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第五話 変態か、紳士か

 プラーク司祭が夜中、勝手にテントを抜け出した。

 まあ、夜中に(もよお)すこともあるだろうし、ちょっと外の様子が気になっただけかもしれない。


 俺は慌てずに、赤外線熱分布画像(サーモグラフィー)でテントの外を探る。

 

 プラークとおぼしき中肉中背の黄色の塊が、隣に設置してあるアリアのテントに一直線に向かって歩いている。


「おお、確かにここにあったはずだが、見えない? 不可視の魔術ですか、なんと高度な」


 プラーク司祭が驚きの声を上げた。

 今更だが、左腕の操作パネルをいじって、アリアのテントのステルスモードを切る。

 元が黒色のテントだから、闇夜で目がごまかされた、と思ってくれれば儲けものだ。

 

 彼はテントを見つけたようで、かがんでその入り口の布をはぐりにかかる。

 が、開けられない。

 この時代の人間にはジッパーの仕組みは一度見ただけでは使いこなせないようだ。

 

「んん? おお、これか」


 ようやくジッパーのつまみを見つけてジィーと開けていくが。

 

「はあっ!」


 中から気合いの声と共に、アリアがいきなり蹴りを繰り出してきた!

 

「おおっ!?」


 さすがにこれにはプラークも驚いたようで両腕での防御には成功したものの、勢いを殺しきれずにそのまま後ろに尻餅をついてしまった。

 それを見下ろすアリアが怖い顔で言う。

 

「何の真似かしら、プラーク司祭、事と次第によってはこの場で私があなたを断罪します」


 何もそんな厳しく行かなくてもいいのにと思うが、アリアにとっては女性三人だけの寝所に男が入り込んでくるだけで、許せないことなのだろう。そういえば、士官学校の女子寮に男子が忍び込もうとして、蓑虫のようにロープでぐるぐる巻で吊されていた事件が有ったが……その時の女子側の首謀者、俺今、分かっちゃったかも。

 

「やや、これはアリア殿、まずは落ち着いていただきたい。私はただ、アルマの様子が心配で、見に来ただけなのです」


「ええ? 私が護衛していますし、大丈夫ですよ。ほら」


「何事ですか、司祭プラーク」


 アルマが無事な姿を見せた。


「いやあ、お騒がせしてしまったようで申し訳ない。さすがはBランクの冒険者、夜の見張りも完璧でしたな」


「シン、あなたちゃんと見張ってたの?」


「見張ってたけど、何をするつもりなのかと思って」


「そこは普通に止めてよ」


「分かったよ。悪かった」


 プラーク司祭が苦笑しつつ、大人しく俺のテントに戻り毛布にくるまって横になる。

 いや、俺の毛布、取り過ぎでしょ。一枚しか無いんだから。ちょっと返せ!

 

「シンさん」


「なんだよ?」


「もうお気づきかもしれませんが、私はアルマのお目付役として、彼女が聖女になるずっと前から世話をしておるのです」


「そうか。娘みたいなものだと?」


「ええ、ええ、その通り。いやはや、まだまだ子供だと思っていましたが、あんな顔をされるとは、次からレディとして扱わねばまずいようですな」


「それがいいだろうな」


「一つ頼みがあります」


 プラーク司祭が神妙な顔になった。


「なんだ?」


「もし、道中に私に万が一のことがあるならば、アルマをよろしくお願いします」


「よせよ。そんな頼み事、会ってまだ日の浅い人間にするような話でもないだろう。それに、頼まれなくたって、アンタとアルマは俺が守ってやる」


「どうも。今、柄にも無くキュンと来ました」


「やめろ!」


 四角い顔の中年男に胸キュンされるとか、俺にそんな趣味は無いっての。

 俺は毛布を諦め、テントの端で眠ることにした。

 


 翌朝、俺はテントから出てきたアリアに言う。

 

「アリア、俺も次からそっちのテントにしてもらいたいんだが」


「だ、ダメよ。何言ってるの」


「そうなんだけどなあ」

 

