第二十一話 賽は投げられた
(視点がステラ=ラジアン准尉のまま続きます)
赤毛のカッコイイ天才美少女ステラと、妖怪タコ坊主二人の捜索隊はいよいよ親友アリアの元へ向かおうとしていた。
「自己診断機能、確認。燃料残量、確認。すべて問題なし。いつでも行けるぞ、ステラ」
探査船の副操縦席に座ったタコ――じゃなかった、ハートレー教官が私に向かって言う。
「了解、これより惑星ロドスの重力圏内にスイングバイを開始。イオン推力機関出力50パーセント」
ここまでは自動操縦で行く。その方が確実だ。ただ、どういう理屈かは知らないが、ワープした後は手動での操縦が必要になるという。
「重力場を検知した。速度上昇中。Gに備えよ」
「了解、重力場装置、スーツ加圧、共に問題なし」
「さあ、光の渦に突っ込むぞ!」
教官が言うが、ワープの瞬間はそんな風に見えるという。
私はシミュレーター以外で見た事は無い。
「ハイパードライブ装置、正常作動確認。――ワープ!」
正面モニタが白く輝き、星々が一斉にこちらに突っ込んでくる。
ぶつかる!
と思ったが、何の衝撃も無くワープは成功したようで、暗い空間に出た。
「あれ? 成功……した?」
「馬鹿もん! 訓練通りに位置をすぐに確認しろ!」
さっそくハートレー教官の怒鳴り声が飛んでくる。
「りょ、了解! 位置は……DG505801HGE、惑星グレゴリオ上空」
「くそっ、共和連合の勢力圏、しかもこれは防衛基地の格納庫か!」
「ええっ? 基地? それって敵のど真ん中じゃないですか!」
「作戦失敗だ。通信、送れ。さあて、この船から脱出するぞ、ステラ」
「ええ? 逃げるならこのまま船で逃げましょうよ、教官」
「駄目だ。この探査船はもうワープができん。加速しようにも壁に当たってどうにもならんからな。なら、放棄するしか無い。敵がオレ達の侵入にもう感づいてやってくるぞ。急げ!」
「うえ、なんでこうなるのぉ?!」
「お前の日頃の行いが悪いからだ!」
「教官の行いはどうなんですか!」
「もちろん、オレも悪いに決まってる!」
宇宙服を着て外に出ると、レーザーが飛んできた。
「ひい、撃たれてます! 教官!」
「見れば分かる! 物陰に隠れて、あのハッチまで行くぞ」
「無理です! 絶対蜂の巣ですよ」
「じゃあここで敵が集まってくるのを待って確実な蜂の巣になるか? オレは行くぞ」
「あ、ちょっとぉ、置いていかないでー!」
「噴射を上手く使って敵の追尾をそらせ!」
「りょ、了解。おお、外れた」
敵兵のレーザーを撃ってくるタイミングも掴めたかも。
ここだと思ったときに、宇宙服の噴射をかける。
「なかなかやるな! ステラ! オレの教え方が良かったからだ! そうだろう!」
「絶対そんなことは無いですけど、生徒が優秀なんですよ!」
「言うじゃないか、ガハハ」
こんな状況で良く笑っていられるものだ。
こっちは生きた心地もしないんだけど。
「よし! 運が良いぞ、ステラ。共和連合の探査船だ。コイツを使おう」
「乗っ取りですね。アタシ、こーゆーの大好き!」
「オレもだ!」
さっそく乗り込んでみたが、操縦桿もスイッチも全部違う。
「うえ、これは……」
「問題無い。こんなこともあろうかと、偽装生体パスも持ってきたからな。コイツを腕に付けてろ」
腕紐を渡されたので、それを巻く。
「あっ、う、動いた」
「当たり前だ。参謀本部の中佐殿に用意してもらった高級品だからな。すぐに発進するぞ。お前はこれの操縦はわからんだろうから、オレの操縦をよく見とけ」
「了解!」
隔壁が開くと同時に、狭い隙間をすり抜けるようにして共和連合の探査船は宇宙に飛び出した。
「よし、このまま、もう一度ワープに入るぞ」
「あー……」
「なんだ、一度の失敗で、もうくじけたか?」
「いいえ! 行きます!」
「その息だ。どのみちここからじゃ遠すぎて銀河同盟圏内には戻れん。スイングバイ、開始。さあ、行くぞ!」
光の渦に再び突っ込む。
今度は直後から激しい衝撃があった。
「きゃあっ!?」
「ぬおっ! 位置は……どこだ!?」
「YU05802HGE! 該当領域は……エラー! でもこの揺れ、いったい何なんですか?」
「分かったぞ。右上を見ろ、ブラックホールだ」
「うえ」
初めて生で見たが、闇の怪物は真円の大口を開けてそのすべてを飲み込もうとしている。
――いや?
