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第八話 決闘

 当然、俺は決闘の申し込みを断ったのだが……。

 どうしてこうなった?

 

「新入り~、少しは持たせろよ!」

「男の意地を見せてやれ!」

「ミーユ、よそ者にパデューヌ支部の洗礼を見せてやれ!」


 ギルドの訓練場にて、はやし立てる野次馬に囲まれている俺。

 目の前には剣と盾を構えた騎士ミーユがいた。

 

「シン、見せてやりなさい、銀河宇宙同盟軍の強さを! スーツもフルモードでやっちゃいなさい! 単分子高周波ブレードナイフも全部解禁でいいから!」


 少し落ち着け、アリア。

 君が怒るのも無理はないのだが、さきほどから宇宙保護条約に抵触しそうなNGワードを連発しているぞ。

 

 最初こそ笑顔で冷静に相手をなだめていたアリアだったのだが――「フン、男の冒険者と寝泊まりを一緒にするふしだらな(・・・・・)女など」とミーユが余計なことを口走ってしまったため、激怒して煽る側に転向してしまった。


「やれやれだな……」


「二人とも準備はいいな? では、始めッ!」


 ギルド職員はこの騒ぎを止めるどころか真面目に審判を務めるつもりのようで、合図をして下がっていく。

 

「はああああ――っ!」


 一直線にこちらに突進してくるミーユだが、そこまで速い動きでは無い。

 とはいえ、俺より格上のAランクとなれば、油断はできないな。

 

 まずはこちらも剣で、相手の剣を受ける。

 様子見だ。

 

 ギンッと金属が激しくぶつかり合い、火花を散らす。


「ぐっ?!」


 ミーユの一撃は俺の予想以上に重かった。

 2トンの重量を持ち上げられるはずの戦闘用全身補助(コンバット)動力装置(スーツ)がきしみを上げ、俺の腕が剣ごと、抑え込まれていく。

 

 なんて力だ……! これで人間か!?

 

「シン、左右に動いて!」


 アリアが助言してくれたので、その通りに右に躱し、ミーユの剣を受け流す。

  

「甘い!」


「くそっ!」


 まるで生き物のように鋭く自在に変化してくるミーユの剣は捌くのも困難だ。

 

「ああ……が、頑張って! シン!」

「シン様ぁ!」


 アリアも実力差をはっきりと認識したか、応援の声に勢いが無くなった。

 ネリーの方は応援と言うより悲鳴に近い。

 

「どうした? 男のくせに、手も足も出ず、侍らせている恋人と奴隷女に無様な姿を見せるとは」


 ミーユが余裕を見せ、剣を止めて侮蔑の視線を向けてくる。


「男か女かなんて関係ないだろう。あとアリアは恋人じゃ無いぞ」


 そこはきっちり否定しておかないと後が怖いので、真顔で俺は言い返した。


「ふん、確かに、その程度の腕前ではな。女も男も関係が無かった。賞金稼ぎの名が泣くぞ」


 などと騎士ミーユがさらに小馬鹿にしてくる。


「別に俺は賞金稼ぎじゃないんだが……お前が(・・・)自分で賞金首の自覚が出てきたと言うなら、話は別だ。AI、そろそろパターンは(・・・・・)学習(・・)したな(・・・)?」


「まだ不充分ですが、行動パターン予測可能数値87.4パーセント」


「充分だ。オートモード開始!」


 それならそろそろ銀河宇宙同盟軍の本気を見せてやろうじゃないか。

 

 コンバットスーツの人工筋肉がきしむ音を発したかと思うと、俺の動きが急激に変わった。

 アリアに聞いて知ったのだが、このコンバットスーツ、パターンロードだけではなく、AIによる未来予測での補助動作が可能だ。


「シンの動きを見ていて私気づいたんだけど、ある程度の達人って無駄な動きが無いのよ。だから、AIの未来予測を使えば、オートモードで動きの悪さは補えるかも」


 そう言っていたアリア。

 初見の相手に対してはAIの深層(ディープ)学習(ラーニング)は逆に不安要素がある。だが、こうしてある程度の経験を与えてやれば――

 

