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第十九話 最悪の事態

 AIの天気予報通り、土砂降りの雨の中、二頭のワイバーンがヒイヒイ言いながら目的地へと急ぐ。

 

「対象の宇宙船を確認。一時の方向」


 AIが告げたので、片眼スコープを出して探す。


「あれだな」「あれね」


 森の木々を派手になぎ倒して着地していたのですぐに分かった。

 しかし、水辺では無く、陸地に強行着陸か……。

 

「不時着か。しかもルートを選べなかったようだな」


「そうね。大気圏突入時の船体のダメージが酷かったのかしら? それにしたって、大気圏突入の時点である程度は選べると思うけど」


 アリアの疑問ももっともだが、現にあの宇宙船はここに着陸したのだ。

 理由については後で操縦士に聞けば良い。


「こちら銀河宇宙同盟軍、第八八航宙艦隊所属、駆逐艦ブルーハウンド分隊。不時着した宇宙船、応答願う」


 まずは無線で連絡を取る。

 

「応答無しか。ノイズが酷いな」


「この雨ですもの。敵(I)(F)(F)置は?」


「そっちもダメだ。反応が無いぞ……?」


「でも、IFFは一番重要な信号でしょう? こういうことってあり得るの?」


「さあな。AI、どうだ?」


「IFFの故障と思われます。船体損傷はかなり激しいように見受けられます」


「そんな感じだな。やれやれ、これじゃ、合流できても、宇宙には戻れそうに無いか」


「まだ分からないわよ。捜索隊なら母船と連絡を取ってるかも」


「なるほど、それに賭けるか」


「ええ。じゃ、あそこまで行きましょうか」


「いや、待てアリア。IFFが故障していなかった場合も考えておいた方がいい」


 俺は慎重に考えて言う。


「そんな……あれが共和連合の船だというの?」


「その可能性もあるという話だ」


「随分と慎重なのね。駆逐艦ブルーハウンドを襲った相手の艦隊は大艦隊だったのよ? 捜索隊を出すにしても、もっと数が多いと思うけど」


「そりゃ多いだろうが、同じ場所に二機で移動してるとは限らないからな」


「……そうね。分かったわ、隊長。少し離れた場所から様子を見ましょう」


「ああ」


 少し離れた場所に飛竜を着地させ、そこから徒歩で近づく。

 

 宇宙船に動きは無い。

 

「AI、生体反応はどうだ?」


「周囲に生物の熱源はありません」


「操縦士はもう移動したみたいね」


 船の出入り口ハッチが開いたままになっている。


「そのようだな。まあいい、行ってみよう」


 さらに近づくと、AIが警告音を発した。

 

「警告、警告! ブルータス宇宙共和連合軍、小型探査船ソネットと同定。注意してください」


「くそっ!」


「なんてこと……!」


 敵方の船となれば合流している場合では無い。


「すぐにここから離れよう」


「でも、宇宙船を調べれば何か情報が得られるかも」


「大した情報は得られないさ。奴らの母船の位置が分かったところで、この探査船が壊れているならどうにもならないだろう」


「……そうね。撤退しましょう」


 だが、こうなると、敵操縦士の行方が掴めていないのは心配だ。

 向こうがすでにこちらの接近を察知していて、さらに武装で上回っている場合、伏兵の奇襲を狙っている可能性もあった。

 

「AI、エネルギー反応があったらすぐに警告しろよ」


「了解、レーザーライフルを特に警戒します」


 俺とアリアは身を低くし、森の木々に隠れるようにしながらじりじりと下がる。


「注意、四時の方向に熱源反応、追尾失敗」


「くそっ、回り込まれていただと!?」


「シン! 光学迷彩を使って! 二手に分かれましょう!」


「そうだな」


 この状況で一番まずいのは、二人とも一度に敵に殺されてしまうことだ。


 俺は戦闘服の左腕のパネルを操作し、光学迷彩をかけた。


 周囲の森に合わせて戦闘服の色が緑に変化し、細かい木の部分も溶け込むように透過表示されて擬似的な透明になる。

 そのままアリアとは反対の方向へ逃げる。

 

 しかし唐突に、俺が触った木の枝にレーザー光線が当たり、焼き切れてそのまま地面にポトリと落ちる。


 くそっ、こっちに来たか。

 しかも、懸念したとおり敵はレーザー銃を持っている。


 そこはツイてないが……。


 しかし、これでアリアはなんとか逃げ切れるだろう。

 なんとかして時間を稼ごう。彼女のためにも。

 