「教官、あの真ん中に何か見えますよ。浮いてます」
「そんなはずは無い。シュバルツシルト半径の内側は光さえも出られない闇の檻だ。おお? 本当に何かあるな」
「でしょ? なんでしょう? あれ」
計器を確認したが、やはりブラックホールの中に存在する。
「オレの勘が正しければ、アレがオレ達の目的地だ。ブラックホールの内側に存在しないはずの惑星がある。つまり次元が重なって見えているんだろう。ただのエルゴ領域かもしれんが、まあ、それは行ってみれば分かる」
「あ、あそこに行くんですか?」
「他に行きようが無いぞ。もうこの船もあの重力に捕まっている。一か八か、次元を飛び越えないと、助からんな」
「エー?」
「ステラ! お前は覚悟を決めてきたんじゃなかったのか」
「やるという覚悟は決めてきましたけど死にたくは無いです」
「そういうワガママはオレも嫌いじゃ無い。行くぞ!」
「速度を上げすぎないでくださいよ、教官」
「いや、早めに突っ込まないと、船体が持たん」
「くー、こんなことなら、牛丼を死ぬほど食ってくるんだったぁ!」
「オレは炊き込みご飯だな!」
船体が激しく揺れ、気のせいか操縦桿やモニタも歪んで見える。
不意にモニタが赤く点滅し、警報が鳴った。反応しているのはレーダーだ。
「くそっ、敵だ。ここまで追いかけてくるとは!」
「ええっ、ワープで追いかけてきたんですか?」
「そのようだ。しかし、どうやってこちらの行き先を――おお、いかんな、オレとしたことが、この探査船が敵の物だと忘れていたぞ! 同期しているから位置コードを入力した時点で、ワープ先が奴らにバレてしまっていたか!」
教官がパネルを操作してリンクを切ったが、今更だ。
「ええ? ど、どうしましょう!? このままじゃ狙い撃ちです!」
「……仕方ない、二手に分かれるぞ。オレは脱出艇を使って奴らを引きつける。お前はその間にあの惑星へ向かえ」
「ええ? 脱出艇では……」
共和連合の仕様はよく知らないが、おそらく武装などついていないはずだ。
「お前よりは扱いに慣れてる。それに――軍規二百六十三条のc! 復唱!」
「うえっ、ええと、絶望的な状況下にあって二人のうちどちらかしか助からない場合は、健康で無傷な者の生存を優先させる! ……かな?」
「正解だ。良く覚えたな、ステラ。物覚えが悪かったお前が、完璧だ」
「でも――」
笑った教官が、真顔になる。
「お前はオレよりも若い。だから、長く生きられる。今回はオレが捨て駒だ」
「きょ、教官……」
「オレの最後の命令だ。必ず生きてハーランドを連れ帰ってやれ」
そう言うと教官は座席の固定を外して後ろへと向かった。
船がガクンと大きく揺れた。船体のきしむ音が不気味に響く。どうやら敵のレーザーがかすったようだ。
おっと、教官を見送ってる場合じゃ無い、操縦しないと!
「こなくそー!」
私は操縦桿を握ると、全速力で前を目指した。
希望の惑星へと。




