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第十二話 アノン帝国

 予定よりも一日早く、俺達はアノン帝国に到着していた。

 途中、モンスターと出くわして何度か戦闘もこなしたが、全力を出すような場面も無かった。


「ここがアノン帝国か――」


 レンガ造りの家が建ち並び、建築技術から見ても前の国よりずっと近代的な国家だ。

 

「と言っても、ここは北の要塞都市ですからね。洗練された帝都に比べると、ティムガットは少々無骨な印象になってしまうかもしれません」

 

 プラーク司祭が苦笑するが、確かに高い城壁がぐるりと街の周りを囲み、防衛を意識しているのが分かる。

 

「まずは宿を取りましょう。プラーク司祭はどこか宿泊の予定が?」


 アリアが提案し、プラーク達にも聞いた。


「いえ、神殿に立ち寄ればただで宿泊できますが、地方都市に聖女が泊まるとなると、かえって相手方に気を遣わせてしまいますからね。今回は立ち寄ると事前に先触れも出しておりませんし、やはりここは普通の宿に泊まるとしましょう」


「じゃ、私の好みで決めさせてもらうわね!」


 高級宿が好きなアリアである。

 まあ、モンスター退治でかなり稼いでいるので宿代に関しては心配が無い。

 俺もベッドは柔らかい方がいいので、文句は無い。

 

 リュックなどの荷物も宿に置いて、俺達は身軽な格好で街を歩く。

 

「シン様、何かとっても良い香りがします!」


「ほう、あれは串団子だな」


 ネリーとミーユが目敏く屋台を見つけたので、簡易測定器で安全を確かめてから全員に俺が奢ってやった。

 

「んー、おいひいでふ!」


 一度に口に放り込んで、両方のほっぺたを膨らませたネリーが感激する。


「うむ、これはなかなか美味だな」


 ミーユもうなずきながら評価。


「うん、甘みもほどよくて、葉の香りかしら? 良い感じね」


 アリアも気に入った様子だ。

 俺も普通に美味しいと思う。

 海賊ダラフの口には合わなかったようだが、この惑星にも探せば美味しい物はたくさんあるのだ。


「飛竜と聖遺物、見せてもらえると良いわね」


 アリアが楽観しているのか、にこやかに言う。

 

「そうだな」


 司祭プラークと聖女アルマは神殿に立ち寄っているので別行動だ。

 今のところ俺達に親身に接してくれている司祭達だが、彼らにも彼らなりの行動原理や目的はあるはずなので、あまり期待しすぎるのも考え物だ。

 

「次は冒険者ギルドに寄ってみるか」


「そうね」


 すでにワイバーンの情報についてはプラーク司祭に話を通してある。

 だからそれ以上の価値がある情報が手に入るとは考えにくいのだが……。手続きを待つ間はヒマなので、先にギルドに行ってみることにする。

 

 ティムガットの冒険者ギルドは人も大勢いて、賑わっていた。

 

「誰か、東のダンジョンに挑戦する奴はいないか? パーティー希望だ。腕の良い戦士がここに落ちてるぞ!」


「ハイポーションを誰か安く売ってくれないか! 仲間が重傷なんだ」


「腕の良い鍛冶屋を紹介してくれたら、五十ゴールドの報酬を出すぞ!」


 掲示板の近くで声をかけて条件を出している冒険者も何人かいる。

 

 俺はそのうちの一人に話しかけた。


「怪我をしたという仲間のところへ案内してくれ。俺が手当できるかもしれない」


「おお、助かるよ。盗賊に襲われて、一文無しでほとほと困ってたところなんだ。捨てる神あればなんとやらだ、ルーリーよ、感謝します」


 時々耳にする名前だが、ルーリーとはこの世界で広く信仰されている至高神だそうだ。プラーク達もルーリーという女神を信仰しているという話だった。


「じゃ、アリア、救急キットを頼む」


「ええ、後で合流しましょう」


 GPSは使えないが、戦闘服から電波信号は出せるので、この街の広さ程度ならお互いの位置情報は簡単にやりとりできる。

   

「オレは『白き天馬』のロッドだ。アンタは?」


「俺は『青き星の狼』シンだ」


「私は同じく『青き星の狼』ミーユだ」


「同じくネリーです」


「へえ、星とはなかなかカッコイイ名前のパーティーだな。誰が司祭なんだ?」


「いや、司祭はいないが、さっきの銀髪の仲間が必要な道具を持ってきてくれる。俺が薬師見習いってところか」


「そりゃ助かる。とにかくエディを見てやってくれ。腹が腫れちまって、なんだかヤバイ感じなんだ」


「ああ、急ごう」


 路地を走り、エディが寝ているという宿屋まで俺達は急いだ。

 

