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第九話 改心?

 パデューヌの賞金首ミーユを倒した。

 

 もちろん、殺してはいない。

 殴り倒して、無力化しただけだ。


 だが、決闘として勝負に応じた上でのことだから、これで彼女も態度を改めて……くれればいいのだが。

 

「ミーユ、顔は大丈夫か?」


 一応、彼女の状態を気遣っておく。 

 

「あ、ああ……」


 まだ大の字になって地面に仰向けになっている彼女は今の出来事が信じがたいようだ。


「アリア、簡易測定器をリュックから出してくれ」


「分かったわ」


 測定器を受け取り、ミーユを測定。

 

「頬に打撲が認められます。氷か冷水で冷やしてください」


 AIが言うが。


「ここで氷と言ってもなあ……」


「携帯用エアコンを我々は所持しています」


「おお、そうだった。アリア!」


「うーん、じゃあ、冷風魔法って言っておいてね」


 アリアは戦う直前に『単分子高周波ブレードナイフ』を見せつけろと言っていた気がするが、彼女も冷静になって隠蔽の必要性を思い出したらしい。ま、いいけどね。

 

「ミーユ、患部を冷やしてやるから、少しじっとしていてくれ」


 俺は『ドライヤー型携帯空調機(エアコン)』を手に握りしめ、彼女の顔に向ける。普通は屋内やテントの端に置いて使うのが標準だが、こうやって野外で好きな方向に風を送る事も可能だ。もちろん、コードレスである。

 

「それは? いや、私は負けたのだ。今更、何をされようとも、好きにするがいい。無念……」


 ミーユにはこれが武器にでも見えるのかね?

 まあ、拳銃に見えなくもないだろうが……この世界に銃は無いはずだ。

 

 夜でも快適に眠れ、敵に見つからないために『静音設計』になっているため、音はほとんどしない。

 おっと、魔法だったな。  

 

「万物たるエアよ、冷え~る、冷え~る」


 自分でもどうかと思うような適当な呪文を唱えるが、この世界の奴らが呪文だと認識すればそれで良いのだ。


「な、なんだ、冷たい風が!? 貴殿は魔術も使えたか……!」


 案の定、ミーユも全く疑うこと無く魔法と認識してくれた。チョロいわ-。

 

「シン、そう言う使い方は目に良くないわ。この布を凍らせて」


 アリアが水に濡らした手ぬぐいを渡してくれた。それもそうだな。俺はその布に携帯エアコンの風を当てて一部を凍らせ、凍った部分を内側に畳み込んで、ミーユに渡してやった。

 

「ほれ、これで冷やせ」


「私を手当してくれるというのか?」


「他に何がある」


「す、すまない」


 戸惑ったミーユは手ぬぐいを受け取って、立ち上がりそれを自分の頬にそっと――押し当てた。

 随分そっとゆっくりだったが、さすがに痛いのだろう。見ようによっては、まるで手ぬぐいが愛おしいかのようなそぶりだ。少し滑稽だったが、怪我人を笑うのは悪趣味だからな。


「ギルド職員さん、クエスト完了なのです! 報酬を用意するです!」


 ネリーが審判役を務めた職員に言う。

 

「お、おお、ミーユを生け捕りとは大した奴らだ。だが、ちゃんと縄で縛っておいてくれよ」


「無用だ。決闘で負けて命まで助けられた。ここで刃向かえば、騎士の名折れ」


 騎士ミーユが自分で言うが、なかなか潔い女のようである。

 ……儲けたな。


「良い仕事ぶりね、ネリー」


 アリアもその様子を見て顔をほころばせる。

 

「はい、ありがとうございます! でも、私にできるのはこれくらいですから……」


 少し照れくさそうに、はにかんだネリー。

 

「いや、他にも薬草を煮詰めてくれたり、掃除や洗濯もやってくれてるじゃないか。ネリーは良くやってくれてるよ」


 俺は彼女の働きをきちんと評価して言った。ネリーは決して怠け者でもなければ、臆病者でも無い。

 人間には向き不向きがある。それぞれが自分の役割を果たせばそれでいいのだ。


「じゃ、ミーユ、ポンスーレ男爵のところへ出頭してくれ。その後の沙汰はすべて男爵に任せよう。あの人なら悪いようにはしないはずだ」


 俺は、ミーユに賞金首の依頼主である男爵のところへ行くように指示した。

 

「その必要は無い」


 ミーユが言う。


「えっ?」


「貴殿らはどうやら何も知らなかったようだな。私の本名はミフィーユ=フォン=ポンスーレ。ポンスーレ男爵の長女だ」


「なにっ!?」「「えええ?」」


 自分の娘を賞金首にするとは、いや、ミーユがこの調子だから、今まで男爵が叱っても言うことを聞かなかったのだろう。


「父上もこれほどの達人を送り込んでくるとは、今回ばかりは本気のようだ。父上との約束通り、私は貴殿の妻となろう」


「なぬっ、妻!?」


「な、なんですってぇ!?」


「はわわ」


 ミーユがいきなり衝撃的なことを言うので『青き星の狼』のパーティーは大混乱だ。

 

「ま、待て、そんな約束は聞いていないぞ」


「そうか。ならばシン殿に私の進退は委ねるとしよう。だが、私は自分より弱い男と結婚するつもりはさらさら無い。あなた以外を夫として迎えることは一生無いと断言しておく」


「お、おいおい……」


「シン……! あなたねえ……!」


 そこで握り拳を作ってプルプルとお怒りの表情を見せているアリアさんが怖いです……。

 この状況、どこにも俺の落ち度は無いはずですよね?

