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第十五話 初めてのダンジョン

 宿屋でネリーとアリアが優しく介抱してくれた甲斐もあって、俺は乗り物酔いから一時間ほどで回復した。


「それにしても、まさかここの防衛隊にスカウトされちゃうなんてね」


「俺がワイバーンを乗りこなしたように見えたんだろうな。事実は全然違うぞ。あれは乗り物なんかじゃない」


「ええ、分かってるわよ」


「シン様、何か食べられますか?」


 ネリーが聞いてくれたが、食欲など無い。


「いや、いい。夕食までは何も食いたくない」


「そうですか」


 ノックが有り、ミーユが戻って来たようだ。

 

「シン、具合はどうだ?」


「ああ、ようやく起き上がれるようになったよ」


「それは良かった。先ほど、冒険者ギルドで話を聞いてきたのだが、どうだろう、ここのダンジョンに潜ってみないか?」


 ミーユがそんなことを言い出した。

 

「なんでまた?」


「冒険者なのだろう? ダンジョンには珍しい宝もある。しばらくここに滞在すると言う話だったが、何か他にすることでもあったのか?」


 聖遺物を見せてもらうようにプラーク司祭が手紙を帝都に出しているので、その返事待ちだったな。

 特に他にすることも無い。

 

「いや、ヒマだな。じゃあ、冒険者でもやってみるか」


「そうこなくては」


 満足げな笑顔を見せたミーユだが、彼女も潜りたかったのだろう。

 

「あまり気が進まないけど、シンが行くのなら、私もついて行くわ」


 アリアが言う。

 

「あ、あの、私もご一緒してはダメでしょうか?」


「ダメと言うことは無いが、危険だぞ? ミーユ、モンスターもいるんだよな?」


「当然だ。モンスターがいない場所をダンジョンなどと呼んだりはしないぞ?」


「じゃあダメね。ネリーはお留守番しててもらえるかしら」


「いえっ、私も戦います。どうか、お願いします、アリア様!」


 ネリーがどうしたのか、真剣な目をして必死な感じで言う。


「ええ? うーん、そう言われても……」


「荷物持ちもいた方がいい。弓矢が使えるなら牽制役にもなるし、松明も持たせられるぞ?」


 ミーユが言うが、ベテラン冒険者の彼女が言うなら、大丈夫かもしれない。

 

「よし、じゃあ、無理はしないと約束してくれるね? ネリー」


「はい! もちろんです」


「もう、女の子には甘いんだから……」


 アリアがブツブツと小声で言ったが、俺は男にも優しいぞ?

 ――いや、プラーク司祭にはこのところ冷たく当たっていたな。やはり女子限定だ。




 現地調査の一環、偵察ということにして、俺達一行はダンジョンに潜ることにした。

 プラークとアルマも一緒だ。

 松明はミーユが持っていたが、プラークとアルマが光魔法を使えるとのことで、そちらに頼ることにした。

 

 二人の持つ杖の先が光り、強い光では無いが、照明弾のようにまんべんなく周囲を照らしてくれている。

 その様子を見たアリアが聞いてきた。

  

「魔法って便利ね。いったいどういう仕組みなのかしら?」


「さあ? AIも分からないんじゃ、俺たちにも理解不能だな」


「この魔法は、魔力を光に変えて照らしているだけですよ。空気中のマナも使ってはいますが」


 プラーク司祭が説明してくれたが、また分からない単語が出てきた。


「マナ?」

  

「魔力の元、魔素です。至る所に魔素があり、我々アイテール学派では魔素こそ『万物の根源たる精霊エア』だと見なしています」


 要するに、エネルギーの源ということだろうな。

 この未開惑星には不思議な未知のエネルギー源があると言うことか。

 

「要報告ね」


「ああ」


 俺とアリアは小声で軍への報告の必要性を再確認し、目配せでうなずき合った。

 

「魔物だ! コボルトだな」


 ミーユが剣を抜くなり言い、先頭を切って斬りかかっていく。

 

「強いのか!?」


「いいや、ゴブリン並だ」


「なんだ。それなら、ネリー、狙ってごらん」


「は、はい、シン様」


 猫耳をピクピクさせたネリーは明らかに緊張しているが、武器屋で買ってやった弓矢を彼女が構える。


「AI、敵に当たるように動作を修正しろ」


「了解」


 戦闘用全身補助(コンバット)動力装置(スーツ)を着込んでいる俺がネリーの手を持ち、正しい構えに修正してやった。


「いいぞ、ネリー、撃ってみろ」


「はい! あっ、当たった!」


「今の感じを覚えておくんだ」


「はい!」


「ほう、狩人だと聞いたが、やはりそちらも相当な腕前のようだな」


 ミーユが感心してくれた。


「まあ、ちょっとズルをしてるけどね」


「ズル? 何を使おうが、矢を当てられれば良い腕だ」


「そうですとも」


 なぜか自慢げなプラーク司祭だが、神殿本部へ俺達の情報を漏らさないよう、もう一度きっちり釘を刺しておくか。

 

「プラーク、例の約束を守ってもらわないと、何も協力はできないぞ?」


「分かっておりますとも」


「何の話だ?」


「何でも無いよ、ミーユ」


「気になるのだが」


「そこはお察しください、ミーユさん。私とシンさんの、二人だけの秘めやかな約束事ですので」


「秘めやか!? お、男と男で……?」


「変な勘違いはするなよ。プラークも変な言い方をすんな」


「はは、いや失礼。シンさんとアリアさんの身分を明かさないという約束ですよ」


「なるほど。確かに、これほどに腕の立つ二人となれば、どこから来たのか、身分を伏せる必要もあるのだろうな」


 ミーユも身分などと少し大げさに誤解した様子だが、宇宙からやってきたことは秘密にしないといけないことには変わりが無い。

 

「ま、そういうことだ」


「わ、分かった。私はあなたが何者であろうとついて行く覚悟だ。どこまでも」


「ああ」


「ちょっと……シン! 今の軽々しく返事をしちゃダメなところでしょ」


「ええ? 何でだよ?」


 アリアが怒ってしまったが、今のは、リーダーの俺に仲間としてついて行くという以外の解釈の仕方があるのか?

 

「何でって……知らない!」


 何なんだ。

 

「初々しいですなあ」


 何やら勝手にほっこりしている中年親父プラークと、聞き耳を立ててハラハラしている様子のアルマとネリー。なんだか変な雰囲気になってしまった。


 

  ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



(視点が別人に変わります)


 

「なに? あの騎士隊長の剣を切っただと? いつも自慢してる家宝の、あれか」


「へい、お頭。あの家宝を物の見事に、スパッと」


 暗がりの地下室で、数人の男達が声を潜めて密談していた。

 男達の体格は色々だが、ただ一点、共通して人相がどれも悪い。


「本当だろうな?」


「も、もちろんです、お頭。兵士が酒場で嬉しそうにはしゃいで(・・・・・)ペラペラ話してましたぜ」


「おもしれえじゃねえか。この世で一番固えと言われるアダマンタイトをぶった斬れる『聖剣』か」


 お頭と呼ばれた男は、その金銭的な価値を素早く頭の中で計算した。


「こりゃあ手にするしかねえな。ジュリア! ここはお前の出番だぜ?」


「ええ、任せて頂戴。相手が男なら、どんな奴だろうと私の敵じゃないわ、フフ」


 壁際で一人、もたれかかっていた赤毛の女性が妖艶な笑みを浮かべる。

 こぼれ落ちそうな胸元に男達の視線が自然と吸い寄せられる。

 ジュリアはその視線を全身でたっぷりと味わった後、軽い足取りで階段を上がっていった。

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