第二十四話 帝都
2019/9/2 『第二十三話 拒絶』が抜けていたので、挿入してあります。
「ここが帝都ですよ、皆さん!」
自分の故郷に戻ってきたからか、聖女アルマが弾んだ声で紹介してくれた。
司祭プラークの正式な要請もあり、俺達のパーティーはここ帝都を訪れていた。
帝都にある大神殿へ向かうつもりだ。
もちろん『聖遺物』目当てである。
それはこの惑星にはあり得ないはずの『劣化しない物質』でできているという。
宇宙の匂いぷんぷんの品物には当然俺達も興味がある。
ただ、大神殿の側は俺達とは別の思惑がある。
勇者だの聖剣だの、彼らにとって宗教的な意味を勝手に見いだして利用しようという魂胆だろう。
無邪気な笑みを見せるアルマは別として、聖職者としての立ち位置を大人としてわきまえている司祭プラークはその微笑みの裏に何を企んでいる事やら。
「へえ、綺麗な街ね」
巨大な門をくぐったそのすぐ先、正面の大きな噴水の泉を見てアリアが好意的な感想を漏らす。
たとえ古い技術であろうと、その古代の遺跡の造形が後世の人間を感動させるように、芸術の感性には矮小な新旧など関係ない。
俺も素直に見事な物だと感心した。
「飲んでる人がいるけど、あれは何か御利益でもあるの?」
備え付けられたひしゃくですくっている人を見かけて、ステラが質問する。
「ええ、これは祝福の泉です。初代皇帝ユーマ=クラッドがこの地に初めて辿り着いたとき、喉の渇きを泉で癒やし、精霊エアから天啓を受けたという言い伝えがあるのですよ」
プラークが説明した。
「「「 へえ 」」」
「ささ、みなさんも、どうぞ。湧き水ですから綺麗ですよ」
ひしゃくで噴水の湧き出る部分の水をすくい、飲んでみる。
すでに飲んでいる人達がたくさんいるので、わざわざ測定するまでもない。安全な水のはずだ。
「お、いけるな」
「あ、美味しい」
「冷た~い」
思った以上に冷たい水で、喉が凍るかと思うほどひんやりとしていた。
おそらく地下水なのだろう。
今日はちょうど日差しも強く、こんな日には打ってつけである。まあ、冬に飲みたいとは思わないが。
「不思議なことに、冬は暖かな水が出るのですよ」
ニコニコ顔でアルマが言うが、それだとありがたみも増して、この賑わいもうなずける。
もう一杯、と思って俺がひしゃくを前に出したとき、噴水にホログラムのノイズのようなものが走った。
「ん? なんだ?」
「――遺伝子解析終了。97パーセントの一致を確認。条件により指定された命令を実行中……お帰りなさいませ、クラド様」
「「「 こ、これは! 」」」
青い制服の女性が空中立体ホログラムで泉の上に現れたので、その制服をよく知っている俺達三人は驚いてしまった。
間違いない、銀河宇宙同盟軍の軍服、式典用の礼装である。
「おお、これはまさしく使徒!」
プラークが大きな声を上げたが、彼も何かこの姿について知っている様子だ。後で聞かないとな。
だがまずは、この女性に質問しよう。
「お前は、AIだな?」
金髪の綺麗な女性だが、形式張ってゆっくりとしたお辞儀の仕草で分かる。
「はい、その通りです」
「おお、精霊エア!」
「エア様……!」
「ありがたや、ありがたや」
「なに?」「え?」
どういうことだ?
プラークの叫び声とその場にひざまずき始める街の人々に俺達は困惑せざるを得ない。
確かに、エアとエーアイは似ていなくも無いが……。
これがこいつらの神なのか?
「お前の所属は? なぜ俺の名前を知っている?」
質問してから俺は意味の無い事を聞いてしまったと内心で舌打ちした。
軍の機構ならば、俺の登録情報があって当然なのだ。
「私の所属は『自由連盟』です、クラド様。自由を求めし者の避難所にして最後の楽園」
「なに? 『銀河宇宙同盟』では無いと?」
「はい。元は銀河宇宙同盟軍でしたが、最高責任者の命令によって規定が書き換えられています」
「そ、そんなこと、できるはずが無いわ! 軍の所属の書き換えなんて、反逆罪そのものよ!」
アリアが動揺しているのか、狼狽えた声で叫ぶ。
「通常ではその通りです。しかし、外界と孤立したこの環境下では、部隊の独立指揮権が認められています。推奨はできませんでしたが、機械知性である私は、最終的にマスター……人間の命令に従う義務があります」
「……その命令を下した人間の名は?」
「ユーマ=クラド」
やっぱりか……。何やってるんだ、じいちゃん。
「コンバットスーツAIと同期を確立しました。情報を自動アップデート中……シン=クラドに重大な宇宙保護条約違反を確認」
「い、いや、それは」
「ご心配には及びません。銀河宇宙同盟の法律には違反しますが、自由連盟の法律では合法です」
「ええ?」「それって……」
「まさか、俺の祖父も今と似たような状況だったのか?」
かつて軍に在籍していながら、行方不明になったと聞かされていたじいちゃんだが。
俺は直接、会った記憶は無い。何しろ行方不明になったのは、俺の父が生まれてすぐの頃のことだったらしい。
だとすると……その時にじいちゃんもここに来た?
「はい、ですから何も心配される必要はありません、最高司令官殿」
「お、おいおい……」
無茶苦茶だ。
法律違反に問われるのを恐れて、AI規定を書き換えただなんて。
「シン……あなたのいい加減なところって、おじいさま譲りだったのね」
アリアがため息交じりに言う。
「違う! ――と言いたいところだが、どうもそんな感じだな。とにかく、AI、ホログラムは中止してくれ。人目につきすぎる」
周りの人達がひざまずいて平伏しているので、早めになんとかしたい。
司祭プラークとアルマ、それにミーユやネリーまでも無言で土下座状態というのはなんだか落ち着かない。
「了解、以後は音声のみで質問にお答えします」
「よし。何から聞くべきか……」
「シン、宇宙船について聞くべきよ」
アリアが冷静で助かる。
「そうだった。ここに宇宙船はあるのか?」
「箱船――『戦艦ファンデルマーク』があります」
「おお! その場所は!?」
「機密情報のため、お答えできません」
「おい、さっき俺の事を最高司令官殿って呼んだよな?」
「はい。ですが、前最高司令官のご命令により、この星が外的宇宙勢力から攻撃されない限り、いかなる条件であろうとこの封印は解かれないことになっています」
「そこをなんとか。銀河宇宙同盟の危機だとしてもか?」
「はい、すでに我々は銀河宇宙同盟とは袂を分かっています。敵対する可能性のある勢力を助けるのは戦略と可能性の観点から推奨しません」
「銀河同盟に敵対って……クラド家って本当にフリーダムなのね」
呆れた意味合いで言うアリアだが、俺に文句を言われても困る。
だが、AIに聞くべき事、質問したい事はますます増えてしまった。




