ではあるが、スーツの妨害電波機能を実行する。

 電波を流すだけなので、光も音も出ないが、空中ホログラムで『妨害電波、実行中』と表示されたので問題無い。

 

「原始文明保護条約も忘れないで」


 小声でアリアが背中越しに言ってくるが、それだと接触も禁じられているんだけどな。

 もう茂みから出てしまったし、今更だ。

 とにかく、彼らがワープ装置付きの宇宙船を持っているかどうか、それからだ。

 

「ギッ?」


「こんにちは。私は銀河宇宙同盟軍、第八八航宙艦隊所属、シン=クラド准尉です」


 友好的に、努めて笑顔で、右手を上げてゆっくりと銀河共通の挨拶から入る。

 

「ギッ! ギギッ! ギッ!」


 その緑色の人は、棍棒を振り上げ、何かを怒鳴った。

 怒ってる?

 

「AI、今の翻訳できたか?」


「いいえ、失敗しました。データベースに該当する言語がありません」


「やっぱり未知の種族か……。仕方ない、ジェスチャーで頑張ってみるから、解析、急げ」


「了解」


「怒らせたようですみません。勝手に領土に入ったのは謝ります。ただ、私たちの宇宙船、ここに、落ちた」


 身振りを交え、簡単な言語を並べて試す。

 

「ギッギッ、ギッギッ、ケッ」


 落ち着き無く左右に歩き、これはなんとなくではあるが、警告の気がする。

 

 『早く立ち去れ、我々に交渉の意思は無い』

 

 そんなことを言ってる感じだ。

 

 まあ、ひょっとしたらこれが彼ら流の挨拶で、大歓迎されていて『ボクの名前は、ギッギッだよ! 宇宙船ならボクらのを使ってよ!』なーんてことも、可能性としてはあるかもね。

 

「私の名前は、シン、です。あなたの名前は?」


 だから、ここは辛抱強く、まずは名前からだな。

 

「ギギギッ、ギッギッ、ギギーッ! ギギーッ!」


「ちょっと、怒らせてるじゃない、なにやってるのよ」


 後ろからアリアが無茶を言う。


「いや、そう言うなら、君が出てきて交渉してくれよ」


 歯を見せたからと言って、怒っているとは限らないじゃないか。


「仕方ないわね……ハァイ、こんにちは! 私はアリア! よろしくね!」


 やけにハイテンションでオーバーアクションのアリアが出てきた。

 

「ギ……」


 ビクッとしたソイツは、まあ、驚くよな。ジャンプして登場するし。

 

「じゃ、友好の印に、握手しましょう」


「おい、アリア……それはやめた方がいい。まだ早すぎる」


「大丈夫よ。ほら、大人しくなったじゃない」


「んん?」


 アレは怯えている感じに見えるのだが。

 何より、奴はまだ武器を捨てていない。

 

 アリアが三歩近づくと、そいつが一歩下がる。

 

「怖がらなくて大丈夫よ。握手だけだから」


 さらにアリアが近づこうとしたとき、今度は逆にそいつが飛びかかってきた。

 

「きゃっ!」


「アリア!」


 慌てて俺は銃を向けたが、彼女が自分で撃った。

 

「ああ……やっちゃった」


「見事なヘッドショットだったな。何も殺さなくても良かったと思うが」


「言わないで。私も今それを思って反省してるんだから」


 横たわる死体を見て、二人で「どうすんの、これ……」と考える。

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