 

「ほれ、報酬の三万ゴールドだ。情報を更新するから、リーダーは冒険者カードを出してくれ」


「あ、ああ」


 報酬の袋を持ってきたギルド職員が言うので俺は言われるままにカードを渡す。

 アリアとはどちらをリーダーにするかで五日間も話し合ったのだが、軍規に(のっと)り、艦長に先任として最初に指名された俺が務めることになっている。

 

「フーン、シンはそれでいいんだ?」


 アリアが腕組みをして咎めるような目を向けてくる。

 

「いや、あくまでこの報酬は、だぞ?」


「美人の女の子も報酬ですものねえ」


「いやいやいや、結婚は考えてないよ」


 もし許されるなら、俺が狙ってる相手は君自身だし。

 

「ホントかしら」


「本当だ」


「シン殿、貴殿はそのアリア殿と将来を誓っているのか?」


 ミーユが聞いてくる。

 

「えっ? いや、そういうわけじゃ無いんだが……」


「ならば、すでに誰かと結婚しているのか? 指輪はしていないようだが」


「いいや、俺は独身だ」

 

「ならば、迷うことは無い。負けたとはいえ、私は剣の腕なら自信がある。あなたのパーティーで役立つだろう。一緒に連れて行ってくれ」


 ミーユが仲間になりたそうな目でこちらを見ている。

 しかし、アリアがそんなことをしたらどうなるか分かってるんでしょうね?という怒りの目でこちらを見ている。

 

 どうしますか?


「あっ! そういえば、ワイバーンについて情報収集のためにここに来たんだったな。まずは聞き込みをしてからにしよう。うん、そうしよう!」


「うわ、逃げた」


 アリアが呆れ顔をしたが、に、任務の重要性を考えてくれ……。


「判断の保留か……? ハッ! いや、そうか! 情報収集も冒険者の重要な任務だったな! よし、ワイバーンの情報なら私に任せてもらおう。お前達、ワイバーンについて知っている奴は前に出ろ! 愚か者め、知らない奴は後ろに下がれという意味が分からんか!」


 ミーユが俄然(がぜん)張り切りだしたが、まるで大尉みたいな奴だな。

 俺はハートレー教官の顔を思い出し、恐怖で身震いする。

 大尉は歴戦の猛者で一度は共和連合の捕虜となり、拷問で顔に銃創を負ってなお、秘密を漏らさずに帰還した男だ。


 ミーユの金髪碧眼の清楚な顔は好みなんだけど、そんな鬼軍曹っぽい性格がちょっとね……。あと知り合ったばかりだし。

 

 だが、ここはさすがに注意しておいた方がいいだろう。

 ミーユもなぜ男爵がわざわざ賞金首にしたのか、分かってないみたいだからな。

 

「ミーユ、俺達の仲間になりたいなら、そんな横柄な態度は改めてもらおう」


「わ、分かった。ワイバーンの情報を持っている人は、こちらに集まって欲しい」


「フーン、仲間にする前提なんだ。まあ、あなたが隊長だものね。好きにしたら?」


 アリアが完全に勘違いしているが、後できちんと説明しておくか。

 あくまで任務が最優先だ。

 

  

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

  


 俺達がパデューヌのギルドで情報収集をしている頃、『答えを(・・・)持っている(・・・・・)()』がカンデラ街の酒場を訪れていた。

 

「ほう、見慣れぬ武器を持ち、光の閃光魔法を使う二人組か。フッ、こいつは、オレにも運が向いてきたかもなぁ?」


 頬に『銃創』のある男は一気に酒を呷ると、ニヤァと笑った。


「おい、アンタ、変な気を起こすのはやめとけよ。大発生のボスを仕留めた連中だ。生半可な強さじゃねえぞ?」


 向かいでその男に話を聞かせた冒険者が心配する。

 

「抜かせ。てめえは、オレの強さも知らねえだろうが」


 男は銀色に輝く光学式拳銃を冒険者に向けたが、残念ながらその冒険者はそれが武器であることも理解できていない。首をひねるばかりだ。


「ふん、原始人共が」


 男は吐き捨てるように言うと、勘定の銅貨をテーブルに投げつけるように転がし、席を立った。

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