第十一話 レーザー 対 レーザー
俺のテントでプラーク司祭と話し合っていると、聖女アルマがやってきた。
「あの、プラーク司祭」
「どうかしましたか、アルマ」
普段は『聖女様』と敬った呼び方をするプラークも異変を感じてか、普通に名を呼ぶ。
「はい、たった今、『天啓』が」
「むっ、重要度は?」
「数人規模です。ですが私達が関係しています。それも、数時間以内だと思われます」
「分かりました。では、向こうのテントで伺いましょう」
「いえ、シンさんやアリアさんにも聞いてもらった方が良い気がします。お二人の知り合いのような感じでした」
「知り合い? どういうことなんだ?」
俺は疑問に思って質問する。プラークが説明した。
「聖女アルマは『予知能力』を備えているのです。神からのイメージを授かり、未来の一部を垣間見ることができます。我々がカンデラの『大発生』に間に合ったのも、この天啓があればこそです」
「未来予知なんて本当にできるのか……?」
超伝導光量子コンピューターが実用化された際、科学者はこぞって未来予測モデルを構築した。『ラプラス計画』である。しかし、それよりはるか昔、エドワード=ローレンツが提唱した『バタフライ効果』によって何人であろうと未来を予測するのは困難だという結論がすでに出ている。
ちなみにバタフライ効果とは『一匹の蝶が羽ばたくと、遠くで竜巻が起こる』というあれだ。
これは、ほんの小さな動きであっても、未来には計り知れない影響をもたらす可能性を示している。
ゆえに、未来は常に予測困難である。
「確実とは言えません。これまで外れたこともあります。ですが、大発生の予測は当たりました」
そう言われてしまっては、予言を聞くしか無い。
「アルマ、教えてくれ」
「はい。頬に変わった傷のある男が、今からここにやってきます。シンさんとアリアさんが喜んで出迎える様子が私には見えました。ただ……」
「ただ?」
「そのぅ……シンさんはその男を閃光魔法で撃ち殺してしまいます」
「な、なんだって?」
喜んで出迎えた相手を撃ち殺すなんてことがあり得るのだろうか?
にわかには信じがたい話だ。
「なら、レーザーライフルはしまっておいた方が無難ね」
アリアがライフルを畳んでリュックに収めた。
「そうだな。だが、知り合いって誰がここにやってくるんだ?」
想像もつかない。
「駆逐艦ブルーハウンドの乗組員じゃないかしら? 他にも脱出した人がいるかもしれないわ」
「脱出艇で大気圏突入したとなると、宇宙に出られるか心配だなあ」
俺は大気圏突入の揺れを思い出して身震いする。あれは二度と経験したくない。
「それは艦の状態を聞いてみるしか無いわね。それより、駆逐艦ブルーハウンドの乗組員だとすると、こちらで現在位置を示して上げた方がいいわ」
「ああ、そうだった。AI、『統合指揮情報システム』を起動してくれ」
「了解、こちらの現在位置を周囲に送信します……失敗。同期するシステムが周囲五キロメートル以内に存在しません」
「時間をおいて、定期的に信号を出しておいてくれ。ただし、近場だけでいい。あまり長い距離まで電波を飛ばすと、共和連合に察知される恐れもあるからな」
「了解」
「まだ近くに来ていないということかしら? それとも、戦闘服や脱出艇を持っていない……?」
アリアが首をかしげるが、今はあまりに情報不足だ。あれこれ考えても仕方ない。
「出迎えてみれば分かるさ」
俺は笑ってみせた。
出発は延期することとし、野宿したこの場で俺達は待機した。
周りは何も無い荒れ地で、見晴らしは良い。
街道のすぐ脇だ。
大きな石に腰掛けて見張っていると、街道の向こうから人影が近づいてきた。
「あれだ! おーい!」
俺が立ち上がって手を振ると、向こうの人影は立ち止まった。
するとそこから閃光がほとばしり、青色のレーザーが俺のすぐ近くに命中する。
「お、おい! なぜ撃ってくる!?」
「どうしたの?」
アリア達もテントから出てきたが、すぐにこの状況に気づいた。
「こちらに攻撃の意思は無いわ! 私達は銀河宇宙同盟軍、第八八航宙艦隊所属、駆逐艦ブルーハウンドの乗組員よ!」
