第十話 聖遺物
パデューヌの街でワイバーンについての情報を仕入れた俺達は、今度は南の『アノン帝国』へと向かった。
聖女と司祭プラークの所属する帝国だが、そこに『飛竜ワイバーン』が飼われているという話だ。
それなら、何も街で聞き回らなくとも、プラーク達に聞けば良かった。
とはいえ、あの二人は神殿に立ち寄って別行動を取っていたし、俺達が何を探しているかも話していなかったからな。
「シン殿、帝国までは馬車で五日の道のりだ」
「そうか。馬車と御者まで用意してもらって、悪いな、ミーユ」
「いいや、気にしないで欲しい。私の、う……うん――」
「うん?」
「運命の人になるかもしれないのだ、これくらいはどうか私に尽くさせてくれ」
歩くトラブルメーカーと聞いていたが、やたらとしおらしくなったミーユが頬を赤く染め、恥じらって言うので、なんだか調子が狂うな。
「ふーん、ミーユを運命の人にしちゃうんだ。へぇー」
仲間にした覚えは無いのだが、騎士ミーユが勝手についてきてしまっていて、アリアの態度がやたらと俺に冷たい。
「いや、別に運命の人にすると決めたわけじゃ無いぞ」
「どうかしらね」
まったく。
帝国への道中――。
ステルステントで野宿した俺達は鳥のさえずりの中、爽快な朝を迎えた。
俺の隣には毛布を共有した相方が、まだ健やかな寝息を立てている。
なかなかに鍛え上げられた肉付きの良い体。ゴツい手だ。
「ふう、起き抜けに中年男の顔を見ると、なんだか気分が乗らないな……」
プラーク司祭が起きないよう、気を遣って静かにテントを出た俺は、外で仲良く剣の鍛錬をしているアリアとミーユを目撃した。
「おはよう」
俺は二人に声をかける。
「「 おはよう 」」
「なんだ、喧嘩を心配してたのに、随分と仲良くなったな、二人とも」
「ふふっ、まあ、そうかもね」
機嫌の直ったアリアが手を止めて笑う。
「シン、貴殿がアリア殿にデートの申し込みをしたいきさつの話、詳しく聞かせてもらったぞ。そのような人物がいながら、私の結婚話をすぐに断らないのは、少々失礼だと思うが」
「その話か……あれは生きて戻れたら、食事を奢るという程度の話で、恋人でも何でも無いぞ?」
俺は釈明しておく。
「だが、世界一の美人だと褒めたと言うではないか」
「うーん、まぁ、事実だ。今でもそう思ってるよ」
アリアに言ったのは銀河宇宙同盟軍の中でと言う話だったが、世界一と言っても過言ではあるまい。
「なんと……」
「ね、シンってこう言う人なのよ。どこまで本気か、分かったものじゃないわ」
「ああ、実に油断ならぬ男だ」
ミーユもなんだかアリアの味方についてしまったようで寂しい。
「シン様! 朝食の準備が整いました。皆さんも温かいうちにどうぞ」
ネリーがもう朝食の準備を済ませてくれていたようで、手間が省けた。
「おお、これはタマネギのスープですか。体に染み渡るようで、ありがたいですな」
プラークが褒めたが、野菜の旨味が出ていてなかなかの味わいだ。
「私は肉も入れた方が好みだが」
ミーユは物足りなかったようでそう言った。
「シン様もアリア様も肉のスープは苦手だそうで。でも、今度、分けて作りますね」
「いやいや、ネリー殿、そこまで手間をかけさせては申し訳ない。主が肉を好まぬと言うのであれば、居候の身である私は遠慮するとしよう」
「肉と言っても、鶏肉は大丈夫だぞ?」
そこは誤解が無いように言っておく。
「では、次の野宿では卵スープにしましょう」
「いいね」「いいわね」
なかなか美味しそうだ。
「卵と言えば、飛竜も卵から育つのです。一度、知り合いの騎士がその卵を食べないかと誘って来ましてね……」
プラークがそんな話をした。
「ええ? 人が乗る飛竜って大きいんでしょう? 卵も」
「もちろん。これくらい、二十センチはありますな」
「だが、それより、飛竜は軍事的に重要なものなんじゃないのか。普通に食べてるのか?」
俺がそう聞くと、プラークは慌てたように首を横に振った。
「とんでもない。あまり卵を産まず、子供の頃にもすぐ死んでしまうので、軍の管理も徹底しているのですよ。私も味には興味があったのですが、そういうことですから遠慮したのです。ですが結局、どこからか話が漏れて、私まで取り調べを受ける羽目になってしまいました」
「災難だったわね」
「ええ、その通りで。私の口利きがあれば、飛竜を皆さんにご覧に入れることはできるかと思いますが、その……」
どうやらプラークは、俺達が飛竜を欲しがっていると誤解しているようだ。
「心配しないで。別に卵を盗んだり、そういうつもりでは無いわ。ね、シン」
「ああ。空を飛ぶ物に、純粋な興味があるだけだ。見せてもらうだけで良い」
こう言っておけば、納得するだろう。
本命は宇宙船だからな。
「そうですか。ならば、そう難しくはありませんな」
テントに戻り、日課である装備の点検をしていると、プラーク司祭がレーザーライフル銃を手に取った。
「おい、勝手に触らないでくれ」
「やあ、申し訳ない。どうも珍しい物で、つい」
「アンタは珍しいと言うだけで他人の宝石箱を勝手に開けたりするのか?」
「いえいえ、滅相も無い。泥棒のような真似をして申し訳ありません。ただ、聖遺物に似ている気がして、ちょっと確かめたかっただけでして」
「聖遺物? なんだそれは」
「おっと、いえ、何でもありません、私としたことが、余計な事を口にしました」
「いや、話してもらうぞ、プラーク司祭。聖遺物とは何だ? この世界に、この銃と同じ物があるのか?」
「それは……仕方ありませんね。聖剣を持つ勇者ということであれば、大司教様もお許しになられることでしょう。聖遺物とはこの大陸各地に散らばっている遺跡やダンジョンから掘り出される不可思議な代物です」
重要な情報だと俺の第六感が告げているので、戦闘服のスイッチを入れ、会話ログを記録しておく。
「それが、この銃に似ていると?」
「ええ、なんと言いますか、色……材質ですかね。形や材質も様々で、何に使えるかも分からない物ばかりです。ただ、地層などから見て相当に古い物であるはずなのに、鉄のように錆びたり腐っていたりせず、そのままの形をずっと維持しているのです。――傷一つなく、綺麗なままで」
「なんてこった……」
この世界にそんな劣化しない材質があるということは、間違いないなく、外から運ばれてきた物に違いない。
宇宙から。
ここにいるのは俺達だけじゃないのか?
俺はすぐにアリアを呼び、その話をした。
「そう。もしも、光学式銃があるとすれば厄介ね……私達の軍事的優位はそれで失われてしまうわ」
「だが、宇宙船が手に入るかもしれない」
俺は言う。
「ええ、そうよね。プラーク司祭、その聖遺物も見せてもらえませんか?」
「それは管理しているのが私ではありませんので、今はなんとも。大司教様にお伝えはしておきます」
これじゃ当てになりそうに無いな。
「俺達なら使い方が分かるかもしれない、と言っておいてくれ」
「ほう」
「ちょっと、シン。それはまずいわよ」
アリアが反対したが、宇宙船が第一だ。
宇宙保護条約も大切だが、聖遺物とやらを見せてもらわないことには何も始まらない。




