第十四話 希代のワイバーン使い、爆誕
「ええい、噛むな! どうも今日は落ち着かない奴らだな。おい、今朝の餌はちゃんとやったのか?」
騎士隊長がワイバーンを乱暴に殴って自力で這い出すと、他の兵士達に聞いた。
「そのはずですが……おい、今日の餌やり当番は誰だ?」
「ノットだろう」
「いや、アイツは今日、風邪で熱を出して休むと言ってただろう」
「そうだったな。ん? じゃ、誰も餌をやってないのか?」
「「 あっ、しまった! 」」
「ば、馬鹿もん! すぐに餌を持ってこい!」
「「「 は、はいっ! 」」」
兵士達が慌てて餌を持ってきたが、干し草と桶に入れた魚がワイバーンの餌のようだ。
「「「んまんま」」」
ようやくワイバーン達が大人しくなったが、まあ、餌をもらえなかったら誰でも怒るか。
「……シンよ」
「は、はい、隊長」
「先ほどは済まなかった。部下の失態とはいえ、それがしに監督責任もあることだ。どうだ、詫びと言ってはなんだが、ワイバーンに乗ってみるか?」
隊長が言う。
「いいんですか?」
「もちろん。だが、勘違いするなよ? 飛ぶのは普通の人間には無理だ。何年も訓練して、落とされ骨折しながら、覚えていくものだからな」
「はあ、じゃあ、またがるだけ?」
「うむ」
「せっかくなので、ぜひ」
これほど大型の動物に乗ったことは一度も経験が無い。
ちょっとワクワクする。
「では、一番大人しい奴に……うおっ、なんだお前達、ええい、落ち着かんか」
ワイバーンが一斉に俺の元に集まってきた。
「シン、乗りたい?」「乗る?」「乗っちゃう?」
「ああ、乗せてくれるというのなら、乗ってみたいんだが」
「「「いいよー」」」「餌のお礼!」
「おお、まるで会話しているような……シンさん、あなたはひょっとしてワイバーンと会話できる才能が?」
プラークがその様子を見て聞いてくるが。
「スキル? いや、そんなものは……」
「あるじゃない。ナノマシンを使ってだけど」
ニヤリと笑ってアリアが言った。
「まあ、そうかもしれないが、それは内緒な」
任務上、あまり目立つのはよろしくない。
「おお」
プラークだけはそのやりとりを聞いてしまったが、まあ後で口止めしておこう。
「お前では無い、お前だ。どけっ」
騎士隊長が自分より大きなワイバーンをどかせようと頑張っているが、さすがに何頭も一度に押してこられると身動きが取れないようだ。
「ええい、分かった分かった。では、お前がシンを乗せろ」
気性が荒い奴かもしれないので、ちょっと心配だが、言葉が交わせるならなんとかなりそうだ。
一応、餌のお礼ってワイバーンも言ってるしな。
兵士に手を借り、飛竜の鐙に足を引っかけ、体をよじ登って鞍に腰掛けてみる。
「お、おお、高いな……」
すでに視点の高さが厩舎の天井近くなので、結構怖い。
「ほう、抵抗もせずに乗せるとは、運が良いな。今日は随分と機嫌が良いようだ。普通は初めて乗ろうとすると首を振って追い落としにかかるのだぞ?」
「そうなんですか」
「どちらがご主人様か、マウントの取り合いだからね!」
「気合い入るよね!」
ワイバーン達は、自分たちが主だと思っていたようである。
「どれ、それほど慣れているなら、ちょっと外を歩き回ってみてもいいぞ。ほれ、行け」
隊長が足で蹴るが、乱暴だなあ。
「ムッカー!」
ほら、怒っちゃったし。
「どうどう、このままだと蹴られ続けるから、ちょっと歩こう」
「仕方ないなー」
ゆっくりと飛竜があるいて、厩舎の外に出た。首輪とか鎖は無いんだな。逃げたりしないのかな?
「じゃ、シン、行くよー?」
「ん? スピードを上げるのか? うおっ!?」
両翼を一気に広げた飛竜はそれを地面に叩きつけるように大きく羽ばたいた。
「い、いかん、押さえろ! 飛ぶ気だ!」
「まずい、早く降りて!」
隊長と兵士が慌てるが、この高さから降りろと言われても、無理です。
「兵士、邪魔」「任せろー」
他のワイバーンが兵士の邪魔をして近づけさせない。なかなか知能のある連中だ。
いや、それよりも。
「おい、飛ばなくて良いから」
「遠慮するなって」
遠慮という概念も分かるのか。いや、分からない方がこの場合は良かった。
「うわあああ――っ! 俺、高所恐怖症だからぁあああ!」
「と、飛んだぞッ!」
「そんな、まさか」
「初めての奴が飛ぶというのか!」
俺は振り落とされないように必死に手綱を握りしめる。
「じゃ、まずはループ、そこからきりもみターン、行ってみよー」
「な、何をするつもりだ、や、やめやめやめ、うわーっ!」
ぶんぶん振り回されたが、その間のことは俺は目を閉じていたので、よく分からない。
とにかく振り落とされないようにするだけで必死だった。
ようやく地上に降り立った俺は、その場に胃の中身を全部吐いた。