アリアがそう叫ぶと、それでようやく話が通じたのか、向こうが攻撃を止めて、笑顔でこちらにやってきた。
あごひげを生やした冒険者風の中年男だが。
「よう、悪かったな。盗賊に待ち伏せされたかと思ったんだ」
「酷いじゃない。レーザーを持ってるなら、せめてもっと近づいて様子を見てからにしてもらわないと。危うく同士討ちだったわよ?」
「すまん、すまん。悪気は無かったんだ」
「俺はシン=クラド准尉。そちらの所属は?」
こちらも冷や汗を掻いたが、怒っていても仕方ないので、まずは所属を聞くことにする。
「オレはダラフ。第四十九艦隊所属だ」
「別部署か……」
てっきりブルーハウンドの生き残りかと思ったので当てが外れた。
「あなたたちの任務は?」
「偵察だ。そっちは?」
「私達は新型――」
アリアがそのまま説明しようとしたので俺はそれを遮って言った。
「艦長命令で俺達二人は本国帰還の特命任務を負っている。協力して欲しい」
「おお、そりゃあ、もちろんだ。同じ銀河宇宙同盟軍だからな。で、お前らの船はどこだ?」
「あいにく、私達の船は故障して大気圏を出られそうに無かったから、自沈させたわ」
「なんだと!? くそっ! これで宇宙に帰れるかと思ったのに!」
「……と言うことは、あなたも、船を持っていないみたいね」
「この惑星を偵察している最中にドラゴンに襲われちまってな。ったく、ろくでもねえ生き物がいやがる」
「ドラゴンに、宇宙船が?」
いったいどういう状況なのか。それを詳しく聞こうと思ったが、男が俺に銃を向けてきた。小型のレーザー拳銃だ。……銀色か。黒一色に統一されている銀河宇宙同盟の制式銃ではない。
「ちょっと、どういうつもり――」
「ふん、宇宙船が無いってんなら、男に用はねえんだよ!」
そのまま撃ってくると確信したので、俺は思い切り地面を蹴った。
戦闘服の人工筋肉と形状記憶合金が瞬時に硬質化し、地面に小さなクレーターを作る。
「なにっ!?」
――遅い!
こちらを見上げた男は、戦闘服も装備していない様子だ。
システムに同期していない手動照準の銃など、こちらの動きには到底ついてこれまい。
「シン様!」
打ち合わせ通りに、ネリーが俺のレーザーライフルを思い切り投げて寄越した。
AIによる補助動作で、空中でそれを掴んだ俺は難なく着地する。
「武器を捨てろ。こっちは戦闘服の補助もあるから外したりはしないぞ?」
俺はライフルを男に向けつつ言う。
「ちぃ……!」
それでも男は撃ってきた。
拳銃のエネルギー反応を警戒していた戦闘服のAIが察知して、こちらは自動で避ける。
「どうして……そんな分の無い賭けを」
俺は問わずにはいられない。俺のライフルで正確に心臓を撃ち抜かれた男は、もう何をしようと手遅れだ。助けようも無い。
「へへ……もうこの星の生活に嫌気が差しちまってな。食い物はまずいし、女くらいしか楽しみがねえ」
「お前は、銀河宇宙軍の所属じゃないな?」
訓練を受けた動きでは無かったし、何より所属を聞かれて階級を名乗らない軍人などいない。
「へっ、まあ、いずれバレるとは思っていたがな。ブラックな運搬企業、こちらの世界風に言えば、海賊って奴よ」
「民間人か……ここは銀河同盟の勢力圏内なのか?」
「違う。お前らも気づいてるだろうが、ここは誰もいない『未踏領域』さ。オレは、ワープ装置の故障でこっちに一人飛ばされただけだ。本当にツイてなかったぜ……」
そこで男は事切れた。
「くそっ!」
「シン……」
「シン様……」
「平気だ。それよりプラーク、死者への祈りを捧げてやってくれないか」
「良い心がけです。この御仁は道を踏み外してしまったようですが、誰しも根っからの悪人などいないのです。人は人として扱わねばなりません。なぜなら、それが我々が人であるという証明なのですから」
男の両手を組ませたプラークと聖女が共に祈りを捧げる。
辺りが暗くなり、空を見上げると鈍色の分厚い雲が幾重にも覆っていた。
俺とアリアの行く末を示唆しているかのようで、気が重い。
どうやら今夜は雨になりそうだった。




