第二十三話 拒絶
2019/9/2 投稿順序を間違えました。すみません。『第二十四話 帝都』の前にこの回が入ります。
帰りは約束通り、のんびりスケジュールで飛竜に頑張ってもらい、俺達三人は城塞都市ティムガットに戻った。
「うー、なんてものを食べさせるんだよぉ」
『ナノマシン・タイプX』を摂取したステラは熱を出して丸一日寝込んでしまったが、耐えろ、これもこの星の通過儀礼だ。
「ごめんね、ステラ。でも、そんなものが入っていると先に言ったら、あなた食べなかったでしょう?」
「まあね。だって気持ち悪いじゃん、ナノマシンとか。勝手に動くとか虫と一緒じゃん?」
「ち、違うわ。ただの機械よ。決して生物じゃないんだから」
嫌そうな顔でアリアが訂正したが、自己増殖する機械と生物の境界線は結構あいまいだ。
「AI、生物の定義を教えてくれ」
気になったので俺はAI先生に聞いてみることにする。
「現在、銀河宇宙学会で統一された見解は出されていません。生物には『自己増殖』『エネルギー変換』『恒常性』などの特徴があげられますが、ウイルスなどこれに一部当てはまらないものも出てくるので定義は困難です」
「すっきりしないな」
「そうね」
「でも、誰がこんな物を作ったわけ? 共和連合じゃないの?」
ステラが質問したが。
「いや、共和連合とは型も機能も違うぞ。それに、こっちの方がずっと小型で高性能だ」
俺は根拠をあげて否定する。
「じゃあ、アタシ達の知らない共和連合の最新式ってことで……んー、でもそれなら、何でよその星だけで使ってるのかなあ?」
ステラが自分で言ってから、自分でその考えに疑問を持った。
「プロトタイプ……? いや、まさかな」
この惑星まるごと実験場として、試作品を使っている――。
俺はそんなことも考えてみたが、何もそこまで実験の規模を大きくする必要は無いだろう。
万が一の問題があったときに除去がとてつもなく面倒だからだ。
人権軽視を割とよくやる共和連合だが、宇宙保護条約に関しては彼らも署名しており、いくら知られていない惑星の住民であろうと気軽に実験というわけにはいかないはずだ。
それに、この星には共和連合の痕跡自体が全く無い。
GPS衛星はもちろん、彼らが大好きな監視衛星も無いし、地上防衛部隊もいない。
過去に共和連合の人間がやってきて、そこから文明が変わって忘れ去られるほど年月が過ぎ去ったのだ――としても、それだと最新式のナノマシンがここにある理由が説明できなくなってしまう。
「あーやめやめ! 頭が痛くなってくる。もうアタシは気にしないことにする!」
ステラが首を激しく振って宣言した。
「それが良いわね。食べるときは私も意識しないようにしてるもの」
「俺もだ」
ノックがあり、騎士ミーユが部屋に入ってきた。
「ご同郷の具合はどうだ?」
「大丈夫よ。ちょっとした風邪みたい」
アリアがさらりとごまかす。
それを聞いたステラが顔を歪めてアリアをにらんでいたが、アリアはもちろん、ミーユも気にも止めなかったようだ。
「それは良かった。では明日、またダンジョンに潜れそうだな」
笑みをこぼすミーユ。
「ええ? まあ、大司教の返事が返ってくるまではどのみちこの街から動けないけど……あなたもダンジョンが好きね、ミーユ」
アリアがやや呆れた様子で騎士ミーユに言う。
「別に私はダンジョンが好きなわけでは無いぞ。魔物を倒し、宝を手に入れるのが楽しいのだ」
「あらそう。それってちなみに、どう違うのかしら?」
「迷宮は道がわかりにくい上に罠が多くて、私はあまり好かぬ。宝が出てこないなら、地上で戦っていた方がまだマシだ」
「なるほどね」
「なにそれ、迷宮って迷路なわけ? なんか面白そう!」
ステラがダンジョンに興味を覚えたようで身を乗り出して言う。
「なら、明日、我らと一緒に潜れば良い。シンやアリアの仲間となれば、腕前もさぞ立つであろうな」
「へっへー、アタシは強いよ? さすがにアリアには負けるけど」
「いいけど、シミュレーターとは違って、実際に怪我もしたり死んだりするから、気を抜かないでね、ステラ」
「ええ……死ぬって? そんなスリリングな遊びなの? うわー、楽しみ!」
何なのだコイツは。俺とアリアが地球外生物でも見るような目つきで眉をひそめる中、騎士ミーユは思案げに自分のあごを撫でた。
「遊びでは無いのだが……まあ、お手並み拝見か」
翌日、共和連合のややゴツいパワースーツを着込んだステラを加えて、俺達のパーティーは東のダンジョンに潜った。