「プラーク司祭と何かあったの?」


「胸キュンされた」


「は?」


「いや、何でも無いし、何かあったわけでも無い。気にしないでくれ」


「凄く気になるんだけど……まあいいわ。なるべく早くパデューヌの街に向かいましょう」


「ああ、それがいい」


 歩むペースを早めたが、アルマもネリーも割と平気な顔でついてきている。

 普段からこの時代の生活で鍛えられており、ナノマシン・タイプXを服用している現地人だからか、これなら遠慮など不要だったな。

 

 片眼スコープの力も借り、俺達は迷わず無事にパデューヌの街に辿り着くことができた。

 

「じゃ、さっそくポンスーレ男爵のところへ行くか」


「待って、シン。男爵に会うなら、身なりを整えておいた方がいいと思うの」


「そうか? こっちはタダの冒険者だぞ?」


 カンデラ街のギルドマスターや他の冒険者を思い浮かべるが、身なりがまともな人間の方が少なかった。

 

「そうだけど……」


 アリアは気にするようなので、俺が妥協することにした。

 

「分かったよ。じゃあ、会うのは明日にしよう」


「ありがとう」


「聖女様とプラーク司祭もそれでいいか?」


「ええ、我々はお三方のお供ですから、もちろんですよ」


「じゃ、決まりだ」


 俺も新しい服を買い、それなりに身なりを整えることにした。

 ただし、アリアとは同じ服屋には行かないぞ。買い物は手早く済ませたい。

 

 別行動を取って店を探すが、すぐにこの街の様子が気になってしまった。

 

「なんだ? 規模はカンデラ街より大きいのに、人通りが少ないな……」


 念のため、片眼スコープで街をスキャンしておく。

 

「魔物はいないみたいだな……まあいいか」


 翌日、ポンスーレ男爵のお屋敷に五人そろって向かったが、こちらは随分と立派な豪邸だった。


「わあ、バラの庭園なんて、私、久しぶりだわ。実家に戻ったとき以来ね」


 アリアが少し喜んだ。

 

「実家にはあまり立ち寄らないのか?」


「そうね。元々、私、お母様に軍人になるのを反対されていたのよ」


「なるほど、それでか」


「ええ。今頃、どうしてるかしら……」


 音信不通となったからには彼女の両親も当然、心配してるだろう。

 俺の両親も。ただ、父も母も俺の進路については反対しなかった。

 

「ま、戻ったら真っ先に連絡を入れないとな」


「そうね!」


 アリアも明るく笑顔で応じた。ここであれこれ気に病んでも仕方の無いことだ。

   

 豪華な調度品に囲まれた応接間でかなり長い時間待たされた後、ようやくポンスーレ男爵が顔を見せた。

 

「ああいや、座ったままで結構だ」


 俺達が立ち上がろうとすると、男爵が気さくな優しい笑顔で言った。立派な絹服にすらりとした長身を包み、身だしなみもきちんと整えている。

 

「私の想像と全然違うわ……」


「俺もだ」


 ポンスーレと言うから小太りのピエロを想像してしまっていたのだが、そこは反省しないとな。

 だいたい、「冒険者に褒美を出す」と日頃から気を遣うほどの人物だ。まともで無い方がおかしい。

 

「ギルドマスターの手紙は読ませてもらった。君たちも『大発生』に巻き込まれるとは、災難だったね」


「はい、正直、あれほどの魔物が襲ってくるとは思いもしませんでした」


 俺は思ったままの感想を言う。

 

「千頭以上のダイアウルフなど、一度に襲ってこられたらこの街だって危ういだろう。よく持ちこたえてくれた」


「はい、ああいえ、こちらの『聖女様』のお力添えがあってこそですので」


 俺達銀河同盟の軍人が目立たないためにも、聖女アルマを持ち上げておく。

 

「うむ。かの有名な『アノンの聖女』が駆けつけてくださるとは、まさに天のお導き。神に感謝せねばなるまいな」


「よいお心がけかと存じます」


 プラーク司祭が聖職者らしく控えめな笑顔で頷く。

 

「ところで、シン。『オーガ・ロード』を易々と切り裂いたというそのナイフ、見せてはくれまいか」


 ポンスーレ男爵が笑みを浮かべたまま、そう言った。

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