第十三話 甘噛みです。じゃれているだけです。
翌日、俺達はこの街の兵舎に向かった。
飛竜を見せてもらうためだが、生物では大気圏突破も無理だろうし、物見遊山の意味合いが強い。
気になるのは宇宙からの物体Xと目される『聖遺物』の方なのだが、そちらはまだ管理者の返事待ちの状態だ。
「おいっ! お前ら、ここは立ち入り禁止だ!」
兵舎の奥へ向かっていると、その場にいた見張りの兵士に怒鳴られてしまった。
「まあまあ、落ち着いてください。私は司祭プラークと申しますが、ここの隊長に許可を得ていますよ」
「それは本当か?」
「ええ、もちろん」
「どうも怪しいな……」
「オホン、こちらにおわすは聖女アルマ様です。あなたも見覚えくらいはあるのでは?」
「なにっ、聖女様だと!? おお、ほ、本物だ……! こ、これは大変失礼を」
「いえ」
アルマも苦笑しているが、ここの帝国では彼女もかなりの有名人のようだ。
「では、通ってもよろしいですかな?」
「も、もちろんです。お通りください」
「ありがとうございます。任務、ご苦労様です」
「ご苦労様です」
「はっ!」
「『聖女様』ってここでは随分と身分が高そうね」
アリアが感想混じりに話を向けた。
「いえ、それほどでも」
アルマが謙遜するが、先ほどの兵士の態度を見ても、相当な高位者だろう。
「プラーク殿! 聖女様も、このような場所に足をお運びいただき、この騎士隊長バルザック、誠に感激であります!」
走ってやってきた中年の騎士だが、彼がここを取り仕切る人物なのだろう。
見るからに、暑苦しい性格というか、灰汁が一番濃ゆい。
「いえ、隊長殿には快諾していただき、私どもも感謝しておりますよ」
「して、その者達は……?」
隊長がこちらに疑問の視線を向けた。
「彼は勇者シン。聖剣『ターンブーンシッ=コーシューハ=ブレード=ナイフ』を持つ御方です」
しれっとした顔でプラークが聖剣をでっち上げたが、騎士隊長の方は余計うさんくさそうに顔を歪めた。
「ターンブーン……? はて、聞いたことも無い名前ですな」
「では、試し切りを。お望みの物を真っ二つに切ってご覧に入れましょうぞ」
「ほう。それがしが斬る物を指定して良いとおっしゃる?」
「もちろんですとも。私どもが用意したものでは、種や仕掛けがあると疑われても事ですからな」
「よろしいでしょう。では、我が家に伝わる家宝、このアダマンタイトの名剣『メルディーン』でお試し頂こう。聖剣とおっしゃるからには、斬れぬはずもございませんな」
隊長が宝石があしらわれた高価そうな剣を鞘から抜いて見せた。半透明に輝く緑色の珍しい刃だ。
「いや、あの、家宝はちょっと」
後が悲惨なので、俺は懸念した。
「フン、こちらは真っ二つでも構わぬと言っておる。勇者が何を恐れますかな?」
「勇者でもないんですが」
「なに?」
「オホン、ご謙遜を。とにかく、シンさん、これも神の与えたもうた試練と思って、挑戦して頂かないと」
「はあ。どうなっても僕は知りませんよ」
「ええ、お気になさらず」
ニコニコ顔のプラーク司祭だが、アンタ絶対、悪者だろう。
アリアが微妙な顔をする中、彼女も止めないので、俺は腰から聖剣『単分子高周波ブレードナイフ』を抜く。
「では、隊長、そのまま構えていてもらえますか」
「よかろう。さあ、いつでも来い!」
まるで決闘でもするかのような構えだが、攻撃してこないならどうでもいい。
「はい、ではこれで」
「な、な、な……なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
ぼとりと落ちた剣先を見て、隊長が驚きの悲鳴をこれ以上なくやかましく上げた。
「やあ、お見事です。ご納得頂けましたかな?」
「ふぐぅっ……代々伝わる家宝をワシの代で……うぬぬぬ。――よろしいでしょう。ここまでの切れ味、聖剣と認めざるを得ません。勇者シンッ!」
