表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/68

第十一話 レーザー 対 レーザー

 俺のテントでプラーク司祭と話し合っていると、聖女アルマがやってきた。


「あの、プラーク司祭」


「どうかしましたか、アルマ」


 普段は『聖女様』と敬った呼び方をするプラークも異変を感じてか、普通に名を呼ぶ。

 

「はい、たった今、『天啓』が」


「むっ、重要度は?」


「数人規模です。ですが私達が関係しています。それも、数時間以内だと思われます」


「分かりました。では、向こうのテントで伺いましょう」


「いえ、シンさんやアリアさんにも聞いてもらった方が良い気がします。お二人の知り合いのような感じでした」


「知り合い? どういうことなんだ?」


 俺は疑問に思って質問する。プラークが説明した。


「聖女アルマは『予知能力』を備えているのです。神からのイメージを授かり、未来の一部を垣間見ることができます。我々がカンデラの『大発生』に間に合ったのも、この天啓があればこそです」


「未来予知なんて本当にできるのか……?」


 超伝導光量子コンピューターが実用化された際、科学者はこぞって未来予測モデルを構築した。『ラプラス計画』である。しかし、それよりはるか昔、エドワード=ローレンツが提唱した『バタフライ効果』によって何人(なんぴと)であろうと(・・・・・)未来を予測するのは困難だという結論がすでに出ている。


 ちなみにバタフライ効果とは『一匹の蝶が羽ばたくと、遠くで竜巻が起こる』というあれだ。

 

 これは、ほんの小さな動きであっても、未来には計り知れない影響をもたらす可能性を示している。

 ゆえに、未来は常に予測困難である。

 

「確実とは言えません。これまで外れたこともあります。ですが、大発生の予測は当たりました」


 そう言われてしまっては、予言を聞くしか無い。

 

「アルマ、教えてくれ」


「はい。頬に変わった傷のある男が、今からここにやってきます。シンさんとアリアさんが喜んで出迎える様子が私には見えました。ただ……」


「ただ?」


「そのぅ……シンさんはその男を閃光魔法で撃ち殺してしまいます」


「な、なんだって?」


 喜んで出迎えた相手を撃ち殺すなんてことがあり得るのだろうか?

 にわかには信じがたい話だ。

 

「なら、レーザーライフルはしまっておいた方が無難ね」


 アリアがライフルを畳んでリュックに収めた。

 

「そうだな。だが、知り合いって誰がここにやってくるんだ?」


 想像もつかない。

 

「駆逐艦ブルーハウンドの乗組員じゃないかしら? 他にも脱出した人がいるかもしれないわ」


「脱出艇で大気圏突入したとなると、宇宙に出られるか心配だなあ」


 俺は大気圏突入の揺れを思い出して身震いする。あれは二度と経験したくない。

 

「それは艦の状態を聞いてみるしか無いわね。それより、駆逐艦ブルーハウンドの乗組員だとすると、こちらで現在位置を示して上げた方がいいわ」


「ああ、そうだった。AI、『統合(C)指揮(4)情報(I)システム』を起動してくれ」


「了解、こちらの現在位置を周囲に送信します……失敗。同期(リンク)するシステムが周囲五キロメートル以内に存在しません」


「時間をおいて、定期的に信号を出しておいてくれ。ただし、近場だけでいい。あまり長い距離まで電波を飛ばすと、共和連合に察知される恐れもあるからな」


「了解」


「まだ近くに来ていないということかしら? それとも、戦闘服や脱出艇を持っていない……?」


 アリアが首をかしげるが、今はあまりに情報不足だ。あれこれ考えても仕方ない。

 

「出迎えてみれば分かるさ」


 俺は笑ってみせた。

 出発は延期することとし、野宿したこの場で俺達は待機した。

 周りは何も無い荒れ地で、見晴らしは良い。

 街道のすぐ脇だ。

 

 大きな石に腰掛けて見張っていると、街道の向こうから人影が近づいてきた。

 

「あれだ! おーい!」


 俺が立ち上がって手を振ると、向こうの人影は立ち止まった。


 するとそこから閃光がほとばしり、青色のレーザーが俺のすぐ近くに命中する。

 

「お、おい! なぜ撃ってくる!?」


「どうしたの?」


 アリア達もテントから出てきたが、すぐにこの状況に気づいた。

 

「こちらに攻撃の意思は無いわ! 私達は銀河宇宙同盟軍、第八八航宙艦隊所属、駆逐艦ブルーハウンドの乗組員よ!」


 アリアがそう叫ぶと、それでようやく話が通じたのか、向こうが攻撃を止めて、笑顔でこちらにやってきた。

 あごひげを生やした冒険者風の中年男だが。

 

