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第十七話 天界決戦

 白亜の壁に閉ざされし空間――。

 床の大理石の模様は、闇に光の水滴を散りばめたようでもあり、まるで銀河の星々を想像させる。

 

 そんな中、聖女アルマが、儀式用の重々しい錫杖を司祭プラークから受け取り、こちらに向けた。

 

「――勇者シンよ」


「は……」


「汝の煩悩は神の摂理を知らぬがゆえの過ち。よってここに、この世界の成り立ちを聞かせることとします。それはまだ神々が地上と天上を行き来していた時代、今より遙か数千年前のことです」


 あー、面倒くせー、神話なんて聞いても何の役にも立たないのに、どうしてこうなった。

 ちょっとロリコンをカミングアウトしただけでこの仕打ちとは。

 わざわざ神殿に連れてこられてお説教を食らうほどの事か?

 

「――聞いていますか、シン」


「も、もちろんです、聖女様」


「よろしい。その『神々の時代』では、我々下界の人間は神の恩寵を賜り、食べ物にも一切不自由することも無く、病気もたちどころに治療され、幸せの歌にあふれていたそうです。ですが、その安寧の世も永くは続きませんでした。神々はいつしか二つの勢力に別れ、相争うこととなったのです」


 ありがちなパターンだなぁ。

 んで、戦争の後に神が消えて、人間の時代がやってくるんでしょ?

 神話ってもうちょっとひねっても良いと思うよね。

 

「赤き旗を掲げた神の名はルーリー=ブタス。青き旗を掲げた神の名はギャラ=クシーア=ライア」


 神様の名前なんて死ぬほどどうでもいいが、ルーリーはアルマ達の信じる主神だから、赤組が勝ったのだろう。青組が邪神なのだ。

 

「戦いは壮絶を極め、数百年にもおよび、神々も多くが傷つきました。神の炎は夜空の星をいくつも消したそうです」


 星には元々寿命がある。

 夜空に輝くのは水素などを燃料として燃えているからだ。

 赤色矮星は寿命が一千億年以上とも言われるが、明るい青色巨星は激しく燃えているため、数百万年程度で燃料が燃え尽き、色が変わる事となる。

 それを消したと文学的に表現するならば、確かに『神が消した』のだろう。


 しかし、星など消そうと思っても実力で消せるわけが無いのだ。

 銀河宇宙同盟軍が保持する最強の兵器、惑星さえ消し飛ばす『重力場崩壊シュバルツシルト砲弾』であろうと、惑星の何百倍もの大きさがある恒星に対しては効果が無い。

 

 または、宇宙は膨張し続けており、長い年月により星座の位置も変わってくるが、それで消えた星が出てきたのを古代人が見つけたのだろう。

 

「我らが神ルーリーは、邪神ギャラの禁断の秘術によりその心臓を撃ち抜かれ、瀕死の重傷を負います。しかし、その暴挙に怒った神々が味方につき、邪神ギャラは追い詰められます。最後は英雄クラッドの剣がギャラの首を跳ね、ギャラは心を入れ替え、ルーリーの一部となりました」


 ――おや?


「英雄クラッドというのは人間ですか?」


「その通りです。彼は人の身でありながら、神剣エクスカリバーを使い、精霊エアを自在に操ったと言い伝えられています」


「それが初代皇帝?」


「ああ、いいえ、アノン帝国の初代皇帝もまたクラッドと名乗っていますが、これは神話からあやかった(・・・・・)というのが主流派の見解です。中には同一人物であるという極端な意見もありますが……それでは人が不老不死になってしまいますからね」


 普段はあまり長々と喋らないアルマだが、こうした宗教話は慣れているのか、すらすらと説いていく。

 

「さて、ルーリーは勝利しましたが、戦で傷つき多くの力を失ってしまいました。彼女は人間に、七つの訓戒を定めます。一つ、汝、むやみに殺すなかれ。二つ、汝、言葉を奪うなかれ。三つ、汝、悪口を言うなかれ――」


 ま、この辺はどこの文化圏であろうと、だいたい似通った道徳になるのだろう。

 

「六つ、汝、子供を性的対象にしてはダメ!」


「ん? それはアルマ様の現代語訳ですか?」


 言葉遣いが変わったので、俺は疑問に思って聞く。


「いいえ、私も不思議なのですが、これが神ルーリーの発した言葉そのものなのです。ここだけ、ちょっと違いますよね」


「ふうむ……」


 なぜそうなのかは分からないが、グサリとくる物がある。

 なるほど、アルマが神殿に俺を連れてくるわけだ。


「素晴らしい神だわ!」


 アリアが目を輝かせて言う。入信とかしないでくれよ……?

 

「やはり、神の教えは大切にすべきだ」


 騎士ミーユもしみじみと言った感じでうなずいている。

  

「シン様……」


 心配顔でネリーがこちらを見ているが、分かっているとも。

 ここは世間体が大事だからな。建前が大事なのだ。


「分かった! 俺が悪かった。次から大人の女性を性的に愛することにする。これでいいな?」


「汝、改心したり! ささ、聖女様、勇者シンに祝福を」


 司祭プラークが大きな声で言って急かすが、彼も本気で俺を罰したいなどとは思っていない様子だ。

 

「はあ……では、勇者シン、神のご加護がその道を照らさんことを」


「ありがたやありがたや」


「真面目に改心したんでしょうね?」


 面倒くさい奴(アリア)が問い詰めてくる。

 

「そういうことにしておいてくれ」


「ええ? まったくもう」


「アリアさん、ちょっと」


 プラークが何かアリアに耳打ちした。

 

「うーん、そうね、私が大人の女性の魅力で正道に立ち返らせてあげないとダメね」


「おお」


 具体的には何を?

 

「……まっ、それはまたいつかと言うことで」

   

 あっさりと逃げられてしまった。しらふの時はガードが堅いな。

 

 それはそうと、俺はいつまでここで正座していればいいのでしょう……?

 完全に足がしびれたんですが。

 

「あっ、ごめんなさい、シンさん、もう立っていいですよ」


 アルマがようやくお許しを出してくれた。


「ふう、助かった。いてて……」


「大丈夫? シン。ほら」


 そこは優しく気遣ってくれるアリアだ。肩も貸してくれた。

 

「ああ、ちょっとしびれただけだ」


「たっ、大変です! 聖女様、空が! 空が!」


 一人のシスターが慌てた様子で神殿に駆け込んで来た。


「落ち着きなさい。空がどうしたのですか」


「星が落ちてきます!」


「ええ?」


 俺達は顔を見合わせ、そろってうなずき、自分の目で確かめようと神殿の外に出た。

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