第三話 報告
「ここの領主、ポンスーレ男爵様が『大発生』を抑え込んだお前達に褒美を出すそうだ。南の街パデューヌにいらっしゃるから、会って褒美をもらってこい」
ギルドマスターが言う。
「ええ?」
褒美をもらえるのはありがたいが、わざわざこちらからもらいに行かないといけないようだ。
ちょっと面倒くさいな。
しかもポンスーレって、名前がもうね。
「大発生はここの冒険者がみんなで抑え込んだようなものだから、遠慮させていただく……というのはどうかしら?」
アリアも俺と同じ気持ちなのか、若干引き気味で言う。
「何を言う。ギルドマスターのこのオレ様がお前達を推薦してるんだ。すでに男爵様とは話もついているし、断ったら向こうが気を悪くするだろうが」
「ちなみに、パドゥーヌの街はここから何日くらいですか?」
聞いてみる。
「歩きなら十日だな」
結構遠いな。
「でも待って。往復二十日もかかるような遠くの相手と、今回の褒美の一件、どうやって話し合ったと言うの? まだあれから二日しか経っていないのに」
アリアが疑問を述べたが、そういえば不思議だ。
「それはな、前々から男爵様には、この街で活躍した冒険者に褒美を出すからという話になってたんだ。今回の一件、報告はまた詳しくオレが手紙で送るつもりだが、一足先にお前達が報告に行ってくれ」
通信が無い時代はやはり、人が動いて情報を伝えないと行けないようだ。
これが現代文明の主星ファジスならホログラム通信でお金も一緒に振り込んでもらって一発で済むというのに。
「まあまあ、いいじゃありませんか。領主から褒美をもらうなど、冒険者にとっては誉れですし」
ニコニコ顔のプラーク司祭が、勝手に話を進めようとする。
「俺達は、褒美のために戦ったわけじゃありません」
なので、そこははっきりと言っておく。
街を守ったのは、あくまで銀河宇宙同盟軍兵士としての行動だからだ。
「けっ、冒険者が報酬ももらわねえでどうしようってんだ。いいから会って金をもらってこい。でないとギルドの看板とオレの顔に泥を塗ったってことで、タダじゃ済まさねえぞ?」
そこで、ずいと凄んでくるギルドマスターも話が通じない感じだ。
「仕方ない。じゃあ、報告だけしてきますよ」「そうね」
俺とアリアは肩をすくめて同意した。ネリーも俺の横で一層縮こまってしまっているが、ごめんな、ここは相手が悪かった。
「よし、それでいい。で、聖女様はこれからどうするんだ? この街にしばらく滞在するのか?」
ギルドマスターが司祭ペアに聞く。
「いえ、せっかくですし、我々もポンスーレ男爵にご挨拶しておこうかと」
プラーク司祭が笑顔で答えた。
「ふうん? ま、そりゃ好きにすれば良いが」
「もちろん、お二方の褒美を横取りしたりはしませんよ」
「当たり前だ」
ギルドマスターもプラーク司祭の冗談には笑えなかったようで顔をしかめながら言った。
「そういうわけで、シンさん、アリアさん、パデューヌまで我々と一緒に参りましょう」
「それは構わないが……」「ええ……」
俺もアリアも、この司祭が何を目的にしているのか今ひとつ分からないので気の乗らない返事になってしまった。
「あっ、皆さんよろしくお願いしますね」
プラーク司祭の視線に気づいて、聖女アルマが笑顔になる。
ちょっと抜けている聖女様なのか、それともただの操り人形なのか……まあ、それはどっちだっていい。俺達には関係が無いことだ。
アルマの歳は俺達より下だが、ネリーよりは年上だろう。十五歳くらいに見えるが、俺は他人の年齢を判断するのは苦手なので当てにならない。ただ、流れるような水色の長髪と立派な白衣に身を包み、黙って微笑んでいれば、なるほど『聖女』と呼ばれてもおかしくは無い雰囲気だ。
プラーク司祭と話し合い、その日のうちにパデューヌの街へ向けて俺達一行は出発した。
徒歩である。
本当は何か乗り物が欲しかったのだが、街の馬が軒並みダイアウルフの餌食になってしまっており、馬車を引く馬がいないのでは仕方が無かった。
リリアンにも確認を取ったが、大発生は一度静まってしまえば、また十年以上は何も起きないそうだ。
そこだけは安心だ。この街の人達の妙な明るさは、その事を知っていたからかもしれない。
「じゃ、またな! シン! アリア!」
共に街を守り、狼と戦った冒険者『疾風』のラドと固く握手を交わし、俺達はカンデラの街を後にした。リリアンや他の者にも告げているが、俺達は領主と会った後はそのまま王都へ向かうつもりなので、もうここに戻ってくることは無いだろう。
「受付のリリアンさん、良い人だったわね。親切で」
アリアが微笑んで言う。
「ああ。冒険者も悪くないかもな」
「任務のこと、忘れないでよ?」
「分かってるって」
『なんとしてもこの星で宇宙船を見つけ、本国へ敵の新型兵器の情報を持ち帰ること』
それが銀河宇宙同盟軍としての俺達の任務だ。
……ただ、敵の襲来については、すでにファジスの司令部でも察知している頃だろう。
一刻も早くと言いたいところだが、焦ったところでどうしようもない。
それどころか、ここには危険な魔物も多く存在し、一瞬の油断が命取りになりかねない。
ここは慎重に行くべきだ。
「気を引き締めていこう」
「ええ」
俺とアリアは頷き合って、周囲を警戒しつつ道を進んだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
俺達はカンデラの街から街道を南へと進んでいる。
司祭プラークの話では、王都は西だが、パデューヌの街はやや東よりにあるそうで、少し方向が逆だ。
とはいえ、おっかないギルドマスターに追っ手を差し向けられても敵わないので、俺達は大人しくパデューヌの街へ向かっている。
「気をつけて下さい! 『軍隊蟻』は仲間を呼びます! 早めに倒さないと!」
プラーク司祭が錫杖を両手で振り回しながら言う。
彼が普段の笑顔で言わないのは、それだけ余裕が無いからだろう。
チッ、厄介だな。
途中、何度となくモンスターと遭遇してしまい、こうして戦闘になっている。
体長二メートルにも及ぶ人間より大きな蟻など、見るからに恐怖感が先に立ってしまうが、ここの現地人達は怯むこと無く立ち向かっていく。ネリーも自前のナイフで果敢に斬りかかろうとしたので、さすがにやめさせた。
戦うのは俺達兵士の役目だ。
「くそっ、固いな、こいつら」
剣で斬りかかったが、しかし甲殻に弾かれてしまい、ダメージが与えられない。
「ナイフを使って!」
アリアがそう言ってお手本のように『単分子高周波ブレードナイフ』で易々と切り裂く。
たとえ相手が金属であろうと、このナイフの刃は鋭い切れ味を見せてくれる。
その仕組みは、刃の先端が一つの原子として振る舞う分子で構成されているため、史上最高の薄さと固さを備えている――だったかな。さらに、電動で高周波を刃先に流すので、この世に切れない物など無い。
「おお、何という、すさまじい切れ味!」
プラーク司祭が目を見張るのが小気味良いが、あまりこの武器に注目してもらっても困るんだよな。
宇宙保護条約で、『原始文明』への干渉は禁じられている。
ここでいう原始文明とは、ワープ装置を持っていない文明のことだ。
今のところ、俺達はこの惑星のことを原始文明と判断している。
しかし、今は戦闘中だ。
細かいことを気にしてはいられない。