「よう、悪かったな。盗賊に待ち伏せされたかと思ったんだ」


「酷いじゃない。レーザーを持ってるなら、せめてもっと近づいて様子を見てからにしてもらわないと。危うく同士討ちだったわよ?」


「すまん、すまん。悪気は無かったんだ」


「俺はシン=クラド准尉。そちらの所属は?」


 こちらも冷や汗を掻いたが、怒っていても仕方ないので、まずは所属を聞くことにする。


「オレはダラフ。第四十九艦隊所属だ」


「別部署か……」


 てっきりブルーハウンドの生き残りかと思ったので当てが外れた。

 

「あなたたちの任務は?」


「偵察だ。そっちは?」


「私達は新型――」


 アリアがそのまま説明しようとしたので俺はそれを遮って言った。


「艦長命令で俺達二人は本国帰還の特命任務を負っている。協力して欲しい」


「おお、そりゃあ、もちろんだ。同じ銀河宇宙同盟軍だからな。で、お前らの船はどこだ?」


「あいにく、私達の船は故障して大気圏を出られそうに無かったから、自沈させたわ」


「なんだと!? くそっ! これで宇宙に帰れるかと思ったのに!」


「……と言うことは、あなたも、船を持っていないみたいね」


「この惑星を偵察している最中にドラゴンに襲われちまってな。ったく、ろくでもねえ生き物がいやがる」


「ドラゴンに、宇宙船が?」


 いったいどういう状況なのか。それを詳しく聞こうと思ったが、男が俺に銃を向けてきた。小型のレーザー拳銃だ。……銀色か。黒一色に統一されている銀河宇宙同盟の制式銃ではない。

  

「ちょっと、どういうつもり――」


「ふん、宇宙船が無いってんなら、男に用はねえんだよ!」


 そのまま撃ってくると確信したので、俺は思い切り地面を蹴った。

 戦闘服の人工筋肉と形状記憶合金が瞬時に硬質化し、地面に小さなクレーターを作る。

 

「なにっ!?」


 ――遅い!

 こちらを見上げた男は、戦闘服も装備していない様子だ。

 システムに同期していない手動照準の銃など、こちらの動きには到底ついてこれまい。

 

「シン様!」


 打ち(・・)合わせ(・・・)通り(・・)に、ネリーが俺のレーザーライフルを思い切り投げて寄越した。

 AIによる補助動作で、空中でそれを掴んだ俺は難なく着地する。

 

「武器を捨てろ。こっちは戦闘服の補助もあるから外したりはしないぞ?」


 俺はライフルを男に向けつつ言う。


「ちぃ……!」


 それでも男は撃ってきた。

 拳銃のエネルギー反応を警戒していた戦闘服のAIが察知して、こちらは自動で避ける。

 

「どうして……そんな分の無い賭けを」


 俺は問わずにはいられない。俺のライフルで正確に心臓を撃ち抜かれた男は、もう何をしようと手遅れだ。助けようも無い。

 

「へへ……もうこの星の生活に嫌気が差しちまってな。食い物はまずいし、女くらいしか楽しみがねえ」


「お前は、銀河宇宙軍の所属じゃないな?」


 訓練を受けた動きでは無かったし、何より所属を聞かれて階級を名乗らない軍人などいない。


「へっ、まあ、いずれバレるとは思っていたがな。ブラックな運搬企業、こちらの世界風に言えば、海賊って奴よ」


「民間人か……ここは銀河同盟の勢力圏内なのか?」


「違う。お前らも気づいてるだろうが、ここは誰もいない『未踏領域』さ。オレは、ワープ装置の故障でこっちに一人飛ばされただけだ。本当にツイてなかったぜ……」


 そこで男は事切れた。


「くそっ!」


「シン……」

「シン様……」


「平気だ。それよりプラーク、死者への祈りを捧げてやってくれないか」


「良い心がけです。この御仁は道を踏み外してしまったようですが、誰しも根っからの悪人などいないのです。人は人として扱わねばなりません。なぜなら、それが我々が人であるという証明なのですから」


 男の両手を組ませたプラークと聖女が共に祈りを捧げる。

 辺りが暗くなり、空を見上げると鈍色(にびいろ)の分厚い雲が幾重にも覆っていた。

 俺とアリアの行く末を示唆(しさ)しているかのようで、気が重い。

 どうやら今夜は雨になりそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