「は、はいッ!」
「その名、しかと覚えましたぞ。ワイバーンをご覧になりたいとか」
「ええ、まあ。見れたら、いいな……くらいで」
「こちらです」
顔を真っ赤にしたままの騎士隊長がおっかないが、高潔な騎士のプライドか、普通に案内してくれた。
そこには屋根付きの厩舎のような場所があり――
「うっ、臭っ」
鼻が曲がりそうな刺激臭が漂ってきたので、俺は思わず鼻を押さえる。
「うっ」「な、何この匂い」「これほどとは……」
「ワイバーンですからな」
厩舎の中にいた五頭の飛竜が一斉に首をもたげてこちらを警戒した。
「どうどう。こやつらはなかなかに賢い輩でしてな。知らぬ人間を警戒するのです」
「なるほど、これなら人を乗せられそうね……」
アリアが見上げて感想を漏らすが、体長は縦だけで二メートルを超えている。翼を広げると何メートルになるかちょっと予測もつかない。
「では、さっそく」
俺は携帯測定器を彼らに向ける。
と、騎士隊長が俺の前に立ち塞がった。
「シン殿、何をするおつもりか」
「ああいえ、何も。ちょっとしたお祈りのようなもので、危害は加えませんよ」
「本当ですな? 司祭殿、この男の素性、本当に大丈夫ですな?」
「もちろんですとも。私が保証致します。無償で街を救い、人を助けるのを当たり前と言い放つ御仁ですぞ?」
「ふん、そう言う輩はそれがしも目にしたことがあるが、たいていは詐欺師やただの目立ちたがり屋、いずれ化けの皮が外れることでしょうな」
「いえ、たとえそうだとしても、一度でも命を張れば充分な善人ですとも」
「まあ、それだけなら悪人とは言えぬでしょうが。まあいいでしょう。そこまでおっしゃるなら、お好きにどうぞ。ただし、こやつらが傷つき倒れるようであれば、ここから全員生きて出られぬと覚悟なされい」
おっかないな。全員かよ。
「大丈夫です。何もしませんから」
俺は気を取り直して携帯測定器をワイバーンに向ける。
欲を言えば、血玉を出してもらって遺伝子解析までやりたいが、この隊長の様子だと怒られるのも確実だからな。そこまでせずとも良い。
「骨格の解析終了。は虫類の飛行生物に分類されると推測。危険度、中」
やはり飛べるとAIも推測したようだ。飛んでくるモンスターはちょっと厄介だな。しかも大型だ。
「隊長、お腹空いた」
「えっ!?」「なっ」
アリアと俺はワイバーンの鳴き声にびっくりする。
言葉として翻訳されてしまったぞ……?
「AI、ワイバーンの言語が翻訳できるのか?」
「質問の意味が不明です。もう一度お願いします」
んん? このパターン、前にもあったな。
「あ、そうか『ナノマシン・タイプX』の翻訳機能なんだ」
「ああ……」
「ハッハッハッ、勇者がワイバーンの鳴き声に驚くとは、笑止。こやつらはきちんとしつければ人を襲うことなど無いわ――うわ、何をする止めろ!」
後ろから首を伸ばした飛竜が隊長の頭をまるごとガブリとやるので、俺達は唖然としてしまう。
「まったく。今のは甘噛み、ちょっと甘えているだけだ」
なんとか自力で抜け出した隊長が言うが……。ちょっとか?
「だ、大丈夫ですか?」
「血がだらだらなんですけど……」
「アルマ、下がっていなさい」
「は、はい」
「なんのこれしき、薬草を塗って食っておけば、治るわい」
懐から取り出した薬草をもしゃもしゃと食べる隊長。タフガイだ。
「お腹空いた!」「お腹空いた!」
しかし、ワイバーン達は腹が減っているようでしきりに声を上げている。尻尾も叩きつけて、やはり怒っている感じだ。
「あの、隊長、餌をあげてみてはどうかと」
俺はおずおずと提案してみたが……。
「フン、これだから素人は。餌をやる時間はきちんと決まっておる。ワイバーンは食べ過ぎると飛べぬどころか、体調を崩す繊細な生き物なのだぞ?」
「はあ。うお」
また後ろから隊長をガブリ。
なるほど。危険度、中だな。




