第十八話 災いの彗星来たりて……?
神殿の外に出ると、街の人々も空を指さし異変に気づいているようだった。
「おお、神よ……!」
「なんて恐ろしい」
「ママ~!」「だ、大丈夫よ、きっと大丈夫だから」
俺もその方向を見上げたが――
「大きいな」
最初に思ったのはそれだった。
まぶしいほどに輝く星が白く長い尾を引きながら、真っ直ぐ落下している。
彗星だ。
「シン! 見て! 今あの彗星、方向を少し変えたように見えたわ」
「なにっ!?」
アリアが叫んだが、それが意味するところは俺もすぐに分かった。
あれがタダの隕石などではなく、自分で方向を変えたとなれば、宇宙船の可能性が出てくる。いや、きっとそうだ。
「AI、軌道を観測しろ!」
「了解。対象の落下軌道を追尾します。軌道変化により、人工物、おそらく宇宙船と判断」
「おお!」「やったわ!」
俺とアリアは歓喜の声を上げ、お互いに両手の手のひらを打ち合わせ、そして抱き合った。
「あっ、と、とにかく落下地点をAIに見つけさせましょう」
俺が胸に当たる柔らかな感触に気づいた時、残念なことにアリアも冷静になってしまったようですぐに体を離した。
「そうだな。うおっ、なんか分解したぞ? 大丈夫なのか、あれは」
「どうかしら……無事であって欲しいけど」
AIに観測を続けさせ、落下地点の割り出しに成功した。
「ここから東に622キロ、北に41キロの地点です」
「うーん、徒歩だと二十日はかかりそうだな……」
「ちょっと遠いわね……」
たどり着けないことは無いが、その時には宇宙船の乗組員も移動しているかもしれない。
「とにかく、位置信号は送っておこう。アリア、この際だ、救難信号発信器を使わないか?」
「だ、ダメよ。それだと宇宙にまで信号が届くから、共和連合に察知されるかもしれないじゃない」
「だが、この戦闘服の電波だと、今のままじゃ遠すぎて届かないぞ?」
「それは分かってるけど、とにかく合流を目指しましょう。きっと私達を捜索に出た救出部隊よ」
「……だといいが」
アリアの推測も根拠はある。
演習で目的地がはっきりしていた駆逐艦ブルーハウンドが途中で行方不明になれば、その捜索隊が出張ってくるのは確実だ。
ただ、あの新型魚雷で虚数空間にワープさせられたため、その捜索隊が俺達の行き先まで把握できているとは考えにくい。
「シンさん、アリアさん、あなた方はあれが何かを知っているのですね?」
プラークが聞いてくるが、ここはごまかしている場合でも無いだろうな。
「そうだ。おそらくあれは俺達の仲間が乗っていると思う」
「なっ!? 星に人が乗れるのですか?」
「まあ、星じゃないんだけど、そうとしか見えないかな」
「あなた方はいったい……もしや××なのですか?」
「んん? 何を言っているのか分からない」
翻訳に失敗したようだ。『ナノマシン・タイプX』の方でも訳せなかったみたいだな。
「××です。神の使わし徒。神々の使いです」
「いや、そんなのじゃないよ」
「司祭プラーク、私達はあれと合流するために東に向かうわ」
「そうですか。やはり、お急ぎですよね?」
「「 それはもちろん 」」
「なら、飛竜を使ってみてはどうでしょう?」
「あ、なるほど、良い考えね!」
「無理無理無理無理」
「ちょっと、シン。あれならずっと早くたどり着けるのよ?」
「君だけで行ってくれ。俺はあれには死んでも乗りたくない」
「勇者シン、男を見せなさいよ」
「君が女を見せてくれ、勇者アリア」
「もう。とにかく、ほら、行くわよ!」
「や、やめろ!」
アリアが戦闘服の力で引っ張ってくるので、俺は引きずられる羽目になった。
「お二人ともご武運を。我々はここでお待ちします」
ミーユもここで待つようで、その場から動かない。