「エディ! 薬師を連れてきたぞ!」


 二階へ上がり、手前のドアを蹴破る勢いでロッドが開ける。

 すると、中にいた大柄な戦士がしかめっ面で苦言を言った。

   

「おい、怪我に障る。もっと静かに入れ、ロッド」

 

「悪い悪い。で、調子はどうだ、エディ」


 ロッドがベッドに寝ている方の人物に話しかけた。


「もう、ダメかもしれない……僕が死んだら、魔術書は全部売ってくれ」


「何を弱気になってるんだ。あれはエルフにもらったお前の一番の宝物だろ。心配すんなって」


「いや、僕はもう二度と! 女は信用しないッ!」


「あのなあ、エディ」


「あまり興奮させて喋らせない方がいい。どいてくれ」


 励ますのは良いが、口数の多いロッドは治療の邪魔だ。

 エディの毛布を取り、上着のボタンを外して患部を見せてもらったが、赤く腫れ上がっていた。

 どうやら酷い内出血を起こしているようだ。

 

「これは酷いな……」


「治せそうか?」


「それは大丈夫だ。後は任せてくれ」


「おお、頼もしいな」


 まずは携帯簡易測定器で容態を確認。

 

「内臓破裂で出血しています。二時間以内に手術しないと手遅れになる可能性があります」


「手術か……まあ、仕方ないな。魔術を使うから、お前達は外に出ててくれ」


「魔法も使えるのか? 見学させて欲しいが、ダメか?」


「ダメだ。あまり余計な人数がいると、上手くいかなくてな」


 雑菌も考えると、やはり治療する人間だけが望ましい。

 

「分かった。エディ、頑張れよ」


「お、おい、一人にしないでくれ」


「ネリーはここにいてくれ。君は助手だ」


「わ、分かりました」


「では、私は清潔な布を用意してくるとしよう」


「頼む、ミーユ」


 現地人でも、いや、戦闘経験の多いミーユだからか、そこは勝手が分かっているようだ。

 

「ひとまず、このポーションを飲んでくれ、エディ。気休めだが、痛みは引くはずだ」


 ポケットに突っ込んでおいた小瓶を取り出して、彼に渡す。

 

「ああ、これは上質なポーションだね。雑味が少ないし、酒も入ってる」


 エディが少し微笑む。


「クラド謹製だからな」


 薬草のみをきちんと選別して集め、しっかりと煮込んで、殺菌保存用の酒も加えた本格派のポーションだ。

 AIに作り方を教わった分、こちらでも上等な部類に入るのだろう。

 

「お待たせ、シン」


 アリアが救急キットを持ってやってきた。


「よし、じゃあ、手術を始めよう。アリア、まずは消毒スプレーと麻酔を出してくれ」


「了解」


 手術は無事に完了し、エディとロッドにはしきりにお礼を言われた。


「君は命の恩人だ。ありがとう!」

 

「気にしないでくれ。人として当たり前のことをしただけだ」


 助けられる命があれば、助ける。それは何も格好を付けてやることでも無い。

 

「当たり前なんて、なかなか言える事じゃねえぞ? 今は文無しだから何も出せないが、金ができたら必ず礼をする」


 がっちりと彼らと握手を交わし、うん、良いことをした。

 

「助かって良かったわね」


 アリアも上機嫌で微笑む。


「ああ。あと二時間、遅かったら、危なかっただろうな」


「巡り合わせが良かったのだろうな」


 ミーユが言う。

 

「巡り合わせか……そうだな」

 

 不時着で俺とアリアに取っては踏んだり蹴ったりだったが、こうして助かる命もあった。

 悪いことばかりでは無いのかもしれない。


 俺達の泊まっている宿に戻ると、プラーク司祭も神殿から戻っていた。


「シンさん、アリアさん、ここの駐留軍の隊長に話を付けました。ワイバーン、見せてもらえるそうですよ!」


「それは助かる」「良かった」

 

 そんなに見たいわけでもないのだが、人を騎乗させて飛ぶ生き物など、主星ファジスにもいない。

 一見の価値はあるだろう。

 

「聖遺物は?」


 俺が聞くと、プラークは周囲の目をちらりと気にして、声を落とした。

 

「それは他の客がいるこの場ではお控えください。一般の人間には存在さえ知らされていないのです。帝都にいる大司教様に手紙は書いて出しましたが、まだなんとも」


「分かった。まあ、気長に行くか」


「そうね。もうあれから何日も経っちゃったし」


 俺とアリアは軽くため息をつく。

 艦長の特命を果たせるのはいつの日になることやら。


 だが、諦めるにはまだ早い。

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