第二十二話 合流
(視点がシンに戻ります)
「だから、私だけ、この船でこの星にやってきたんだよ、うう」
「そんな、ハートレー教官が……」
彼女が共和連合の船でここにやってきた理由は分かったが、ハートレー教官が自分から敵の囮に出たことは俺にとって衝撃的だった。あの鬼教官、他人に命令してでも自分だけが生き残りそうな感じだったのに……。
「ごめん」
「お前のせいじゃない」
ステラが謝ってくるので、俺は即座に否定する。
「でも、もっとどうにかできたんじゃないかって……」
「ステラ、それは『生還者の罪』という心理現象だ。俺が聞く限り、君は最善を尽くした」
「ホントに?」
「ああ、もちろん。AI、ステラ=ラジアン准尉の報告を行動評価しろ」
「了解。危険な作戦に自ら志願し、不測の事態にも果敢によく対応しています。行動評価S」
「ほらな。最高ランクの評価じゃないか」
「Sランク……私、初めて最高評価をもらっちゃった」
「良かったな」
「うん!」
「シン! 援護するわ!」
アリアがやってきたが、まだステラを敵だと思っているようだ。
「待て、アリア。敵の顔をよく見ろよ」
「顔って……えっ! ステラ!?」
「わっ、アリア! 無事だったんだね! 良かったぁ~」
二人が駆け寄り、お互いの手を取り合う。
感激の再会だな。
ステラはアリアにも事情を話して聞かせた。
「――そう、そんなことが……ハートレー教官の事は残念だったけど、助けに来てくれて嬉しいわ。本当にありがとう、ステラ」
「水くさいなぁ。大の親友でしょ、アタシ達」
「ふふっ、そうね」
「でっ? 男嫌いのアリア君、どーしてシンと下の名前で気安く呼び合ってるのか、その辺を聞こうじゃないの。ねえねえ?」
ステラがニヤニヤしながら、俺とアリアを見比べて言う。
アリアが慌てた。
「こっ、これは違うのよ! ここでは貴族と間違えられるから、お互い、名前で呼んでるだけだから……」
「えー、何それ、つまんない。二人だけの逃避行で愛が芽生えたのかと思ったのに」
「別に、そんなのは……無いわよ。ね?」
「お、おう」
俺をチラチラと見ながら歯切れ悪く言うアリア。そんな態度だと、なんだか俺が勘違いしそうだ。
「ふーん? それで、やっぱり駆逐艦の他の乗組員のことは分からないんだ?」
「そうね。私達が脱出艇で出た後のことは何も分からないわ」
「だが、あの新型魚雷でバリアが消されて重力場装置までイカれてたからな。駆逐艦ブルーハウンドはそう長くは持たなかったはずだ。俺やアリアとは違って、敵の包囲網から逃げられたとは思えない」
俺は状況を補足説明しておく。
「じゃあ、全滅?」
「そうなるだろうな」
「……ま、まあ、二人だけでも生き残ってくれてて良かったよ。私が捜索に来た意味、なくなちゃうもん」
「そうだな」「そうね」
良い状況とは言えないが、ステラが来てくれただけでもありがたい。
「じゃ、二人とも、積もる話もあるだろうけど、先に装備を確認しておこう」
俺は気を取り直して言う。
「あー、それが、着地したときに火が出ちゃってさあ。消火器で消したけど、あの探査船に使える物はなんにも残ってないよ。持ち出せたのはこのパワースーツとそこのレーザーライフルだけ」
「むむ……」「そう。残念だけど、仕方ないわね」
「あっ! やっば! 共和連合に位置をつかませないように、通信装置も壊しておかないと!」
ステラが思い出したように叫ぶ。
「急ごう」「ええ」
俺達は探査船『ソネット』のところに行き、通信装置を確認したが、それはすでに不時着したときの出火で壊れていたようだ。
「これも動いていれば、何か使い道もあったんだろうがなぁ」
俺は現代機器を前に、未練がましく言う。
「でも、シン、共和連合に筒抜けだろうから、やっぱりダメよ」
「そうだな」
俺達は『ソネット』のAIを呼び出し、フライトレコーダーの消去と自沈を命令した。ステラが腕に付けていた生体認証リングで操作可能だったが、銀河同盟も凄い物を開発している。敵の認証を破る暗号鍵とは。
「ステラ、それはとても大事な物だから、しっかり管理しておいたほうがいいわ。共和連合に見つかったら、他の偽認証も使えなくなると思うし」
「ええ? 敵の鍵なんて要らないんだけどなあ」
「いいから。じゃあ、私が持っておきましょう」
「あ、お願い、アリア。にひひ」
調子よく笑うステラは、真面目なアリアとは対照的な性格のようだ。
「――自爆まであと十五分。退避してください」
「じゃ、行きましょう」
「うん!」「ああ」
退避する前に俺は探査船の後部へ続く通路をちょっと覗いてみた。
が、大気圏突入時の延焼か、それともブラックホールや虚数空間の影響か、金属がおかしな風にクニャクニャになっていて、見るからに凄いことになっていた。
「ステラ、お前、よく生き残ったな」
「でしょ? 五回くらい、死んだ! って思ったもん」
「急いで、二人とも。船が損傷しているから、自爆したときに破片が想定以上に飛ぶかもしれないわよ」
「ハイハイ。あと十五分もあるし、戦闘服なら余裕だっての。アリアって、口やかましいでしょ?」
ステラが俺に向かって言う。
「まあな。そこまででも無いけど」
「ええ? すっごく細かくてうるさいけど。士官学校でルームメイトになったときは、あー、アタシはコイツ無理!って思ったもん」
それで仲良くなっていたのか。性格が随分違うのにつるんでいるから不思議だと思っていた。俺のルームメイトの方は、羨ましいことにこれから地上軍勤務だと言っていたな。宇宙はしばらく遠慮したいところだ。
「5、4、3、2、1、今! 自沈完了」
アリアがきっちりカウントダウンまでやって時間を確認し、俺達は探査船『ソネット』の爆発を目視で確認した。
共和連合の追跡隊がやってきたとしても、これで何の情報もつかめないはずだ。
「あーっ!」
ステラが唐突に何かを思い出したようで叫び始めたが。
「ど、どうしたの?」「なんだ?」
もう爆発した後で大事な物を置いてきたと言われても困るぞ?
「解毒剤! 早く、渡してよ」
「ああ、なんだそれか」
「何の話?」
「いや、コイツに襲われたときに、格闘で勝ち目が無いから俺が一芝居打っただけだ。だからな、ステラ、解毒剤も飲まなくて大丈夫だぞ。毒自体が嘘っぱちだ。脳も平気」
「ホント?」
「ああ、もちろん。味方を殺すわけ無いだろう」
「良かったぁ。すっごい怖かったんだからね!」
「悪かった」
「ふう、ほっとしたらなんだかお腹が空いたなあ。そういえば、船に乗り込んで丸一日、なにも食べてなかったよ。ねえ、なんか食べ物、持ってない?」
ステラが聞いてくるので、俺とアリアは互いに目配せしてうなずく。
どのみち宇宙非常食だけじゃ、二週間も持たないからな。
「ステラ、このチーズをやろう」
「ビスケットもあるわよ?」
「わ、ありがとー!」
「「 どういたしまして。フフフ 」」
俺とアリアは極上の天使の微笑みを浮かべて、劇薬『ナノマシン・タイプX』がたっぷり含まれた現地の食べ物を渡してやった。
謎の未開惑星へようこそ! ステラ!