ま、ついてこられても俺の高所恐怖症がどうにかなるわけじゃないから、それはいいんだが。
「ほら! 観念しなさい」
「なんで二人で行かなきゃ行けないんだ。君が迎えに行ってくれば良いだろう」
「そうだけど、そこはねえ……あ、じゃあ、ついてきてくれたら、ご褒美をあげるわ、シン」
「どんなご褒美だ? ちょっとやそっとじゃあ、動かないぞ」
「私のキス」
「な、なにィッ――!?」
「そ、そんなに驚かないでよ……唇じゃ無くてほっぺただからね」
「なんだ、ほっぺたかよ……よし、乗った!」
「うわ……そう、男の子ってそういう風に扱えば良いんだ……」
十分後、俺達は騎士隊長に頼み込んで飛竜を借りることに成功した。
聖女様の指示だと言ってなんとか借りられたが、そこはプラークとアルマが口裏を合わせてくれるはずだ。
「いぇーい! 気持ちいいわ、これ!」
やたらとテンションが上がっているアリアと比べ、俺は落ちないかビクビクだ。
「た、頼むから、なるべく揺らさないでくれよな」
ワイバーンに頼み込む。
「ハイハイ、臆病だなあ。ちょっと揺らしてみたりして。にひっ」
「ひい、やめろぉおおお!」
途中でアリアが注意してくれ、ようやくまともに飛んだが、おのれワイバーンめ。後で隊長に言って餌抜きにしてやる。
「アリア~、もう疲れた」
空が赤らみ始めた頃、ワイバーンの速度ががくんと落ちてきた。
「ええ? もう少し頑張ってくれない?」
「無理~。ボクらそんなに長くは飛べないよー?」
「仕方ないな、地上に降りて野宿しよう」
俺は隊長として決断する。
「そうね。じゃあ、二人とも降りて良いわよ」
「「 分かったー 」」
二頭のワイバーンが、自分で良さそうな広場を見つけ、そこに降り立つ。
森の中なので、周囲を気にする必要は無さそうだ。
「AI、周辺に何か近づいてきたら、すぐに報せろ」
「了解、警戒を続けます」
「何キロ移動したか表示して」
およそ五百キロ。今日は八時間近く飛んだから、時速六十キロくらいか。ちょっとトロいな。最初は速かったんだけども。
「もう少しだったわね」
「まあ、焦らなくても、一日じゃ向こうもそんなに移動はしないさ」
「すぐ見つけられれば良いけど……」
「それよりも、共和連合の連中だったら、逃げ切れるかどうかが心配だぞ」
遠出するならなるべく軽い方がいいと騎士隊長に言われたので俺達はレーザーライフルも持ってきていないのだ。そういう装備の戦力差から考えても、戦闘は避けたいところだ。
「ええ? 共和連合が何のためにこの星に……私達を追跡して?」
「可能性としてはあるだろう」
「そうだけど……」
「ねー、シン、アリア~」
「なんだ?」
「ボクら、雨の日は飛ばないからねっ!」
「ん? そうなのか」
「「 そうだよう 」」
「ま、俺も雨の日は飛びたくない」
「「 良かったー 」」
「待って。AI、明日の天気はどうなの?」
「湿度64パーセント、西向きの風、ここまで観測した地形と雲の動きをシミュレート中………80%の確率で雨です」
なるほど、それでこいつらが釘を刺してきたか。
「別に飛べなくはないわよね?」
「「 飛べない~ 」」
「痛い目を見ても?」
「「 え……? 」」
「殴られても飛べないの? って聞いてるのよ」
アリアがギリッと拳を握りしめて言う。
「「 ……飛べます 」」
「じゃあ、あと少しだけだから、頑張ってね。帰りはゆっくり、雨の日も休んで良いから」
「「 鬼だ…… 」」
「可哀想に」
「シン、甘やかさないで。この子達は全天候型よ」
「そうかもしれないが、そこまで急ぐことかね」
「任務を忘れたの?」
「――そうだった」
俺達は一刻も早く、新型魚雷の情報を本星司令部に届けねばならなかったのだ。