「フフ、逃がさないよ! 二人だけなら、アタシにだってやれる!」


 背後から少女の声がしたが、女に追いかけられてこれほど嬉しくないのは初めてだ。

 

「降参だ、殺すのは勘弁してくれ。捕虜になる」


「ダメダメ! 通信されたらこっちがお終いだっての」


 そう言いつつその子が突っ込んできたが、こいつも戦闘服を着用しているようだ。

 光学迷彩もかけているので、よく見えないが、木の枝の動きで、位置は予測できる。

 

 しかし――

 ああ……アリアの言うとおりだった。

 こんなところで白兵戦の能力が問われようとは。

 

 相手は明らかに俺よりも格闘能力に優れているようで、木の幹を次々と折ってくる。おそらく蹴りだ。

 こちらは敵の動きを予想しながら避けるので精一杯で、反撃の糸口すら掴めない。

 共和連合のパワースーツとは初めてやり合ったが、凶悪な威力だな。

 単純な筋力の性能なら、向こうが上だろう。

 

「ほらほら、逃げるだけじゃ、終わりだよ!」


 全くその通り。

 何か、使える物が必要だ。

 スタングレネード……は意味が無い。

 俺が戦闘服のフルモードで両眼スコープを使っているように、相手もスコープで目を防護しているはずだ。閃光を放っても、すぐに機械で調整して目くらましにならない。

 

 何か、何かあるはず。

 

「ぐっ!」


「ヒットぉ! コイツ、弱っ! 楽勝~」


 悔しいが、格闘では勝ち目が無さそうだ。

 だが――やれる。

 

 こうして状況を相手にいちいち喋る馬鹿(・・)なら勝てる。もう一人の敵(アリア)に自分の位置を特定されるのを恐れたようだが、こいつはあのままレーザーライフルで俺を仕留めるべきだったのだ。

 

「これで俺の勝ちだ!」


 俺はそう宣言し、懐から切り札の『塊』を出すと地面に思い切り投げつけた。


「なっ! なに!?」


 そいつは案の定、その『塊』に気を取られて、攻撃の手を緩めた。

 

「フフフ、解析してみろよ」


「し、してるけど、正体不明、タンパク質と脂質って出る!」


 おいおい、共和連合のパワースーツは解析能力低すぎだろ。

 俺はしめしめと思いつつ、あくどくニヤリと笑って言う。


「それは銀河宇宙同盟軍の最新鋭生物兵器、物体Xだ」


「ぶ、物体X!? そ、それは……」


「見るだけで脳に入り込み、増殖する」


「ええええっ!? くっ、AI、戦闘服を密閉して!」


「遅いな。もう手遅れだ。一時間以内に解毒剤を打たないと、お前はもう人間じゃなくなるぜ?」


「そ、そんなあ……わ、分かった! 降参! 降参するから、解毒剤を頂戴!」


 やっぱりコイツ馬鹿だ。普通、AIに体内をスキャンさせてからだろうに。

 

「じゃ、光学迷彩を解け」


 もう必要ないので、俺も光学迷彩を解く。コイツが一人しかいないのは今までの戦闘や会話から丸わかりだ。


「うん……」


「あれ?」


「んん?」


「「 どっかで見たな……こいつ 」」


 お互い、相手の顔を見て二人で首をひねる。

 赤毛で快活そうな美少女。瞳も燃えるような赤。

 

 どこで見た?

 士官学校の気がする。

 

「「 あっ! 思い出した!」」


 アリアと良くつるんでいた奴だ。

 名前は確か、ステラだったはず。

 

「お前、ステラか」


「 Fランク君!」


「おい。俺の名前はシンだ。それくらい、同期なら覚えろよ」


「あはは、ごめんごめん。そうそう、シンだったね。あり? じゃあ、味方?」


「どう見てもそうだろうが。それとも、お前は共和連合に寝返ったのか?」


「いやいや! 違うから」


「じゃあ、なぜ共和連合の装備なんだ」


「あー、これねえ、話すと長いのよ」

 

「じゃ話せ。今」


「エー? 面倒なんだけど」


「解毒剤、欲しくないのか」


「ほ、欲しいよ! 味方なんだから早く渡してよ」


「きちんと事情を話したらな」


 もっとも、物体Xなんてのはただのでっちあげだ。

 地面に落ちているそれは、ただのチーズ、こちらの現地保存食だ。

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