「なにっ!?」


 俺が後ろに下がって避けるだろうと思い込んでいた騎士ミーユは、逆に突進した俺に間合いを狂わされ、今度は防戦一方に回る羽目になった。

 筋力ではどうやら負けているようだが、ならば、その分を動きで相手を上回れば良い。

 普段の俺からは考えられないような、曲芸師とでも言うべき軽快で奇抜な動き。


 それでいて、無駄な動きはゼロ。

 

 俺は地面に逆立ち状態で片手を突いて移動方向を変えると、流れる動きで下から素早く体を回転させつつミーユの剣を跳ね上げる。AI自身が人間の動体視力も計算に入れて、防御困難な攻撃を連続させていく。

 

「くっ、ふざけた真似を!」


 いきり立つミーユはこのような相手とは戦ったことが無かったようで、明らかに翻弄(ほんろう)されていた。

  

 さて、次はどう攻撃してやろうかと俺がそう考えたとき、アリアが叫んだ。

 

「危ない、シン!」


 何が?

 と、俺は疑問に思った。

 なぜならミーユとはまだ間合いを取っており、彼女は防御姿勢で後ろに剣を引いたままだ。

 しかし、その剣が白いオーラを帯び、ミーユが獲物を捕らえる寸前の肉食獣のような鋭い眼光を放っていることまでは気づいていなかった。

 

「王院流旋風剣、奥義! 飛翔(エンジェル)聖痕(スティグマータ)!」


 その一振りは、ただの一撃であるはずだった。

 

 しかし、俺の全身に、次々と斬撃が叩き込まれる。

 

「ぐっ!? な、なぜ?!」


 理解不能のまま、俺の体は後ろに吹っ飛んだ。


「シン様!」


「出たぞ、ミーユの大技!」

「あんな物まで出すとは、奴め、よほどの大物だったようだな」

「だが、あれを食らっちゃあ、生きちゃいないだろう」

「前にオークをまるごとミンチにしてたもんな」

「どうするんだ? ギルド内で死人を出すなんて」

「構うもんか、決闘は決闘だ」


 外野が好き勝手なことを言う。


「うるせえ、まだ死んでねえっての」


 体の節々が痛むが、それでも俺は立ち上がる。

 

「な、なんだと……! 不死身か!? 貴様!」


 驚いたミーユは確実に葬り去るつもりで今の攻撃を放ったようだ。

 殺意満々かよ。とんだ正義の味方騎士様だな。

 

「スーツに傷が! シン、続けるなら、ナイフで片を付けて!」


 アリアが言うが、そんな物を人間相手に使った日には、俺も殺人鬼の仲間入りだ。


「いいや、これでいく」


 剣をその場に捨て、俺は両手の拳を握りしめた。

 これなら遠慮無く殴れる。

 

「正気か! 野郎」

「剣を捨てやがった」

「魔法か!?」


「AI、次は食らうなよ」


「了解。先ほどの攻撃ですが、音速を超えた際に発生する衝撃波と予測。回避パターンを計算中……完了」


「よし!」


「次は外さん!」


 いや、全弾当たってたと思いますけどね。

 コンバットスーツの人工筋肉が銃声のような音を立てて地面を蹴り上げ、俺の視界にミーユが迫る。

 

「来い! 私の正義を邪魔する輩は、何人であろうと斬る!」


「そんなもの、正義であるわけが無い!」


 スーツの色が変わり、ステルスモードが起動したようだ。

 それを使うと、後でミーユがうるさいと思うが、もう止めようが無い。

 

 地面に這うような動きでミーユが飛ばす衝撃波をすべてかわしきった俺は、彼女の頬に全力で男女平等パンチを叩き込んだ。

 

「ぐっ! 一度見ただけで我が奥義を見切ったというのか……! ぐふっ」


 全力全開のコンバットスーツで殴ったというのに、死なない人間なんて初めて見た。

 ま、その辺の力加減はAIに任せていたから、最初から殺すつもりは無かったんだけども。

 

「か、勝ちやがった」

「Aランクのミーユが負けた、だと……?」


 唖然とする周囲をよそに、俺は笑顔でアリアとネリーのところへ戻った。

 

「やったわね! シン」

「さすがです、シン様!」


 当たり前だ。

 コンバットスーツは銀河宇宙同盟軍の対人白兵戦専用兵器だ。

 人間相手に負けるはずも無い。

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