「ほう、その全身鎧、継ぎ目が無いと見える。よほどの業物だな」
ミーユがステラのパワースーツに興味を示す。
「ふふーん、共和連合のパワースーツだよ!」
「おい……」「ちょっと、ステラ」
「なあに、二人とも?」
「あのね、ステラ、現地人に宇宙兵器をそのまま紹介したりしないで。宇宙保護条約違反よ」
「あっ! いっけねー。そうだった。え、えーと……」
「今更だ。俺が説明する。ミーユ、これは俺達の故郷から持ってきた鎧だが、俺の聖剣のように誰かに狙われても困るから、あまり他の人間には口外しないでくれ」
そう言い含めておく。
「心得た」
「ねーねー、あの騎士、いちいち台詞がカッコイイね! 心得た! かたじけない!って!」
ステラはミーユの口調が気に入ったようだ。
「細かいニュアンスがどこまで正確に翻訳されているか分からないけれど、騎士ならこちらの軍人士官という感じかしらね」
「騎士隊長もあんな感じだったし、そうだろうな。翻訳の精度はかなり高いと思うぞ」
現代の士官はあんな喋りはしないと思うけど、役割はそう違わないはずだ。
「宝箱だ!」
ミーユが見つけて大きな声を出す。
「罠があるかもしれないんだったな。じゃあ、俺が開けよう」
宝箱に近づく。
「ほう、シンは罠外しの心得があるのか?」
「いや、無いけど、俺なら引っかかってもたぶん平気だ」
「それはなんだか、つまらんな……」
「いいからどいたどいた」
それでもちょっと怖いので、俺は携帯測定器を取り出してAIにX線透視させる。
「警告。圧縮空気を用いた小型銃が箱の内部に仕込んであります」
「なに?」
「ただ、方向は前面に向けて固定されている模様」
「なら、壁に向けて開けてみよう」
木箱だったが、開けるとはやり、パスッと音がして壁に金属針が突き刺さった。
「おお、毒針だ。どうして分かった?」
AIの音声が聞こえなかったミーユはその様子を見て驚く。
「いや、なんとなく?」
「や、素晴らしい、勇者の第六感ですな!」
プラーク司祭が喜んだが、今のはちょっとまずかったな。人と違うことをすると、この中年親父が勇者呼ばわりで感激してしまう。俺に恍惚とした興味津々の目を向けてくるし。やめろ!
「ねえねえ、中身は何だったの?」
「銀貨だな。ほれ」
聞いてきたステラに渡してやる。
「おほっ! 銀貨!? これでアタシも金持ちかな!? 金持ちかな!?」
「さてな」
「ふふ、どうかしらね」
魔石を売って結構な稼ぎになっている俺達にとっては実はそんなに大した価値も無いのだが、ステラのワクワク感を大事にしてやり、あいまいに答えておく。
――それよりも俺には気になることが二つあった。
「この罠の機構、割と現代っぽいな。AI、どうだ?」
「鋼の加工技術が用いられています。薄く円形にしてピストンを形成しているなど、蒸気機関レベルの科学技術と推察されます」
「蒸気機関……前宇宙時代には違いないが、中世以降、産業革命あたりか」
この世界に蒸気機関車などは見かけないので、やや先行しすぎている技術だ。
「ミーユ、この宝箱って、毎回、潜る度に出てくるって本当なの?」
アリアがもう一つの疑問を聞いた。
「本当だ。現に、この前はここに何も無かったのに、今回は出てきただろう」
「誰かが仕込んでいるのでは?」
「そうだとすればそいつはよほどの大赤字だぞ?」
「それもそうね」
毎回湧いて出てくるという謎の宝箱。
冒険者にとってはありがたい物だろうが、俺やアリアにとっては少し気味の悪い存在だ。
いくら科学技術が発展しようとも、無から有は生み出せない。
それが現代、いや普遍の物理法則である。
携帯測定器のALSライトで指紋も確かめてみたが、何も出てこなかった。
「おかしいな。指紋まで消す必要なんてなさそうなのに……人間では無く、自動生成なのか?」
「シン、もう空箱はどうだっていいだろう。さっさと行くぞ」
「ああ、分かったよ」
後で調べようと思って箱をリュックに放り込んで、先に進む。
そうして一週間ほどダンジョン潜りで時間を潰した俺達は、『聖遺物』管理者からの返事を受け取った。
「残念ながら、聖遺物は部外者には閲覧させられないそうです。ただ、大司教様が聖剣とあなた方に興味を持っておられる様子。頼み込めば、まだなんとかなるかもしれません」
プラーク司祭が言うが、一度駄目だと書面で返事をしているのに、それをひっくり返せるものだろうか?




